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太陽に触れないで。(芝﨑×水島)

キミは僕の────… そうはっきり、言えたらいいのに。            『太陽に触れないで。』 恋人になってから日常の一片となった、昼休憩のランチタイム。いつものように、待ち合わせ場所である渡り廊下を目指していた綾兎だったが… ここ最近は特に、その足取りが重くなっていた。 何故なら… 「ねぇ~健太郎センパイ、僕とお付き合いして下さいよぉ~!」 大勢の生徒が犇めく往来で、堂々と猛アタックする小柄な男子生徒。 その熱烈な告白を受ける相手は勿論、 水島 綾兎の恋人…2年の芝崎 健太郎だった。 そして芝崎に、男同士と言う立場も顧みることなく。オープンに好き好き光線を発していたのは… 「だから…オレには好きな人がいるって言ってるだろ、津田…」 自身の腕に絡みついてくる後輩を、無下に振り払う事も出来ず。困ったように溜め息をつく芝崎。 どうしてこうなったのかは覚えていないが… いつの間にかこの一見女の子のような、この男子生徒…津田(つだ) 唱平(しょうへい)に芝崎が気に入られてしまい。 最近になって急に、熱烈アプローチを受けるようになったのだけれど…。 「そんなの僕、全然気ならないし!だから~、ねっ…?」 芝崎の性格上、あまり強く出れないのを知ってか知らずか。無遠慮に押し迫ってくる津田少年。 (やっぱり…) 今日も当然の如く、恋人・芝崎に抱き付く津田を。渡り廊下の出入り口から認めた綾兎は…複雑な思いを胸に、その場で立ち尽くしてしまう。 自身の内側から迫り来る、もやもやとした黒い何か。 そんな気持ちを抱える自分に不安を煽られ、綾兎は耐えきれず2人から目を逸らした。 それでも、津田少年の大胆な様子は自ずと耳に入ってくるもんだから。どうしていいのか判らず、綾兎は動けぬまま留まっていたのだけど… 「あっ、先輩!」 漸く綾兎の存在に気付いた芝崎が、慌てて津田の腕をすり抜けて。弾かれたよう綾兎へと駆け寄って来ると…。 「待ってよ~、健太郎センパイ!」 もれなく津田少年も、後ろから付いてきて… 「ちょっ…!おまッ…」 あろうことか綾兎の目前でぴったりと、芝崎の腰に抱き付いてきた。 しかも──── (…な……) あからさまな敵意。 愛らしい外見からは、およそ想像もつかないような。なんとも禍々しい嫉妬の炎を、綾兎に向け堂々放ち…津田は甘えるようにして、芝崎の身体へと擦り寄った。 最も決定的な追い討ちとなったのは… 「こら、津田…もう離れろって…」 芝崎のこの対応である。 大っぴらに公言こそしてないとはいえど、仮にも恋人の綾兎の手前なのだ。ここはビシッと津田を突き放してくれてもいいだろうに… 苦笑いして窘める程度で、イマイチ説得力に欠けるものだから。 ──────プツン… 「わっ…!あっ、綾兎先輩?」 ボスンッと手作り愛妻弁当が二人分入った手提げ袋を、芝崎へと投げつける綾兎。 さすがは元野球部の芝崎。不意打ちにも関わらず、何とかそれをキャッチしたものの… 目が合った綾兎はいつもの無表情を、一際冷たく尖らせて──── 「ソイツと…仲良く食べてやったらどうだ。」 素直には慣れそうもない綾兎は、全てのイライラを芝崎へとぶつけるよう、吐き捨てて。 「まっ…綾兎先輩ッ!!」 「ヤだぁ~行かないでよぉ、健太郎センパイ~!」 芝崎が津田少年に捕まり、モダモダしてる内に。 綾兎は背を向け、全速力でその場から走り去るのだった。

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