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食事を終え、女性職員から貰ったお茶も飲み終えた後のこと。
「──なぁ、山吹。今日は二人で運動をしないか?」
食器の片付けを終えてから、桃枝は山吹にそんな提案をしていた。
ソファに座る桃枝の隣に腰を下ろした途端、まさかそんなことを提案されるとは。山吹は目を丸くしながら、隣に座る桃枝を見つめた。
「運動ですか? 課長と、二人で?」
小首を傾げる山吹の両肩を、桃枝はガシッと鷲塚む。
それから桃枝は、キッと鋭くも真剣な眼差しで山吹を見つめた。
「あぁ、そうだ。二人で汗をかこう。なっ? いいだろ、緋花?」
「はうっ。威圧的でほとんど強要じみているのに同意を求めているスタンスの白菊さん、ステキです……っ」
相変わらずツボが分からないが、とにもかくにも同意は得られたようだ。桃枝は内心で、ガッツポーズをする。
「それじゃあ、早速始めるぞ。先ずはストレッチだな」
「分かりましたっ。運動は不得意ですが、頑張りますっ」
なんにでも全力で取り組む姿が、愛らしい。自分で蒔いた種だというのに、山吹への好感度がギュンと上がってしまう。
……しかし、今回はただ『健康的に運動をしよう』ということだけが目的なわけではなかった。
ソファからいそいそと下りる山吹には言えないが、この【運動】には秘められた目的があるのだ。
──そう。山吹の体力を削り、今晩のセックスを穏便にスキップするという目的だ。
どう拒否をしても山吹を傷つけてしまいそうで、そもそもそれ以前に山吹からの誘いを桃枝が断れるわけがない。
ならば、初めからセックスへの流れを作らなければいいだけのこと。桃枝はこの運動に、そこまでの情熱を注いでいた。
「ストレッチと言えば、前屈でしょうか? 脚を伸ばして、前にぐい~っと倒れますね」
「なら、俺がお前の背中を押す」
「お願いします」
桃枝の目的を全く知らない山吹は、どうやらかなり乗り気らしい。早速、ストレッチの姿勢を整えていた。
床に座った山吹の背を、桃枝が押す。つまり、前屈だ。
……すると。
「──あっ、ん、んぅ……っ」
山吹が、呻き始めた。……どこか、艶っぽく。
もう一度、山吹の背を押す。そうすると、またしても山吹が声を漏らした。
「はっ、はぁ……あ、っ。……ん、ぅ」
「……オイ、山吹」
「ごめんな、さい。少し、苦しくて……ん、ぅ」
……なんだ。
なんだ、この空気は。
ただ、山吹の背を押してストレッチを手伝っているだけなのに。
「やっ、らめ……っ。課長、そんな……強引に、押し込まないでぇ……っ」
山吹が、妙に色っぽい声を出すではないか。
すぐに桃枝は、山吹に向けて疑問を投げた。
「お前のそれはわざとか?」
「真剣に、やって──ん、ッ」
「く、そ……ッ」
簡潔に言おう。……エロい。エロすぎる。
山吹本人が『真剣』と言うのなら、水を差すようなことはできない。桃枝はツッコミを入れたくなる気持ちをどうにか押し殺し、山吹のストレッチを手伝った。
……それから、数十分後。ストレッチのような、筋トレのような。とにかく、運動が終了した。
体が硬いのか、体力がないのか……山吹の息が、切れている。思っていたものとは違うが、とにもかくにも目的は達成されたらしい。
これで、山吹の体力も削られて──。
「──さぁ、白菊さん。入念な準備運動を済ませたボクの体は、どんな体位でもへっちゃらです。だから、そのっ、今日は白菊さんの好きな体位で、メチャクチャに抱いてください……っ」
……否。
作戦は、失敗した。
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