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エール5-12

 意味が分からず、密紀が一度瞬きをする。千秋は口元で優しく笑った。 「保科、聖院学園の学校説明会に来てただろ?」  問われて密紀が頷く。忘れもしない、初めて応援団を見た日だ。 「俺あの日が初舞台だったんだよ」 「えっ!」  密紀は驚いて思わず大きな声を出す。 「初舞台ですか?だってあんな堂々としてたのに」  千秋は密紀の肩から手を離すと、自分の腰に当てて「ハハハ」と笑った。 「してねーしてねー堂々となんか。口から心臓飛び出そうだったよ」  千秋が後ろを振り返り、赤い鱗屋根を見る。つられて密紀も目を向ける。 「先輩たちはすっげーかっこいいのに、俺だけ浮いてるんじゃねえかって不安で」 「そんなこと…」  首を振って否定する密紀に視線を戻すと、千秋は一度目を閉じた。 「指名されたけど、本当は何かの間違いだったんじゃないかとか、このままやっていけるのかなとか、焦るほど後ろ向きな考えが溢れて来て」  同じだ。  密紀はずっと自分が考えてきたことだと思った。こんなにカッコ良くて、自分を励まし続けてくれた千秋も同じことを思っていた時があったのかと、嬉しいというよりは不思議になる。

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