35 / 85
エール4-5
「伊藤はまだ落ち着いていなかったから、とりあえず帰した。保科に礼を言いたそうだったが明日言えばいいと伝えておいた」
低い声で淡々と可南が告げる。密紀は伊藤が無事だったことに安堵した。そしてもう一度深々と先輩たちに頭を下げた。
「ご心配かけてすみませんでした」
何だか大事になってしまった気がして、密紀の語尾が震えた。
「謝るようなこと、お前はしてない」
真正面から返って来た水野の言葉に密紀が顔を上げる。他の団員たちも真っ直ぐ密紀を見ている。
「応援団がどうこうって言うより、お前は人として正しい行動をした」
「勇気を持ってね」
団長と副団長の言葉。密紀の胸が熱くなって鼻の奥がツンとした。泣きそうだ。
「…俺」
密紀は隣に立つ千秋を見上げる。何か話そうとしている密紀の表情に、千秋が頷く。密紀が小さく息を吐いた。
「俺、自分があんなこと出来るなんて思ってなかったです」
「うん…」
相槌を打ったのは千秋。
「ほんの数日だったけど、ほんの数日なのに、そういう心を教えてもらって…」
密紀は両手の拳をギュッと握った。
「だけど…純粋に伊藤を助けたいとかじゃなくて、応援団なら…先輩たちならきっとそうするだろうなって思ったのが先で…」
「うん」
「千秋先輩なら、きっと…」
これ以上喋ると本当に泣いてしまいそうで、密紀はきゅっと唇を結んだ。
ともだちにシェアしよう!