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「うえはら、く…」 口を開こうにも、動揺して言葉にならない。 そんな僕に、上原君は無言でビニール傘を差し出した。 「え…?」 「ホラ、使えよ。」 僕が戸惑い固まっていると、上原君はぶっきらぼうに傘を押し付けてくる。 慌てて受け取れば、少しだけ手が触れてしまい。ぶわりと顔が熱くなった。 「あ、でも…」 見たところ、上原君が持ってるのはこの傘だけだ。雨は相変わらず降ってるから、僕が借りてしまうわけにはいかないと思うのだけど… そう思い傘を返そうとすれば、上原君は小さく首を横に振った。 「いいから、使え。」 「上原君はっ…」 「気にすんな。コンビニで拾ったヤツだから。」 それって人のを、勝手に持ってきちゃっただけなんじゃ…と、内心複雑ではあったけれど。 敢えてそこには触れず、彼の優しさを甘んじて受け入れる。 悪いとこもあるけど。 根は凄く優しいって、知ってるから… こういう一面でさえ、愛おしくて仕方ないよ。 「…じゃあ、な。」 お互い気まずくて、無言でいると。上原君の方から遠慮がちに別れを切り出す。 そのまま雨の中を行こうとするものだから。 僕は思わず手を伸ばして。上原君のカッターシャツを、ぎゅっと掴んでしまった。 「あ、途中まで一緒に…」 離れがたいのもあった。 引き止めた後で、下心も生まれた。 多分、そんな思いが表情に出ていたんだろうな… 「…………いや、やめとく。」 応えた上原君は、困ったようにくしゃりと笑って駆け出し。あっという間に、人ごみの中へと消えていってしまった。 (……ごめんね。) また気を遣わせちゃったみたいだ。 相合い傘なんてしたら、それこそ僕が舞い上がってしまうだろうから。 これは彼の優しさ。下手に気を持たせたら、僕を傷つけてしまうからと…中途半端な行動はしない。さり気なくそういう事しちゃうから、 ホント、ずるいや… 彼の背中が消えてった、遥か向こうへ想いを馳せる。ほんの束の間だったけど… (幸せ…) 今日は終日不安定な曇り空。雨は止んだとしても、雲が晴れる事は無いのかもしれない。 それでも雲一枚上の宇宙には、星がくすみなく輝いてるはず。ならきっと──── (僕の願いは…) いつも貴方の隣り。 なんて…想うだけなら、許されるかな? どう転んだとしても。 今よりは明るい未来を、信じるなら───── ────────・・・ 「笹?ああ、今日は七夕だったな。」 小さなテーブルに飾った花瓶を見て、貴方が笑う。 「うん、暑かったでしょ?お風呂、先にする?」 「ん。」 答えて手を引かれる。 もう随分といる距離感なのに、今でもドキドキしてしまうのは… 「保も一緒…な?」 日増しに貴方に惹かれていくから。 (今日は、会えるね…) 「保~、早く来いよ。」 「あ、うんっ…!」 窓の外には薄く赤らんだ夕焼け。 山間に溶け込む太陽は未だキラキラと輝いてる。 降水確率は、ほぼゼロ。 「そう言えば、去年の今頃…」 「え?」 「いや、なんでもねぇよ。」 星の引力は絶対的なチカラ。 運命も、巡り巡って… 「保…」 「ん…」 僕らのもとへ─────☆ おしまい。

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