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番外編① : 5

 短冊に書き、星が叶えてくれるようなものではない。そんな奇跡に頼らなくたって、山吹の願いは叶うはずだった。  ただ、誰かと一緒に夏祭りに。両親の異常さにより友達はできず、頼みの両親も行きたがらなかった夏祭りを、今日だけで何度思い出すのだろう。山吹の表情は、徐々に硬化していった。  このままでは、桃枝に心配をかけてしまう。慌てて山吹は、別の話題を振ろうとして──。 「なぁ、山吹。……変なことを言ってもいいか?」  桃枝から振られた話題に、小首を傾げた。 「もう既に、その発言が変ですけど。……えっと、どうぞ?」  いったい、どうしたのだろう。桃枝らしくない話題の導入を訝しみつつ、山吹は続く言葉を待った。  そして、桃枝は……。 「──夏祭りに、同伴されてくれないか」  山吹の胸を射貫くような言葉を、どこか気まずそうな様子で告げた。 「実は、その、なんだ。……行ったことが、ないんだ。地元以外の、祭りに。かと言って、俺みたいな奴が一人で行くのも変だろ。だが『興味がない』と言えば嘘になる。気にはなってたんだが、いかんせん一人で行く勇気はなくてだな……」  ポツポツと、言い訳じみた弁明。不必要な装飾を言葉で何度も施した後、桃枝は気まずさを誤魔化すようにウーロン茶を一気飲みした。  咄嗟に、言葉が返せない。山吹は手にした箸をキュッと握り直し、ぎこちないながらもなんとか笑みを浮かべる。 「確かに課長は、一人で祭りをエンジョイするような風貌ではありませんね」 「自分で言うのはまだいいが、ハッキリと誰かに言われるのはこう、モヤッとするな」  どうしよう、と。何度も何度も、山吹の思考にそんな言葉が介入した。  まさかこの年になって、誰かから夏祭りに誘われるなんて。あの日以来、一度だって寄り付かなかった場所にまた行くことになるとは。  ──なによりも、こんなことにここまで浮かれてしまうなんて。 「勿論、お前が乗り気じゃないならいい。無理に連れ回すような場所でもねぇし、そもそも俺と行くのは──」 「ちょっと、課長。なんで、そんな中途半端な誘い方するんですか」  余韻にくらい浸らせてほしい。決して口にはしないが、山吹の本心だ。 「『行きたくない』なんて、ボクは言ってません。ちょっと驚いてしまっただけじゃないですか。結論を急がないでください。そういうところ、どうかと思いますよ」 「なんで俺は部下に人間性を否定されてるんだ? こう見えて、俺なりに気を遣ったつもりなんだが?」 「あと、正直『同伴』って誘い方はオジサンくさいですよ」 「本気の駄目出しは結構刺さるんだが」  温厚な山吹を怒らせてしまった、と。桃枝は確実に、そう思っているに違いない。  だが、違う。山吹は唇を尖らせ、口調が普段よりキツくはなっているが……決して、怒ってはいなかった。 「とにかく、イヤじゃないです。ボクだって一度しか行ったことないので、案内とかはできませんが……それでもいいなら、同伴してあげますよ」 「案内なんて要らねぇよ。どんな感じなのか見てみたいだけだからな」 「えっ。……ボクは、ちゃんとじっくり見て回りたいのですが……」 「ん? 山吹? 今、なにか言っ──」 「──なんでもないですっ!」  ただの、照れ隠し。桃枝が想定している以上に、山吹の心がソワソワと浮足立っているなんて。……山吹は絶対、桃枝に知られたくなかった。

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