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②
「うえはら、く…」
口を開こうにも、動揺して言葉にならない。
そんな僕に、上原君は無言でビニール傘を差し出した。
「え…?」
「ホラ、使えよ。」
僕が戸惑い固まっていると、上原君はぶっきらぼうに傘を押し付けてくる。
慌てて受け取れば、少しだけ手が触れてしまい。ぶわりと顔が熱くなった。
「あ、でも…」
見たところ、上原君が持ってるのはこの傘だけだ。雨は相変わらず降ってるから、僕が借りてしまうわけにはいかないと思うのだけど…
そう思い傘を返そうとすれば、上原君は小さく首を横に振った。
「いいから、使え。」
「上原君はっ…」
「気にすんな。コンビニで拾ったヤツだから。」
それって人のを、勝手に持ってきちゃっただけなんじゃ…と、内心複雑ではあったけれど。
敢えてそこには触れず、彼の優しさを甘んじて受け入れる。
悪いとこもあるけど。
根は凄く優しいって、知ってるから…
こういう一面でさえ、愛おしくて仕方ないよ。
「…じゃあ、な。」
お互い気まずくて、無言でいると。上原君の方から遠慮がちに別れを切り出す。
そのまま雨の中を行こうとするものだから。
僕は思わず手を伸ばして。上原君のカッターシャツを、ぎゅっと掴んでしまった。
「あ、途中まで一緒に…」
離れがたいのもあった。
引き止めた後で、下心も生まれた。
多分、そんな思いが表情に出ていたんだろうな…
「…………いや、やめとく。」
応えた上原君は、困ったようにくしゃりと笑って駆け出し。あっという間に、人ごみの中へと消えていってしまった。
(……ごめんね。)
また気を遣わせちゃったみたいだ。
相合い傘なんてしたら、それこそ僕が舞い上がってしまうだろうから。
これは彼の優しさ。下手に気を持たせたら、僕を傷つけてしまうからと…中途半端な行動はしない。さり気なくそういう事しちゃうから、
ホント、ずるいや…
彼の背中が消えてった、遥か向こうへ想いを馳せる。ほんの束の間だったけど…
(幸せ…)
今日は終日不安定な曇り空。雨は止んだとしても、雲が晴れる事は無いのかもしれない。
それでも雲一枚上の宇宙には、星がくすみなく輝いてるはず。ならきっと────
(僕の願いは…)
いつも貴方の隣り。
なんて…想うだけなら、許されるかな?
どう転んだとしても。
今よりは明るい未来を、信じるなら─────
────────・・・
「笹?ああ、今日は七夕だったな。」
小さなテーブルに飾った花瓶を見て、貴方が笑う。
「うん、暑かったでしょ?お風呂、先にする?」
「ん。」
答えて手を引かれる。
もう随分といる距離感なのに、今でもドキドキしてしまうのは…
「保も一緒…な?」
日増しに貴方に惹かれていくから。
(今日は、会えるね…)
「保~、早く来いよ。」
「あ、うんっ…!」
窓の外には薄く赤らんだ夕焼け。
山間に溶け込む太陽は未だキラキラと輝いてる。
降水確率は、ほぼゼロ。
「そう言えば、去年の今頃…」
「え?」
「いや、なんでもねぇよ。」
星の引力は絶対的なチカラ。
運命も、巡り巡って…
「保…」
「ん…」
僕らのもとへ─────☆
おしまい。
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