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エール5-11

「…俺、嬉しくて」  密紀が取れ掛かっている金ボタンをギュッと握る。 「先輩は偶然そこに居ただけの一年生に声をかけただけかもしれないけど…俺はこの数日で人生が変わるほどの経験をして」 「保科…」 「最初は戸惑ったし、俺ができる訳ないって思ってたけど…頑張るってことが、いつの間にか楽しくなって」  それは、一人じゃなかったから。  憧れの先輩が一緒だったから。 「今までの自分から変われる気がして」  目線を上げると、自分の言葉を真剣に聞いてくれている千秋の顔。  好き。  大好き、千秋先輩。  憧れから、好きに変わった。  だから、嬉しくて、楽しくて、今、悔しい。 「浮かれていたのかもしれないです。応援団の先輩たちに相手にされて」  分不相応だと、神様に怒られたのかもしれない。 「…どうでもよくないです。大事な団服です。大事な…俺の大事な先輩の…」  密紀は感情が暴走しそうになって口元を押さえる。そして一つ呼吸を置いて、また口を開いた。 「俺はやっぱり弱いです。誰かを応援するなんてこと…」 「俺、お前に応援されたんだけど」  再び俯きそうになった密紀の肩に手を置いて、顔を覗き込むように千秋が目線を合わせる。 「え?」

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