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エール2-4
ジャージに着替えようと千秋に言われて密紀は校舎を見上げた。時間が早過ぎて教室はまだ開いていない。もちろん団議室も同様だ。すると千秋が「こっち」と校庭を挟んだ茂みの向こうに在る、赤い鱗屋根の建物を指差した。
「え!入っていいんですか?!」
焦る密紀に、
「いいに決まってるよ、応援団の建物なんだから」
クスッと笑って先に歩き出した千秋に、自分はまだ仮団員なんだけどなと思いながら付いていく。赤褐色の煉瓦の塀で囲まれた鱗屋根の二階建ての建物。その入り口には『応援団演舞場』と書かれた年代物の木の看板が掛かっていた。
「ここは応援団の本拠ですよね」
密紀の問いに、鍵を取り出しながら千秋が頷く。
「通称『聖堂』。団議室は主に会議をする場所だけど、ここには地下に小さな舞台があって振りの練習をしたりするんだ」
団旗や団服など団員の衣装や小道具もこちらで保管されている。
団員と予備の鍵を管理する教師以外は鍵を持っておらず、校長ですら勝手に入ることは許されていない。故に生徒や先生の中には『聖域』と呼ぶ者もいる。
文化財に指定されそうなその建物は綺麗に掃除されていて、この聖堂を守り維持していくことも応援団の役目なのだと千秋が言った。
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