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エール1-16

 何が起こったのか頭の整理が追いつかないまま、密紀はノートを抱えて廊下に出た。  夢だった?そう思おうとしたが、傍に立つ千秋の姿が、これは現実なのだと密紀に教えていた。  廊下を行き交う女子が千秋を見てきゃあきゃあ言っている。男子すらチラ見している。  そうだ、自分は今あの千秋善と一緒に居るのだ。密紀は憧れの人をそっと仰ぎ見た。すると千秋も密紀を見ていたのかバッチリ目が合って、なぜか密紀は「すみません」と謝った。千秋が笑う。 「明日から早朝特訓な」 「早朝、ですか?」  今まで縁のなかった運動部のような響きに密紀が何度か瞬きをした。 「六時に迎えに行く」 「六時?!」  思わず聞き返すほどの早朝!いやそれよりも、 「迎えって…」 「保科、家どの辺?」  スマホを取り出しながら千秋が聞く。 「えと、蓮華街の住宅街です」 「おお!うちから近いじゃん」  もう少し近かったら中学も同じ学区だったのになあと言いながら、千秋がスマホの画面を見せる。

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