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第7話 空中を色とりどりの紙きれが飛んでいる

 ジェイルの顔がパッと輝いた。俺はぎゅうっと抱きしめられて、そのあと何も見えなくなった。ジェイルが俺のあごをもちあげてキスをしたからだ。  俺はほんのちょっとだけ、びっくりしてた。でもすぐ、かぶさってきた唇に自分の口をいっしょうけんめい押しつけた。ジェイルの手が俺の腰を抱いて、体を密着させてくる。ジェイルの舌に唇をつつかれて、俺は自分からうっすら口をあけて、中に入ってくるのをゆるした。ジェイルの舌は生き物みたいに俺の口の中を吸おうとする。歯のあいだをやわらかくつつかれて、そのうち背中から腰までぞわっと熱くなる。しがみつくみたいなかっこうでキスしていると、いつのまにか壁に押しつけられていた。  俺はかたい壁に背中をあずけたままジェイルの首に手を回す。ジェイルの膝が俺のふとももを割って、下半身が重なるとあいつの股間も固くなっているのがわかった。いったん離れた唇をまたふさがれて、また舌をからめる。そうやって何度もキスして、やっと口を離して、俺ははぁはぁ息をつく。 「ご、ごめん」  ジェイルの目もとが赤かった。 「ずっとこうしたかった」 「俺もだよ。俺ずっと、ジェイルとキスしたかった」  ジェイルの手が俺のからだの上を動く。背中や腰や胸を撫でられて、俺はどうしようもなく興奮してくる。背中がずるずるっと壁をこすって、ふたりして床にすわりこんで、またキスをする。ここって、ジェイルの研究室なのにって思うけど、止められない感じで、俺はジェイルのシャツをひっぱり、ジェイルは俺の作業服の裾をひっぱっている。  キスしながら俺がズボンを下げ、下着をさげると、ジェイルもおなじことをやってて、でっかくなったペニスがみえた。ジェイルは俺のをそっと握ってしごきはじめ、俺は気持ちよくてうめき声をあげる。はだけた胸のところを舐められたりすると、ここでやめるわけにはいかないってますます思う。床は冷たいけどかまうもんか――と思った時、バフっと背中に柔らかいものがあらわれた。  なに?  気がつくと俺はカラフルなクッションに埋もれていて、空中を色とりどりの紙きれが飛んでいる。折り紙だ。ジェイルが一年間練習してたってやつ。クッションに変えたのか。高次元幾何魔法って便利だな。俺はあおむけになって、ズボンを抜き取られている。恥ずかしいかっこうで足を広げさせられているけど、上にのっかってくるジェイルの顔をみたらどうでもよくなった。 「ジェイル、」俺はおもわず口走る。「もっと触って――もっと、」  ジェイルは口数が少ないけど、俺の話は聞いてる。毎日飯を食ってるときもそれはわかってた。ジェイルの手が自分のと俺のと、ふたつともつかんでしごきはじめる。気が遠くなりそうなくらい気持ちがいい。濡れた先っぽをこすりつけあっているうち、いつのまにかジェイルの指が俺のうしろの方に伸びて、そうっと中をかきわけていく。押されると体がへんになるところをみつけられ、弄られるとそのたびに声が出てしまう。  友だちでいられるだけでぜいたくだと思っていたけど、ほんとうは俺はずっと、ジェイルとこうしたかったんだ。頭がぼうっとしはじめたころにジェイルは俺の中に入ってきた。奥までみっちり突き入れ、揺すられる。耳もとで愛している、という声が何度も聞こえた。    * 「まったく先生ときたらヘタレもいい加減にしろって話ですよ。俺がいなかったら今ごろどうなってたと思います?」  食堂のテーブルで助手さんが呆れた声でジェイルに小言をいっている。ところがジェイルは一心に紙ナプキンを折っていて、まったく話を聞いていない。 「なるようになってよかったですけどね! ほんとナギさんには、折り紙で指輪を作っては投げ作っては投げしていた頃の先生をみせてあげたかったですよ」  俺は苦笑する。 「……どうもすみません」 「ナギさんが謝る必要はないんですよ! といってもまあ……ナギさんのためになることをしようとがんばってたから、そこは認めてあげてください」 「そんなの関係なくぜんぶ認めてますよ。ジェイルってすごいよな」  俺たちが今いるのは魔法生産複合体の下部、高次元幾何魔法部が作り直した新しい建物だ。てっぺんに、上の泡と行き来できるチューブがくっついたデコレーションケーキみたいなやつである。俺の会社やその他の下請け業者の事業所や、新しい寮や食堂もみんなこの中に入っている。  設備は最新式だし、チューブで上の泡と簡単に行き来できるから、配達も格段に簡単になった。俺の部屋は前よりずっと広くてふたりでも住めるくらいだし、食堂もきれいになって、みんなが喜んでいる。  俺とジェイルは結婚することを魔法生産複合体に伝えた。結婚したら上の泡にあるジェイルの部屋で暮らしてもいいし、俺の寮で暮らしてもいい。どうするかはまだ決めていないけど、ジェイルは下に住みたいという。魔法師が上の泡に閉じこもっているのはよくないから、というんだ。上と下は循環すべきだとジェイルは思ってて、だから首都へ行って根回ししたりあれこれ掛け合ったりして、このチューブを作ったという。  俺はジェイルと手を繋いでチューブをふわふわ飛ぶのが気に入ってるから、暮らすのはどっちでもいいかな。  それでもジェイルには、これからは大事なことはちゃんと話してくれよって、ちゃんと話した。一緒に暮らしていても、話してくれないとわかんないことはわかんないから。ほんと、わかんないよな? 六歳からとかいわれてもさ!  もちろん俺だって、立場がちがうとか、いろんなことを最初からあきらめてたのがよくなかったのだと思う。自分が欲しいものとか、こうしたいとか、こういうのは嫌だとか……もっとちゃんと言葉にしないといけないんだよな。俺はジェイルよりずっと口数は多いけど、その分どうでもいいことばかり話すくせがあるんだと思う。 「先生、さっきから何を折ってるんです?」  助手さんがそういったとたん、ジェイルの指先で紙ナプキンが生き返った。  今日は猫だ。尻尾を立てた真っ黒の猫。ぶるんと体を揺すって前肢で顔を洗い、金色の目をひらいてニャーと鳴く。そしてゴロゴロ喉を鳴らしながら俺の方へやってきて、肩によじのぼろうとする。 「やっぱりおまえの折り紙、俺にくっついてくるな」  黒猫のすべすべした背中を撫でながらそういうと、ジェイルは眉をちょっとだけあげる。 「ナギが好きだからな」 「それって折り紙の話? おまえの話?」  ジェイルはニコッとしただけだ。ちゃんと話せっていったのに――ま、今はいいか。さいきんは毎晩、ジェイルの答えを聞いてるから。  せっせと黒猫を撫でているとジェイルが手を伸ばしてくる。まさか自分が作った折り紙に嫉妬してないよな? くすり指がキラッと光った。今はジェイルも俺と同じ指輪をはめている。 (おしまい)

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