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⑤
side.Akihito
「食欲ある?薬飲むなら、少し食べてからの方がいいんだけど…」
「……食う。」
腹減ってるワケじゃなかったが、せっかく保が剥いてくれたんだからと踏ん張って身を起こす。
甲斐甲斐しく支えてくれるとこが、出来た嫁さんみてぇだ。
勿論、俺のになる予定なんだけどな?
「じゃあハイっ、」
「ッ……!」
なんの躊躇いも無く、アーンと自分の口を開けながら。フォークに刺したリンゴを差し出してきた保に、固まる俺。
どうしたもんかと、俺の方が躊躇してたら。
食べないのかと不安にがる保の視線とぶつかり…
根負けした俺は潔く保を真似て、大きく口を開いてやった。
それを認め、ホッとしたよう顔を緩める保。
俺ってホント、コイツにだけはとことん甘ちゃんだよなぁ…。
「おいし?」
「ん?…ああ。」
正直なとこ味覚も麻痺してっから、味なんて一切判んなかったけど。
もそもそリンゴをかじりながら答えりゃ、保がにっこり微笑むもんだから…。
病気なんざ、めったやたらにするもんじゃねぇけど。
今日の保は特別サービス良いから。
これはこれで、案外と…役得だったかもしんねぇ。
「あとコレも飲んでね。」
りんごを食べ終わると、今度は錠剤を寄越してきた保。
病気は基本気合いで乗り切るタイプだから、薬とかに頼りたくはなかったが。そこはお約束、黙って従う事にする。
薬を水で一気に飲み下し、空になったグラスを保に渡すと。俺はハァ…とひと息吐く。
保がいるおかげで、多少気が紛れるが。
これで結構フラフラなんだよなぁ。
恋人としては、なんとも不甲斐ねぇ話だけど…。
「キツいでしょ、上原君は横になって安静にしてて?」
「ああ…。なぁ、保…」
片付けるからと、立ち上がりかけた保の袖を掴み、引き止める。
「…お前は……」
「うん?」
どうすんだと、保の顔を見上げる。
しかし鈍感なコイツが、俺の心中を簡単に察してくれるハズもなく…
スッゲェ言いにくい話だったが、俺はぶっきらぼうな口調に任せ独り言みたく。保に向け、遠慮がちにも言い放った。
「…帰んなよ……」
来るなって言っときながら、いざとなるとお前が恋しくて堪らない。
くらりとする意識を擡げ、
じっと保を見据えながら、応えを待ちわびていると…
「…いるよ、ちゃんと。」
傍にいるから…俺を安心させるよう、保はふわりと笑って。手にしてたトレイを一旦テーブルに戻すと、ベッドサイドに手を付き跪いた。
コイツに導かれ、俺も身体を布団へ委ねると…。
途端に誘発的な睡魔が襲ってきた。
「保、手…」
目を伏せながら手を差し出せば、すぐに絡められた保の指。俺のよりひと回りも小さくて…細長いんだ、コイツの指は。
今はじんと冷たくて。
それが高温の肌に、心地良く馴染む。
「早く元気になってね…」
じゃなきゃ寂しいから、と。
保の声で紡がれる音に耳を傾けながら…
手の中の温もりを抱き締め。
俺は穏やかな眠りへと、落ちていった。
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