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 確かに、山吹と和解をした。……した、のだが。 「でも、苦手なことなのに積極的に克服しようとする真面目な白菊さんも、ボクは好きです」  好意を伝えながらムギュッと、山吹はソファに座ったまま桃枝に抱き着いた。 「好きです、白菊さん。大好きですっ」  あの夜から、山吹のスキンシップは過激になった気がする。だがそれは、腕にくっついたりキスをしたり抱き着いたりと、実にピュアなもの。  どうやら山吹は、こうした触れ合いが嬉しくて楽しくて仕方なくなったらしい。桃枝が言ったように『くっついているだけで幸せ』と、山吹も感じるようになったのだ。  ハグをしながら、桃枝の体にスリスリと額を寄せている。立ったままの桃枝は両手を山吹に回すこともできずに、カチンと体を固まらせてしまった。 「……っ。……ひ、緋花っ」  勇気を出して、桃枝は山吹の肩に手を伸ばそうとする。  だが、その直前──。 「──満足しましたっ。さぁ、寝る準備をしましょうかっ」 「──へっ?」  山吹がパッと、桃枝から体を離したのだ。 「さぁ、寝室に行きますよっ。夜更かしは健康と美容の大敵ですからねっ」 「あ、あぁ。そう、だな?」 「明日の朝食も期待していてくださいね? お弁当も、白菊さんが大喜びしちゃうようなものを作りますからっ」 「そ、そうか。それは楽しみ、だな?」  今までの【夜更かし上等、セックス万歳】と掲げる勢いの精神はどこへいったのか。山吹は桃枝の手を引き、移動を始めた。  そのまま二人は寝室に移動し、同じベッドで横になる。すると山吹は桃枝の腕にぴったりと寄り添い、幸せそうな微笑みを浮かべた。 「白菊さん、今日も大好きです」 「そ、そうか。俺も、お前が大好きだぞ」  微笑みを浮かべた山吹の顔が、そっと近付く。  これはもしや、夜の営みへの布石なのでは。桃枝はギュッと強く、目を閉じた。  ……閉じた、のだが。 「おやすみなさい、白菊さんっ」 「へっ? ……あ、あぁ。おやすみ、緋花」  ほっぺに、ちょんっと。実に可愛らしい、控えめなキス。  腕にくっついたまま挨拶を送り、山吹は瞳を閉じる。そして数分後、か細い寝息が聞こえてきたところを見るに……山吹はぐっすりと眠ったらしい。  桃枝発信とは言え、恋人がピュアなスキンシップを気に入ってくれたのは、喜ばしいことだろう。桃枝の気持ちに、偽りはない。  だが、こうして密着したまま可愛い言動を何度も見せられて、桃枝はと言うと……。 「──これが、生殺しってやつか……!」  欲情していた。それはもう強く、強く。  あれだけ性欲全開だった山吹が大人しくなったというのに、むしろ今は桃枝の方がムラムラしている、なんて。いったいどのタイミングで、山吹に伝えたらいいのだろうか。  ここで手を出せば、今度こそ山吹に『ケダモノですか?』と引かれる可能性がある。むしろ、前よりも増したようにさえ思えた。  だが、待ちの姿勢でい続けるのもそれはそれで違う気がする。桃枝は音を出さずに悩み、悩んで、悩みまくった後……。 「課題は山積みだな……」  それはそれは幸せそうに眠っている山吹を見て、桃枝は音を出さずに、重いため息を吐いた。 12章【明日ありと思う心の仇桜】 了

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