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番外編② : 6 *

 スーツを脱がされ、床の上で組み敷かれて。 「ん、ふふっ。課長、赤ちゃんみたいですよ? ……ん、っ」  山吹は愛しい人と繋がりながら、甘い声を漏らしていた。  山吹の胸に顔を埋めた桃枝が、山吹の乳首を唇で食んでいる。その様子を『赤子のようだ』と形容された桃枝は、すぐに眉を寄せた。 「赤子はこんな吸い方、しねぇだろ」 「あ、や……っ! 先端を……舌で、ぴんって、弾かないでぇ……っ」  揶揄われたことに対する仕返しのように、桃枝の舌が山吹の乳首を弾く。そうされるとすぐに、山吹の体は嬉しそうに跳ねてしまう。 「んっ、ふ、ぅ……っ。やだ、だめ……おかしく、なっちゃ──ひっ、ん!」  今度は、唇で挟まれる。まるで強弱をつけるような唇からの愛撫に、山吹の体は律儀に震えてしまった。 「焦らすのダメです、やっ、あ……っ!」  もっと、強い刺激がほしい。快感に対して素直な山吹は、桃枝の腕を掴んだ。 「やだ、課長……っ。焦らされたら、脳みそ溶けちゃう……っ」 「なんだ。もっと激しくされたいのか?」 「分かっているくせに、訊かないでください。辱められると、ゾクゾクしちゃいます……」 「悦んでるなら、なによりだな」  日中、男らしい姿を女性職員に見せつけていた山吹が、今はどうだろう。  乳首を噛まれて、後孔を穿たれて。同じ課の上司に犯されながら、今の山吹は……。 「ぁあっ、あんっ、あっ! だめっ、変な声いっぱい出ちゃ──んあっ!」  男に組み敷かれ、尻を犯され、淫らに喘いでいる。こんな姿を見たら、あの女性職員はきっと驚くだろう。  だが、どうだっていい。山吹は今、桃枝のことしか頭にないのだから。 「ダメですっ、だめっ、あんっ! いきなり激しくされたらボク、イク、イクっ、イッちゃ──ぁあっ!」  思慮深い人は無意味に騒ぎ立てることなく、悠然と行動する。……などとは、よく言ったものだ。 「緋花……ッ」  静かに果てるこの男にこそ、その言葉は相応しい、と。状況に似つかわしくないことを考えながら、山吹はコンドーム越しに注がれる熱を受けて吐息を漏らした。  * * * 「さっきの、お仕事に対する姿勢の話ですけど。『最近大変そうだね』と言うよりは『最近頑張っているね』と言う方がいいと思いますよ。その方が、ポジティブな印象を受けますから」  セックスを終えてから、数分後。身支度を整えつつ、山吹は桃枝にそんな話題を振った。  最低限しか脱いでいなかった桃枝はすぐに帰り支度を終え、不慣れな様子で山吹の身支度を手伝いながら、耳を傾ける。  やはり、なんだかんだと山吹は桃枝に甘い。時を越えてから、こんなアドバイスを贈るほどに。 「でもボクは、課長に『頑張っているな』と言われるのも大好きですけど、えっと。……『いい子だな』と褒められる方がもっと、す、好き、です」 「山吹、お前……」  不慣れな桃枝の手つきに、中てられたのだろうか。山吹は不慣れながらも、桃枝が求める【甘え】をアドバイスの中に盛り込んでみた。  さて、どうだろう。お返しに対するお返しに対する、お返しのつもりなのだが。山吹はそっと、桃枝を見上げて──。 「──ピロートークにしては、なんともロマンがない話題を選ぶんだな。こんな時にも仕事の話か」 「──台無しですよ!」  全く伝わっていないと気付き、桃枝の斜め上な思慮深さを呪ったのだった。 【深い川は静かに流れる】 了

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