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 ちなみに、後日。 「非の打ち所がないほど完璧な文書だな。俺が手を施す必要はねぇか。……なぁ。時間があるならでいいんだが、次は、部課長会議に使う資料作成を手伝ってくれないか?」 「えッ! あっ、ありがとうございますッ! そんなに大事な資料の作成も任せていただけるなんて、光栄です! 喜んでッ!」 「この前分けてくれた茶、うまかった。どうも。またなにかオススメがあったら、教えてくれ。……俺は好き嫌いがないから、なんでも気兼ねなく布教してほしい」 「もっ、勿論ですよっ! 新商品のチェックは趣味なんですっ! お任せくださいっ!」 「今からどこか行くのか? それなら、悪いがこの文書を各課に回覧してくれねぇか。その間に、お前がやった仕事の確認をしておきたい。……ついでの範疇を超えていたら、悪いんだが」 「そっ、そんなことはありませんっ! いくらでもこの足を使ってやってください! 全ての課へ確実にお届けします!」  桃枝は、部下とのコミュニケーションを可能な限り積極的に取るようになった。  声を掛けられた部下たちは一瞬だけ驚いたものの、全員、とにかく嬉しそうだ。  例え、内容が【頼み事オンリー】だとしても。あの桃枝が頼ってくれていると思えば、嬉しいに決まっている。全員、そんな顔をしていた。  山吹が言う通り、部下からの信頼がいつの間にか厚くなっていたのは事実らしい。気恥ずかしさや、申し訳なさや、その他諸々……。桃枝は言葉にできない気持ちを抱えつつ、それでもどこか、嬉しさが勝っていた。  ……さらに、ちなみに。桃枝が積極的に他者との交流を取るようになってから、山吹はと言うと。 「課長、また他の人に頼ってました。課長が他者との交流に積極的なのは人間関係の先生として嬉しいですけど、恋人としては面白くないです……」  当然ながら、不機嫌だった。  本日だけで桃枝は、沢山の部下と交流を取っていたのだ。ヤキモチ焼きの山吹が『面白くない』と言ってしまうのは、想定内だろう。  リビングのソファでプンプンと拗ねる山吹に近付き、桃枝は手を伸ばした。 「俺がプライベートで頼るのは、お前だけだ。こう見えて、俺はかなりお前に甘えているぞ」  後れ毛に触れ、口元に運んでキスをする。  どこか慣れたような手つきにも拗ねながら、しかし山吹は律儀に顔を赤らめて、桃枝をジロリと睨む。 「例えば、なんです?」  目に見えて、山吹がソワソワしている。ここで『お前は本当に可愛いな』と言えば喜ばれつつもへそを曲げられると直感した桃枝は、素直に問いへ答えることとした。 「お前が作ってくれた弁当がある日とない日じゃ、俺のテンションが全く違う。いつもありがとな。苦労をかけて悪いとは思うが、正直に言うと小躍りしそうなほど毎日が幸せだ」 「まったくもう、口が達者になりましたね。……えへへっ」  パーフェクトコミュニケーション。山吹の機嫌はコロリと全快した。  なにはともあれ、山吹と和解をした。今の話題だけではなく、数日間燻っていたすれ違いも込みで、だ。  山吹の不安を解消し、桃枝の悩みも解決した。まさに二人は、今度こそ理想的で誰もが羨む恋人同士になれた、と。桃枝は、そう思いたかった。  ……新たな悩みさえ、度外視できれば。

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