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エール3-2

 完全にバカにしたように鼻で笑って二人は教室を出ていく。密紀は今朝千秋に触れられた頬に手を当てた。  確かにそうかもしれない。たまたま団議室の前に俺が居たから…。千秋先輩も探す時間が勿体なくて俺を選んで…?  途端に密紀の心に黒いもやが立ち込める。団服を羽織らせてくれたのも、バイクで迎えに来てくれたのも、俺だからじゃない。指名した団員候補だから…。 「それでも指名は指名じゃん」  放課後、噂を聞いた竜也が部活の前にやって来た。密紀の前の席に後ろ向きで座り、椅子に両腕を乗せて密紀の顔を覗き込む。 「それに千秋先輩って誰でもいいから指名するような人には思えないけどなあ」 「うん…」  励ましてくれているのが分かって、密紀は微かな笑みを返す。竜也は昔から何かと密紀を気にかけてくれる。それはもちろん密紀も竜也の悩みや夢を真剣に聞いて助けてきたからで、一方的なものではない。 「とにかく頑張れよ」  そう言いながら、竜也は小さい頃からしてきたように密紀の頭を撫でようとした。 「保科!」  いきなり呼ばれて密紀が教室の入口に目を向ける。竜也も驚いて手を止めた。 「きゃあ、千秋先輩だ!」  反応したのは帰宅せずに残っていたクラスの女子たちだった。色めき立った声がそこここで飛んでいる。男子生徒も、ドアの梁に手を掛けて教室を覗いている千秋をガン見していた。

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