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エール6-3
「…え」
密紀の口から小さな声が漏れた。それは焦ったような声音で、後ろに立っていた千秋が気づいて密紀の顔を肩越しに覗き込む。
「どうした保科?」
密紀の顔が目に見えて青ざめている。外に出ようとしていた団員も振り返った。
「あ、足が…」
密紀が自分の太腿辺りの長ランをぎゅっと握る。途端に体が小刻みに震え始めた。
「保科?」
千秋が後ろから密紀の肩に手を置く。
「大丈夫?密紀くん」
二階堂の心配の声にも焦った顔を向けることしか出来ない。
足が動かない!
極度の緊張が身体を強張らせている。きっと声も震えている。
情けない!
密紀が悔しさに目を閉じた。
ここまできて!こんな時に!俺の役立たず!
「保科、顔上げろ」
自分を罵ることしか出来ない密紀に水野が声を投げる。涙目の密紀が顔を上げると、四人の先輩が密紀の前に立っていた。
団長の手がすっと上がる。指先にまで神経を巡らせた白いグローブが手首から円を描いた。
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