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③
「芝、崎ッ…」
突然の対面に困惑し、気まずげに俯く綾兎に。構わず直進する芝崎。
「どうしてッ、逃げるんスかっ…?」
目前で立ち止まり、長身を屈め綾兎を覗き込む。
上目遣いに伺えば、真剣な芝崎の眼に捕まってしまい───…
綾兎は更に窮地へと立たされる。
「そ、それは────」
なかなか口を割らない綾兎を、急かそうとはせず。じっと本人からの答えを待つ芝崎。
綾兎はどう気持ちを伝えたら良いのかが判らず、迷った挙げ句───事の元凶である、津田を見やったのだが…。
それでも鈍感な芝崎には、全く気付いて貰えなくて…
「おっ…お前が、はっきりしないからッ…!」
つい感情的になり、声を荒げてしまった。
しかも一度吐き出された不満は、止められそうにはない。
「い、嫌なんだ…お前が、そのっ…津田と、くっついたりするの、がっ…」
いつもは必要最低限にしか、言葉や感情を紡がない綾兎だったけれど。
「せん、ぱい…」
自分の恋人である芝崎を盗られたくない一心で、つい本音を晒け出す。
これには芝崎本人も、衝撃を受けてしまったが…徐々に恋人の言葉を現実に受け入れると、そっと歩み寄り、綾兎の身体を両手で包み込んだ。
「ゴメンね、先輩…」
ギュッと抱き締め、艶やかな黒髪にキスを落とす。
「津田。」
主要人物でありながら、なんとなく蚊帳の外だった自分が突然芝崎に名指しされて。ドキリと肩を揺らし、振り返れば…
「悪い、オレには綾兎先輩がいるから。お前の好意には応えられない。」
「え、え?いきなり、そん、なコト…」
恋人・綾兎の存在を認知はしていても、気持ちが追いつかない津田少年は。反論しようと口を開きかけたが────
「諦めな。お前に付け入る隙はねぇよ。」
ぽんっと上原に肩を叩かれ、制止させられる。
それでも彼はまだ納得いかないようで…
「やだぁ!!だってボクは健太郎センパイのコトが────」
「見てみろよ。」
真顔の上原に睨まれ、仕方なく言われた通りに従うと。
そこには愛おしげに綾兎を見つめる、芝崎の姿があって…
「解っただろ。ならさっさとアイツの事は忘れて、別の相手でもみつけるんだな。」
「ッ……!」
「行こっか…津田君。」
しゅんと項垂れる津田の背を、優しく押すのは保。
のろのろと歩き出した、ふたりの後ろから。
去り際、上原は…別世界にて仲睦まじく寄り添う芝崎達を盗み見て。
やれやれと溜め息を吐いてから─────
「芝崎。」
呼べばハッと我に返る芝崎と綾兎。
照れ臭そうに慌てるふたりに向け、上原は踵を返し手をヒラヒラと振って…
「ココ、貸しといてやっから。」
声響くから気をつけろよ~と。
意味深な捨て台詞を残し、去っていった。
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