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番外編②【深い川は静かに流れる】 1

※二人の関係性は8章以降です。  紆余曲折あり、山吹はついに【自分の本当の気持ち】に向き合った。  それから、数日後。ある日の仕事中だ。 「さて、と! よぉ~しっ、運ぶわよぉ~っ!」  山吹は会社の通路を歩いていると、一人の女性職員が気合いを入れている姿を目撃した。  あの女性職員には、見覚えがある。一度寝た相手だという以前に、同じ課の職員だからだ。  山吹は管理課の事務所へ戻るための足を止め、妙に気合十分な女性職員を見た。  女性職員の足元には、段ボール箱がふたつ。先ほどのセルフ鼓舞を聞くに、どうやら女性職員はあの箱をどこかへ運ぶ途中らしい。  重たげな箱を、運ぶということは。……十中八九、行き先は書庫だろう。 「遠目から見るだけでも、重たそうな箱だなぁ」  あんな細腕で、二箱も運ぶとは。しかも、行き先の書庫は残念ながら階段を上がらないと辿り着かない。  山吹は爪先の向きを、キュッと音を立てて変える。 「これ、どこまで運べばいいんですか?」 「えっ? あっ、ブッキー君っ?」  女性職員が通路に置いていた荷物を、山吹はヒョイと持ち上げた。 「えぇっ! それ、二箱も同時に持てるのっ? ブッキー君、私よりも小さいのにっ!」 「別にボク、か弱い路線で売っているわけではありませんよ。小さかろうが弱そうに見えようが、ボクだって男なので」  同時に二箱持ち上げた後、山吹は女性職員を見る。 「それで? これは書庫でいいんですか?」 「あっ、う、うん……。そうだけど、頼んじゃってもいいのかしら?」 「もう持ち上げちゃいましたし、女の子にこんな重たい物を持たせられないですよ」 「はうっ! 可愛い年下男の子が見せる雄々しさっ! 控えめに言ってキュンよっ、キュン!」 「喜んでいただけてなによりですーっ」  とにもかくにも、女性職員から段ボール箱を受け取ることに成功したらしい。山吹は目的地の確認をし、それから書庫の鍵を受け取った。 「ごめんね、ブッキー君。お礼に、後で好きな飲み物奢るからっ」 「それじゃあお言葉に甘えて、緑茶をお願いします。ボクが戻るときにはデスクにあると助かります」 「ちゃっかり受け取り時間も指定しちゃうブッキー君も嫌いじゃないわっ!」 「なによりですーっ」  よく分からない褒め言葉を受け取り、山吹は女性職員を見送る。  それから、ふと。 「……さて、と」  持ち上げた箱を一度、通路に置き直した。 「とりあえず、騙せたかな」  一度に軽々と持ち上げてみたが、それが限界。この重さを一度で持ち運び、ましてや階段を上がるなんて不可能だ。  余裕さのアピールは、大袈裟なパフォーマンス。二箱あるが、いくら生物学上は男と言えど、非力な山吹では一箱ずつ運ぶのが限界だ。  それでも、女性に持たせるなんて不愉快だった。誰がこんな指示を送ったのかは知らないが、もしも男だったら嫌味のひとつでも言ってやろう。 「……よしっ、やるぞ」  ふたつの決意を固めた山吹は、気合いを入れて段ボール箱に手を伸ばした。  だが、その時。 「──貸せ」  通路に置いていた箱が二箱とも、同時に持ち上げられたではないか。

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