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エール5-5
『保科何かあったか?』
千秋の心配そうな声がスピーカーから流れる。密紀はその声に我に返った。
俺なんかなんて使っちゃいけないんだった。最後までやらずに諦めることも、しちゃいけないんだった。
「だい、じょうぶ、です」
鼻をすする音が千秋に聞こえた。
『お前泣いて…』
「大丈夫です!」
もう立ち上がれないかもしれないと思う程沈んでいた身体が、気持ちが、千秋の声で一気に払拭される。密紀は団服を大事に抱えたまま立ち上がる。
「すみません千秋先輩、時間を守れないなんて団員失格かもしれないけど、俺すぐ向かいますから!」
『保科?』
「水野団長たちに、もう少しだけ待っててくださいって伝えてください!」
密紀は通話を切ると涙を拭う。
『気持ちだけはもう十分合格ラインだね』そう言ってくれた先輩の気持ちを裏切る所だった。
『俺はいつでも保科を応援してる』
耳に残る大好きな人のエール。
密紀は破れた団服を着た。袖を折ると、祈るように自分の身体ごと団服を抱きしめた。
大事な団服を傷物にしてしまったことは心から詫びよう。不注意だと罵られても仕方ない。でも、せめて悔いのないように。千秋と頑張った数日が無駄にならないように。
密紀は教室を飛び出すと聖堂に向かって走り出した。
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