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「芝、崎ッ…」 突然の対面に困惑し、気まずげに俯く綾兎に。構わず直進する芝崎。 「どうしてッ、逃げるんスかっ…?」 目前で立ち止まり、長身を屈め綾兎を覗き込む。 上目遣いに伺えば、真剣な芝崎の眼に捕まってしまい───… 綾兎は更に窮地へと立たされる。 「そ、それは────」 なかなか口を割らない綾兎を、急かそうとはせず。じっと本人からの答えを待つ芝崎。 綾兎はどう気持ちを伝えたら良いのかが判らず、迷った挙げ句───事の元凶である、津田を見やったのだが…。 それでも鈍感な芝崎には、全く気付いて貰えなくて… 「おっ…お前が、はっきりしないからッ…!」 つい感情的になり、声を荒げてしまった。 しかも一度吐き出された不満は、止められそうにはない。 「い、嫌なんだ…お前が、そのっ…津田と、くっついたりするの、がっ…」 いつもは必要最低限にしか、言葉や感情を紡がない綾兎だったけれど。 「せん、ぱい…」 自分の恋人である芝崎を盗られたくない一心で、つい本音を晒け出す。 これには芝崎本人も、衝撃を受けてしまったが…徐々に恋人の言葉を現実に受け入れると、そっと歩み寄り、綾兎の身体を両手で包み込んだ。 「ゴメンね、先輩…」 ギュッと抱き締め、艶やかな黒髪にキスを落とす。 「津田。」 主要人物でありながら、なんとなく蚊帳の外だった自分が突然芝崎に名指しされて。ドキリと肩を揺らし、振り返れば… 「悪い、オレには綾兎先輩がいるから。お前の好意には応えられない。」 「え、え?いきなり、そん、なコト…」 恋人・綾兎の存在を認知はしていても、気持ちが追いつかない津田少年は。反論しようと口を開きかけたが──── 「諦めな。お前に付け入る隙はねぇよ。」 ぽんっと上原に肩を叩かれ、制止させられる。 それでも彼はまだ納得いかないようで… 「やだぁ!!だってボクは健太郎センパイのコトが────」 「見てみろよ。」 真顔の上原に睨まれ、仕方なく言われた通りに従うと。 そこには愛おしげに綾兎を見つめる、芝崎の姿があって… 「解っただろ。ならさっさとアイツの事は忘れて、別の相手でもみつけるんだな。」 「ッ……!」 「行こっか…津田君。」 しゅんと項垂れる津田の背を、優しく押すのは保。 のろのろと歩き出した、ふたりの後ろから。 去り際、上原は…別世界にて仲睦まじく寄り添う芝崎達を盗み見て。 やれやれと溜め息を吐いてから───── 「芝崎。」 呼べばハッと我に返る芝崎と綾兎。 照れ臭そうに慌てるふたりに向け、上原は踵を返し手をヒラヒラと振って… 「ココ、貸しといてやっから。」 声響くから気をつけろよ~と。 意味深な捨て台詞を残し、去っていった。

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