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エール6-5
記憶が殆どない。
初舞台の感想はシンプルにそれだけだった。
ただ、出て行った時に「あの小さい奴大丈夫か?」という目を向けていた見学者たちが、終わった時には笑顔で大きな拍手を送ってくれていたことだけは目に焼き付いている。
更衣室に戻ると、密紀は倒れるように座り込んだ。腰が抜けたのかと思うほど力が入らなかった。鼓動だけがまだ早く打っていて、やり遂げた安心感とは裏腹に、まだ興奮が続いている。
「よくやったな」
水野を始め、先輩たちが労いの言葉をかけてくれる。まだ肩で息をしながら頷く密紀の目は、ドアの前に立つ千秋を見つめた。
自分以上に嬉しそうに、そして、この上なく愛おしそうに自分を見つめる想い人。
たまらなく好きだと思った。
千秋先輩の、匂いに包まれたい。
衝動的に抱きついてしまいそうだった。
「保科…」
我慢できない気持ちは同じだと言うように、千秋が両腕を広げる。
「おいで」
先輩たちが居るのも気にならなかった。その千秋の言葉を待っていたように、密紀は躊躇いなく千秋の胸に飛び込む。
千秋は密紀を受け止めると、一度ぎゅっと力を込めて抱いた。そして、
「ごめんね先輩方、お疲れ様」
そう残すと、密紀の手を引いて更衣室を出て行った。
「ダダ漏れやんけ」
半分呆れたように呟いた鳥越の言葉を受け、
「今日は聖堂に近付くの禁止だね」
二階堂が今日の控室団議室にしといて良かったと、いつもの笑顔を団員に向けながらも、でもあそこ一応神聖な場所なんだけどなあと舌打ちしたとかしないとか。
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