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エール5-8
「汚ねえ手で触るな!」
その時、地を這うような怒号が響いた。
雷に打たれたような電流が、密紀と、橋野や元宮にの身体にも走る。
「千秋先輩!」
そこに立っていたのは千秋だった。
密紀の様子がおかしかったのを察して聖堂を出てきたのだろう。千秋の瞳は恐ろしく冷たく、怒りで満ちている。密紀も初めて見る表情だった。
橋野や元宮の比ではなかった。威勢のよかった二人も息を飲むほどの威圧感、いやもう殺気と言ってもいい。
「大丈夫か保科」
千秋が密紀の団服を掴んだままの橋野の手を取った。
「痛っ!」
どこをどうしたのか、密紀には掴んだだけに見えたのだが、橋野は酷く痛がって千秋の手を払い退けた。千秋が元宮にもチラリと目を向ける。
「………っ」
存在だけで圧勝するという人間を密紀は初めて見た。
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