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エール1-1

 無事に受験を終え、学校にも慣れてきた新緑の頃。終業のチャイムでクラスメイトたちが席を立つ。部活に行く者、掃除当番の者、帰宅部の者。  中学で美術部だった密紀は高校でも美術部に入部しようか悩んだまま、まだ見学もしていなかった。自覚するくらいには人よりドン臭いところがある密紀は、高校生活に慣れるのにも少し時間がかかって、部活はもう少し落ち着いてからだなと思っていた。  なんとか友達も増え、授業のペースも掴めてきたこの頃、やっと見学に行こうかなと考えていた。 「おーい、保科ぁ」  密紀が席を立とうとした時、後ろから声をかけられた。振り返ると制服を着崩した二人のクラスメイトが、だらっとした足取りで近付いて来た。 「橋野くん、元宮くん…」  二人はクラスでも目立つ生徒で、いわゆるスクールカーストで言えば上のランクの人間だった。中学時代から、良いとは言えない方面でのクラスの中心的存在で、クラスメイトをいじって楽しむような輩だったと噂で聞いていた。聖院学園は偏差値こそ高いが、学力と性格は必ずしも一致しない。 「俺日直なんだけど、ちょっと体調悪くてさあ、さっき集めたノート職員室まで運んどいてくんね?」  面倒臭そうな口調で密紀に告げると教卓の上のノートを指差す。どこからどう見ても体調が悪そうには見えないのだが、密紀は曖昧に笑って頷いた。特に密紀がいじめられているという訳ではなく、周りも『今日は保科だったか』という反応だった。 「あんがとね、密紀ちゃん」  橋野と元宮は軽く密紀の肩を叩くと「カラオケ寄ってかね?」と言いながら教室を出て行った。

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