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第5話

やっぱり関係ない俺が聞いていい内容じゃない…じゃないけど、何故か体が動かない。 …翔も黙ってないでなにか言ってくれ。 じゃないと…胸が苦しすぎて死んでしまう。 ……俺が言えない言葉を何度も言う彼が羨ましかった。 翔も、好きなのかな?生徒会補佐を… 人は見た目じゃないし、あの生徒会二人も好きだから翔も噂になってないけど好きなのかも… あ、ヤバい…泣きそう。 膝を立てて座り俯く。 耳を塞ぎたいのに気になって手が動かない。 俺は、翔に恨まれてるから言う事も許されない。 やがて動く気配がなかった翔が動いた。 「…俺には好きな人がいる、だから…悪い」 「なっ!俺より大事な人なのかよ!」 翔の好きな人?…いたのかと落胆した。 どっちにしても聞きたくない内容だった。 …翔の身近の人か…支倉の家のメイドぐらいしか思い出せない。 もし男もイケるなら統乃?…一番可能性がある。 好きな人がいるならなんで俺のところに来たんだ?…ほっといてくれれば良かったのに… そしたら翔への想いもいい思い出としていられたのに… クスッと笑った翔は何処か遠くを見るように言った。 「当たり前だろ、ずっと片思いしてたんだから…触れられるだけで幸せなんだよ」 翔はとても優しげで、愛しい相手を思うように言った。 …嫌、だ… 俺の知らない翔を見るのが、知らない誰かに愛を囁くのがとても嫌だ。 …頬に生暖かい雫が零れる。 俺には泣く資格なんてないのに… 神は俺にこんな罰を与えるのか…支倉を追い出された時より、両親に捨てられた時よりキツい… 早く、早くどっか行ってくれ… 何分そうしていたのか分からずずっと胸が締め付けられる苦しさと戦っていたら、いつの間にか眠っていた。 扉の横に積み重なっていた段ボールに寄りかかった。 だから扉が開いた音も人の気配もよく分からなかった。 「…佐助様、なんでここに」 一瞬驚いたが、こんなところで寝たら風邪を引くと抱き抱えた。 耳元に掛かる寝息に主に感じてはいけないゾクッとした気持ちを必死に押し留め、ベッドに運んだ。 夢を見ていた、懐かしい夢。 初めて俺に専属の執事が付くと父様に言われてとても嬉しかった。 名前は長嶺翔、父さんの執事で暇な時いつも遊んでくれる長嶺さんの一人息子。 「初めまして佐助様、長嶺翔と申します」 「…しょう、しょうちゃん!」 仲良くなりたくて親しみを込めてそう言った。 しょうちゃんは少し驚いた顔をしたがふんわりと笑った。 しかししょうちゃんは堅っ苦しくー佐助様ーなんて呼ぶ。 「しょうちゃん!佐助様呼び禁止ね!」 「えっ、で…でも」 しょうちゃんを困らせたいわけではない、ただ…距離を感じて寂しかった。 しょうちゃんは悩みに悩み、周りに人がいないかキョロキョロし始めた。 此処は俺の部屋だから二人以外いないよ。 何かに決心したのかしょうちゃんは頬をりんごのように赤らめて口を開いた。 「さっ、ちゃん」 小さい声だったが聞き逃さなかった。 嬉しくなってしょうちゃんの手を掴む。 しょうちゃんは目を丸くさせてこちらを見ていた。 「もう一回!言って!」 「…は、恥ずかしいです佐助さっ」 しょうちゃんがまた言おうとしたから頬を膨らませる。 すると少女のように可愛い顔でーさっちゃんーとはっきり言った。 何だか名前一つでとても距離が縮まったような気がして嬉しかった。 それからしょうちゃんと練習を重ねて自然とさっちゃんと呼ぶようになった。 「さっちゃん、ダメですよ…好き嫌いは」 「うー…だってピーマン苦いんなんだもん」 しょうちゃんは少し考えて野菜炒めが盛り付けられた皿を見る。 皆もう食べ終わり、しょうちゃんは俺が残さず食べるか見ていた。 大好きなしょうちゃんの前でカッコ悪いところ見せたくないが、ピーマンは嫌いだった。 「これ、僕の手作りなんです…さっちゃんに好き嫌いしてほしくなくて…美味しく作ったつもりだったんですが、美味しくないですか?」 「えっ!?」 しょうちゃんが泣きそうな顔をする。 そういえば野菜炒めは俺のテーブルにしかなかった。 そう考えるとずっと食べたくなかったピーマンが美味しそうに見える…気がする。 フォークでピーマンを刺し、口に入れる。 やはり苦い…でも、しょうちゃんの手作りなら自然と食べれた。 しょうちゃんは不安そうに見ていた。 「だ、大丈夫?気持ち悪くない?」 「食べれた〜、しょうちゃん…俺、えらい?」 初めてピーマン入りの料理を完食してしょうちゃんを見る。 しょうちゃんは微笑んで頭を撫でてくれた。 ピーマンが好きになったわけじゃないが、しょうちゃんの手作りなら平気になった。

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