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エール2-2

「バイク乗れるんですね、千秋先輩」  密紀が尊敬の眼差しを送る。密紀の中でこういう大きなバイクに乗るのは運動神経がいい人だという基準があり、絶対自分には無理だと思っている。 「うん、十六になった途端免許取った。俺四月生まれだからもう一年経ってるな」  千秋が密紀にヘルメットを渡す。乗り方すら定かではないが、とりあえず荷物を背中に背負おうとした密紀に「ちょっと待って」と千秋が着ていたパーカーを脱いだ。 「ちょっと寒いかもしんないから」  言いながら密紀にパーカーを羽織らせる。 「ほら、袖通して」  母親が子供の着替えを手伝うような感じで、袖も裾も余る自分のパーカーを千秋が密紀に着せようとする。 「だめです、先輩が寒いですよ?」  バイクの後ろに乗るのは初めてだが、前で運転している人の方が多く風を受けるだろうことぐらいは密紀にも分かる。 「はは、萌え袖かわい」  慌てる密紀をよそに千秋は密紀にパーカーを着せ終わると、その袖から指先だけが出ているのを見て目を細めた。  かわいいと言われて一気に密紀の顔が赤くなる。密紀自身もそれが分かって、慌ててヘルメットを被って顔を隠した。  童顔や低い身長はコンプレックスで、可愛いとからかわれるのがすごく嫌だったのに、なぜか千秋に言われると照れる…というよりも、嬉しい、かもしれないと気付く。

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