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山吹の腕を掴んでいた桃枝の手は今、山吹の後孔を弄っている。
「らしくないな、緋花。緊張してるのか?」
うつ伏せにした恋人に触れながら、桃枝は訊ねた。
そう訊ねたのには、根拠がある。……山吹はうつ伏せになってからずっと、枕を抱いて体を強張らせているのだ。
嫌がっているわけでは、ない。枕に顔を押し付けている山吹からは、くぐもってはいるものの甘い吐息が零れている。
「少し、緊張……してるかも、です、っ」
「そうか。……指を増やしても、問題はないか」
「嬉しい、です」
「そ、そうか」
緊張はしているが、やはり嫌がってはいない。山吹は期待を込めた声で答えると、ほんの少し脚を開いた。
「あ、ぅ……っ。白菊さんの指、気持ちいぃ、っ」
桃枝が指を動かし、くぷ、と、音が鳴る。山吹はその音にすら反応するかのように、ぴくぴくと体を震わせた。
挿入する指の本数を、一本から二本へ。……山吹の反応を見て、三本へと増やす。山吹の様子をつぶさに観察しながら、桃枝は訊ねた。
「痛くないか?」
「ん、っ」
「そうか。なによりだ」
頷いた山吹を見て、桃枝は山吹の体の準備を進めていく。
何度こういった行為を重ねても、慣れはきそうにない。体を震わせながら吐息を漏らす山吹を見て、桃枝はむしろ真新しい気持ちすら抱きそうだ。
それでも、止めたくない。山吹が悦ぶポイントを指で刺激しながら、桃枝は山吹の頭に顔を寄せる。
「そろそろ挿れたいんだが、いいか?」
「……っ」
耳が、赤くなった。山吹は恥ずかしそうにしたまま、イエスともノーとも答えない。
それでも桃枝は指を動かして、山吹に囁き続ける。
「まぁ、今さら『やめて』って言っても、遅いけどな」
付け足された言葉を受けて、山吹がそろっと桃枝を振り返った。
濡れた瞳で桃枝を見つめ、山吹はどこか艶っぽい唇を動かす。それから、桃枝が衝撃を受けるような言葉を呟いた。
「──や、めて……くだ、さい」
「──っ!」
実際に『やめて』と言われると、素直にやめてあげたくなる。山吹の返事を受けた桃枝は、動きをピタリと止めてしまう。
「……嫌になった、のか?」
肯定されると困るくせに、桃枝は恐る恐るといった様子を隠すこともできないまま訊ねた。
山吹は一度、瞳を桃枝から逸らす。
「そうじゃ、なくて……」
「なら、どういう意味だ?」
だが、山吹が口にしたのは桃枝が思っているような意味の言葉ではなかったようで──。
「──初めて、白菊さんから誘ってもらえたから。だから、向かい合って……白菊さんの顔を見て、エッチしたいです……っ」
答えを聴くと同時に、桃枝は山吹をムギュッと強く抱き締める。
突然抱き締められた理由が分からない山吹は、火が出そうなほど顔を赤らめた。
「ふぇっ? しっ、白菊さんっ?」
「ちょっと、あれだ。愛おしさと言うか、そんな感じのアレがソレで、こうなった」
「いつも以上にザンネンな語彙力ですね……?」
体を硬直させながら「でも、白菊さんの硬いの当たって、嬉しいです……」と呟くくらいには、通常の山吹だったが。
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