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エール5-10

「団服なんてどうでもいいよバカ!」 「え…」  千秋が密紀の肩を起こす。顔を上げる勢いで散った涙を、千秋がゆっくり手で拭う。 「よかった、殴られなくて…心臓止まるかと思った」 「…せ、先輩?」  さっきまでとは打って変わって、柔らかくなった声に密紀が戸惑う。団服をこんなにしてしまって怒鳴られるとばかり思っていた密紀は、ポカンとした表情で千秋を見上げる。 「お前の啖呵もかっこよかったけど、ちゃんと自分を守ってくれよ」  千秋が乱れたままになっていた密紀の団服の胸元を正す。密紀が困惑して俯く。すると取れ掛かっている金ボタンが目に入って、とても悔しい感情が込み上げてきた。 「保科?」  気付いた千秋が密紀を呼ぶ。密紀はきつく首を横に振った。  辛さや怖さや、色んな感情が過ぎ去って、ただただ悔しいという感情が残った。それは団服を汚されたことに対してだけではない、水野に忠告されていたにも関わらず、もっと注意出来なかったのかという自分への呵責が大きかった。

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