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苦しい言い訳だ。山吹の態度を見れば、さすがの桃枝でも『今の発言は嘘だ』と分かるだろう。
だが不思議なことに、桃枝の論点は見事にズレた。
「正直な話、お前がそこまで青梅を邪険にする理由が俺にはよく分からないんだが」
まさか、そんな言葉を返されるとは。想定していなかった相槌に、山吹は一瞬だけ驚いてしまう。
だが、この話題を振ったのは自分だ。山吹は俯いたまま、桃枝が抱く疑問に対する答えを口にした。
「……確かに、青梅はボクのために色々してくれました。だけど、当時のボクはそれ自体も信じられなくて、怖くて、不可解だから不愉快だったんです」
「そうか」
「今でもボクは、アイツの言動を全て理解できているわけではありません。だけど、今さら態度を変えるのは……なんと言いますか、お互いにとって変な話だと思いますから」
「そうか」
会話が、終わる。だが、今の会話では山吹が伝えたいことの一割も告げられていない。
「えっと、課長。その、ボク……」
山吹は、エプロンの裾を強く握る。それから、桃枝に向かって頭を下げた。
「ごめんなさい。メッセージの返信、何時間もできなくて……」
「別にそれはいいんだが、なにかあったのか?」
「なに、か……?」
桃枝にとって重要なのは、返信の有無ではない。
桃枝にとって最も大切なのは、山吹だけ。返信が無いことではなく、桃枝は【返信できなかった山吹】が気になるのだ。
そう伝わり、山吹はまたしても俯いてしまう。
「なん、でしょう。なにか、あったのでしょうか……?」
「……山吹?」
「分からなく、なってしまって。自分が、どう振る舞えばいいのか」
桃枝のことが好きで好きで、たまらない。だから嫌われたくなくて、好かれていたくて。可能であればさらに、好きになってもらいたい。
だが、山吹は考えてしまう。『なにもない自分を?』と。『あれだけ桃枝のことを傷付けた自分が、今さらなにを』と、考えてしまうのだ。
そもそも桃枝の中で、山吹への好感度は告白をされた時より下がっている可能性だって……。考えれば考えるほど、山吹は不安な気持ちを加速させてしまう。
「……っ」
これ以上、言葉が出てこない。発言を繰り返せば繰り返すほど、悪い方向に話が──桃枝の気持ちが進んでしまいそうだから。
臆病ゆえに俯く山吹を見て、桃枝はどう思っただろう。顔を上げれば分かることなのに、それすらも怖い。だから山吹は、確認ができない。
すると、表情を確認するよりも先に、桃枝から言葉が送られた。
「──返事をしたくないのも、返したい言葉が上手に出てこないのも、全部がお前の気持ちだ。だったら俺は待てるし、いっそ無くたっていい。無理して返事なんか打たなくていいし、逆に返したい言葉がまとまらなくて乱文でもいいんだよ」
あまりにも、優しい言葉を。
「お前との時間なら、なんだって嬉しい。そのくらい、俺はお前にゾッコンだからな」
「課長……」
じわ、と。山吹の視界が、込み上げる涙によって滲む。
こんなに優しい人を相手に、どうしてこんなにも不安になってしまうのか。己の弱さや不甲斐なさをより強く痛感し、山吹はスンと鼻を鳴らしてしまった。
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