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きっと運命。(上原×佐藤)
side.Tamotsu
梅雨も明け切らぬ、じっとりと暑い初夏…
今日は7月7日、織り姫と彦星が巡り会う事を唯一許された日…七夕だった。
別にそれを祝うほど僕も子どもじゃないから。
ああそう言えば…なんて思い出す程度のイベントでは、あったのだけれど。
今回だけは、ちょっと違った心境だったんだ。
(…やっぱりカッコイイなぁ。)
学校でこっそり盗み見た彼は常にキラキラ。
小麦色の髪や、キリッとした猫目。長身でバランス良い体型、低く甘い声だって…
全てが僕の心を惹きつけてやまない。
好きだから、余計に。
ううん、そうじゃなかったとしても…やっぱり上原君はカッコイイんだ。
(あっ…!!)
目が合いそうになり、慌てて隠れる。
向かい側の渡り廊下、綾ちゃんと楽しそうに話しながら歩いていた上原君は。僕に気付く様子もなく、行ってしまう。
半ば勢いで告白とかしちゃったけど。
上原君は、まだ綾ちゃんのコトが好きなんだろうな…。
ずっと見てたから、嫌でも判っちゃうよ。
「今日って七夕じゃね?」
クラスメイトの誰かが言った。
けど男子校で、その話題に火が点くこともなく。
「空曇ってんじゃん。なら星見えねーな。」
独り言みたいなその台詞で、話は霧散していった。
(…ホントに、会えないのかな?)
放課後、ひとりスーパーへと向かう道すがら。ぼんやりと空を仰ぐ。
そこには、どんよりと灰に染まる雲が蠢いていて。今にも雨が降ってきそうだった。
七夕は恋人同士の織り姫と彦星が1年に一度、会う事を許された日。もし雨が降ってしまったら…ふたりはどうなってしまうのだろう?
(僕なら…)
耐えられないだろうな。
片想いも辛いけど…好きな想いを抱えたまま、1年もお預けされるとしたら、どうにかなってしまいそうだし。
それが一生ってなったら、尚更だ。
ううん…もしかしたら今の状況は、七夕のお話に似てるのかもしれない。近くにいて、見てるしか出来ないもどかしさ。ずっと叶う事のない想い…
それなら心が通ってる分、織り姫と彦星の方が。
幸せなんじゃないかな…。
(いつか、なんて…)
泣いても笑っても。
今とは違う未来が僕にもあるんだろうか?
例えば、上原君以上に好きな誰かと出会う…とかさ。なんか想像つかないけれど。
万が一…なんて都合良すぎる夢も、考えてないわけじゃない。でもそれを頭の中で妄想させちゃうと、虚しくなってしまうから。
なるべく考えないようにはしてるけど、ついつい夢見がちになっちゃう自分がいるのも確かだ。
けど、ホントは分かってるんだ。
僕の未来はきっと雲に覆われたまま。
この想いが成就する事も無ければ、これ以上の恋に巡り会う事だって────
「…あ………」
そんな僕の心中を写したかのように。
重たげな空から、ポツリと雨が落ちてくる。
暫くすれば大降りとはいかないまでも、纏まった雨粒がしとしとと…僕とアスファルトを濡らし始めた。
思えばここ最近までに色んな事があった。
どっちかって言うと、辛い事ばかり…。
この気持ちを否定する気はないけれど。
初めてした本気の恋は、思う以上に苦しかった。
その端々に残る、上原君との記憶。その殆どが僕以上に切なく、痛々しい顔ばかり。
同じように、叶わぬ恋に身を焦がす彼の…悲痛な表情だけだった。
雨が僕を濡らす。
カッターシャツが透けて肌に張り付いても、僕は動けない。
七夕の伝説に縛られたふたりのように、自らを重ね。一度きりでもいいから…なんて、浅はかな願いを思い浮かべていたら─────
「何やってんだよ、お前。」
「─────…!!」
一瞬、叶ったのかと錯覚した。だって、
「風邪、引くぞ…」
だって今、頭の中で思い描いてた上原君が…目の前に、いたんだから。
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