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ベッドの、軋む音。
二人の、粗い呼吸。
何度も何度も喘ぎながら、山吹は現状を脳裏に焼き付けようとした。
桃枝に、こんなにも愛されている。見つめたら見つめ返され、求めれば求めるほど、応じてくれた。
自分は、自分自身ですらどうしようもないほど、桃枝を愛している。キスをされたらキスを返し、求められれば求められるほど、嬉しくなった。
自分は今、誰かを──桃枝を、愛している。この現実に、山吹は涙が出そうだった。
この【愛】が、正しいのかどうかは分からない。少なくとも山吹の両親からすると、理解に苦しむ関係なのだろう。
それでも、山吹は『間違っている』とは思わない。そう、桃枝が教えてくれたから。
人が人を愛する方法は、千差万別。両親と違っても、周りの誰と違っても、山吹はもう気にしない。
「白菊さん、大好きです。大好き、です、っ」
「あぁ、俺もだ。愛してるぞ、緋花」
想いを伝え合っている間も、桃枝は動きを止めなかった。
どこか、獣のように。桃枝は山吹の体を犯し、互いの快楽を貪る。
桃枝は眉を寄せて、快感に喘ぐ山吹を睨むように見つめた。
「クソッ。腰を、止めてやれねぇ……ッ」
実に、らしくない。桃枝が山吹の身を案じていてもなお、自分の欲望を律することができないなんて。
「あっ、ん! 止めないで、くださいっ。このまま、もっとぉ、っ」
それが嬉しいのだから、山吹だってどうかしている。
強請るように桃枝を許した後、山吹は桃枝の瞳を見つめ返す。それからゆるりと、瞳を細めた。
「もしかして、ガマンの限界ですか、っ? ……ふふっ。なんちゃ──」
「──あぁ、そうだ」
間髪容れずに、桃枝は肯定する。
「お前のナカに出したくて、堪らない……ッ」
心のどこかで、山吹は考えていたのかもしれない。
今晩こうして桃枝が誘ってくれたのは、以前、山吹が泣いてしまったからなのか。……なんて、栓無きことを。
今になってようやく、山吹はその危惧を振り払うことができたらしい。
「お願いだ、緋花」
名前を呼ばれ、手を握られ、瞳を見つめ合ったからこそ。山吹には、伝わったのだから。
「──このままもっと、俺を好きになってくれ」
きゅぅ、と。胸が、締め付けられる。見つめる先に在る桃枝の顔が、真剣そのものだからだ。
山吹は泣いてしまいそうなほど、胸をいっぱいにしてしまう。……それでも、山吹は微笑んだ。
「頼まれなくたって、ボクはそうしますよ。もう、そういう男になっちゃったんですからね」
「緋花……」
「ボクは白菊さんに対して、責任を取ります。だから──と言うのも、変ですけど」
言葉を区切った後、山吹は桃枝にキスをした。
そして、やはり山吹は微笑むのだ。
「──白菊さんも……ボクに責任、取ってください」
ピタリ、と。一度、桃枝が動きを止める。
それは山吹からのキスに驚いたのか、笑顔か、言葉か。山吹には答えが分からない。
しかし、分からなくたって良いのだ。
「言うまでもねぇよ。俺は一生をかけて、お前を大切にするんだからな」
「ふふっ。白菊さんは相変わらずですね? 一生は重たいですよ?」
「足りないくらいだろ」
「変な白菊さん」
言葉を交えて、もう一度キスをして。それから再度、桃枝は山吹の体を揺すり始めた。
「あぅ、白菊さんっ。ボクも、もう……っ」
「そうか。お揃いだな」
「もう、白菊さんの……ばかっ」
気持ちや、プレゼントや、指輪や、未来。桃枝からは大切なものを貰ってばかりだ。
それらが全て、桃枝の幸福にも繋がっていたのだとしたら……。互いの熱を感じながら、山吹は照れ隠しのようにらしくないことを考えた。
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