38 / 85
エール4-8
日の暮れた住宅街の公園に人影はなく、ぼんやりと光る街灯だけがガードレールを照らしていた。
バイクから降りると密紀は「ありがとうございました」と千秋に頭を下げた。
「腕、本当に大丈夫か?」
ヘルメットを取って心配そうに聞く千秋に、密紀は大丈夫ですと笑った。
『大事な団員候補心配して何が悪いんだよ』さっき保健室で千秋が言った言葉を思い出す。団員候補だから、そうだ、それは最初から分かっていた。それでも頑張ろうって決めた。だけど…。
やっぱり、少し寂しい。
こんなに好きになってしまったから、少し悲しい。
「明日は朝から団の会議やら壮行会の準備やらあるから迎えに来られないんだ」
街灯が瞬きして、千秋の表情を一瞬隠した。密紀は千秋が残念そうな顔をしたと思った自分を叱咤した。
「大丈夫です、今まで甘えちゃって」
密紀の言葉に千秋が首を横に振る。密紀はその優しさだけで十分だった。
「早朝ランニングは明日もやろうと思います。一人でも、せっかく始めたことだから」
明日のテストは夕方の四時から。それまでは仮団員として最大限努力したい。千秋先輩が偶然でも自分を指名したことを後悔しないように。
その思いごと伝わったのか、千秋は密紀に小さく微笑んで頷いた。
ともだちにシェアしよう!