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エール3-5

「画面小さいから」  それだけ言って千秋が再生ボタンを押す。千秋の大きな手が密紀の頭を撫で、数秒髪を弄んでから密紀が座る椅子の背に落ちた。  心臓が破裂する。  目の前の動画が霞みそうな程の緊張と幸福が密紀を襲う。ちゃんと見なきゃと思うのに千秋の匂いがふわりと漂って来て集中出来ない。  竜也の時と全然違う。頭を撫でられる行為がこんなにも嬉しい。  どうしよう、俺、本当に…。  本当に、千秋先輩のこと、好きだ。  何故か泣きそうになって密紀は堪えるように一度目を閉じた。  もう偶然選ばれたのでも何でもいい。最後まで頑張りたい。だって、俺が不合格になったら、きっと千秋先輩は違う人を指名して、同じような優しさで接するんだ…。だったら、俺は今を大事にしたい。  大好き。  心でそう告げて、密紀は動画に集中した。

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