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第15話 宣戦布告
【R&R】はイギリスで最も大人気のTVに出演して、倭の国で開催される国際大会の開会式を手掛ける事を告げる為に出演すると話題となっていた
出演を決めた日からテレビ局は大々的に告知をしていた
メディア嫌いの【R&R】がユニフォームとも言えるアルマーニのスーツを着て出演すると謂うのだから、一目見たいたと大騒ぎになった
その日の観客希望は通常の10倍越えの倍率を叩き出した
其れ程に大人気の【R&R】がTVに出ると騒がれていた
世界的に有名な総合司会者のジョセフ・オルゴが興奮して今日のゲストを伝える
「今日のゲストはプロジェクションマッピングで有名なパフォーマンス集団【R&R】です!」と紹介するの盛大な拍手ガ巻き起こった
竜馬が流暢な英語で「【R&R】です!宜しくお願いします!」と言った
ジョセフは「私は【R&R】を初めて見た時から聞いてみたい事があったんです!
何故【R&R】のリーダーが子供なのか?
そしてリーダーの元に集った皆が素晴らしいパフォーマンスを手掛けられるのは何故なのか?
出逢える時が来たら聞いてみたかったのです!
どうぞ、私の質問に答えて下さい!リーダー」とど直球を投げて来た
烈は宗右衛門の声で完璧なクィーンイングリッシュで話し始めた
「【R&R】は竜馬の元に集ったメンバーで構成された集団でした
初めて逢った時は皆が好きな事を好きな様にやっている統制の取れてない集団だった
皆の意見を聞き、話し合う様に指示を出しているうちに、皆が私にリーダーになってくれと言い出して、私がリーダーになった、それだけの事です
子供がリーダーだと謂うと、スカウトに来た殆どの会社が子供がリーダーなんて冗談じゃない!
リーダーを切って、他のメンバーで契約しないか?と持ち掛けました
私はそれでも良いと想っていましたが、メンバーがリーダーは貴方しかいない!と言ってくれたので、今もリーダーとして皆と共に活動する事に決めたのです!
そして目指すならば高みを目指して活動して行こう!と約束して今に至ります!
我等は特別な集団ではない、私がリーダーと謂う以外は楽しみながら作品を生み出している者らと変わりはありません!」
そう答える烈は司会者の目には、子供には映らなかった
子供の姿なのにその声は嗄れて大人の貫禄や威厳を備えていた
そして何より文句も着けられない程の完璧な英語にジョセフは「素晴らしい!」と感嘆の溜息を着いた程だった
メンバーは滅多と喋る事はなく、殆ど喋るのは竜馬だけだった
ジョセフはリーダーに「貴方がリーダーなのが、理解出来ます!
私がもしメンバーの一員だったとしても、貴方に着いて逝くと決めたでしょう!
素晴らしい存在にメンバーが集ったと謂う事なんですね!」と賛辞を述べた
気難しいと評判のジョセフなのに、賛辞を贈る事態に、撮影のスタッフも視聴者も驚きだった
イギリスでこのTVを見ている者達も皆、子供なのに嗄れた声で話す烈の姿は驚愕した事だろう
ジョセフは「リーダーは既に大学の学位記を取ってらっしゃるとか?
素晴らしい頭脳にその威厳……間近で見ている私も…ハッキリ謂うと緊張しています
リーダーたるに相応しい存在なのが伺えられて私としては大変満足です!
今日は本当にありがとう御座いました!
此処で【R&R】から宣伝が有るのですよね?
どうぞ、好きに宣伝して行って下さい!」とジョーク交じりに謂う
竜馬は「我等【R&R】は、倭の国で行われる国際大会の開会式を手掛ける事になりました
その放送は国際大会と謂うだけあって、全世界に放送される事になりました!
無論イギリスでも放送はされるので絶対に見て欲しいと想い、誘われてTVに出ました!
【R&R】が全精力を注いで制作中ですので、是非楽しみにしていて下さい!」と話すと司会者のジョセフは
「楽しみにしてますね!
今後も活躍を期待してます!
今日はお忙しい中【R&R】の皆が出てくれました!今日は本当にありがとう御座いました!」
【R&R】は観客の皆に手を振り、その場を後にした
【R&R】が去った後も魅了された観客は余韻に浸っていた
この放送は翌日 倭の国でも流された
康太は応接間で家族とテレビを見てて「おっ!烈やんか!」と謂うから家族は皆驚いてTVに釘付けになっていた
流生は「何か烈……遠くに行っちゃったみたいで…寂しいな……」と呟いた
兄弟は皆、そう感じていた
康太は「烈は日々血反吐を吐きながらも、1000年続く果てへと日々繋いでいる
兄達が走るべく明日を確かなモノにする為に、精一杯生きているんだ!
それも総ては兄達に贈る明日なんだって事は忘れてやるな!」と言った
兄達は頷いた
そんな事は嫌と謂う程に解っているのだ
流生は「でもね母さん、僕達は烈の苦しみの上を走りたくないんだよ!
烈と共に築きたいんだよ……それって我が儘なのかな?」と悲しげに謂う
康太は流生の頭を撫でて
「んな事はねぇよ!ならば助けてやれよ!
今は国際大会で精一杯で手が回らねぇだろうから、帰国して来たら手伝ってやると良い!」と謂うと流生は頷いた
我が子ながら本当に優しい子に育ったと康太は嬉しくなる
大空は何時も烈のカニパンをバッグに忍ばせて、烈にあげる為に持ち歩いている
音弥は烈のラインに何時だってメッセージを送り励ましている
太陽は烈の部屋に行き虎之助の写メを撮ってやる
そしてコオやイオリやガルの写メを撮りラインで送っていた
翔は烈の世話に行く担当に手紙を託していた
流生は花の写真を送っていた
皆が烈の事を想い、日々の生活の中で烈へと想いラインで繋がろうとしているのだった
烈もにーに達の想いを汲み取り、出来るだけラインを返していた
そんな想いで迎える国際大会の日は、まぢかに迫っていた
国際大会2日前に【R&R】は倭の国へ来日して来るとニュースが飛び込み話題となった
空港は朝から人でごった返し、規制線が引かれて警備員が警護に当たっていた
そんな中、須賀の事務所の5人と榊原真矢と清四郎と一条隼人と榊原笙も【R&R】と同行して帰国して来ると告知された
それが余計に人を集めて、一目見ようと空港の周りは人、人、人でごった返した
【R&R】丿メンバー達は空港職員達の配慮により防弾ガラスの向こう側を歩かされていた
ピリピリとした緊張感の中、カメラはゆったりとした足取りで歩いて行く【R&R】を追う
【R&R】のメンバー達はサングラスをして表情は解らなかったが、軽く手を振っていた
そんな中一番小さい烈に視線が集まった
SPに護衛され堂々と歩く姿は威厳があり、子供には見えなかった
そして烈と共に歩く榊原真矢と榊󠄀清四郎、そしてその後ろを歩く一条隼人と榊原笙の姿にもパシャパシャとスラッシュがたかれカメラに収められていた
笙は鍛え上げられ研ぎ澄まされた顔を惜しみなく晒し笑顔で笑っていた
その顔にはオッサン臭さも鳴りを潜め、洗練された姿があった
そして何より、その後ろを歩く5人に注目が集まった
誰?と人目を惹く男女5人の姿が話題に上がる事となる
烈はそれを狙って【R&R】の来日を事前に伝えたのだった
【R&R】のメンバー達は警戒した空港職員達の手により非常口から通された迎えに来た車に乗せられた
その後を追おうとする報道陣の車の前にリック村上が妨害して追跡を妨害する
報道陣達は途中で見失い、追跡を止めた
車は都内のホテルの中へと入って行き、須賀が取った部屋へと通された
須賀は部屋の中に入ると深々と烈に頭を下げた
烈はソファーに座ると「整列!」と言った
5人は須賀の前に整列すると、誰か解らぬ程に変わった5人の姿を目の当たりにして唖然となっていた
宗右衛門は「この新体操の選手ばりに体の柔らかった女性は藤原夏連
地味だと謂われた女性が五十嵐美怜
ルービックキューブが得意だった男性が月城涼真
杜野恭平と呼ばれた男性は北川壮吾
ボーッとした長身の男性は咲楽我空(さくら がく)海外で活躍する事を踏まえて海外に通用する名にした!
儂がしてやれる事は此処までじゃ!
後は己の手で掴むしか無い!」と言った
須賀は生まれ変わった5人を目にして、感激していた
体が柔らかいだけの女性は、ボーイッシュになり生き生きとした顔付になり、こんな元気だった?この子?と目を疑った
地味だと想っていた子は、内面から自身を取り戻し美しく花開いていた
うちの事務所から榊原真矢クラスの女優なんて夢だと思っていたが、それが現実になりそうで信じられない目でその子を見た
そしてルービックキューブが得意だった子は、今風の感じでこんなにイケメンだったっけ?と信じられなかった
杜野恭平も存在感がバリバリある存在になり
ボーッとしていた子は、前髪を切って今どきの髪にしてモデルばりになっていた
5人は生まれ変わり還って来た
宗右衛門は「今頃はあの5人は誰?と騒がれておるからな、宣伝効果はバッチしじゃな!」と笑った
そして「ばぁたん お腹減ったにょね!」と甘えて謂う
その顔は何処から見ても子供だった
真矢は「ならば須賀さん部屋に食事を運ばせて下さる?何処かへ食べに行くのは無理ですよ?
我々は開会式まではこのホテルからは出られませんからね!」と言った
【R&R】のメンバーはホテルに着くなり、それぞれの部屋へと散らばって行った
この部屋にいるのは5人と真矢と清四郎と隼人と笙だけだった
神野と小鳥遊が遅れてホテルの部屋にやって来ると、変わった笙の姿に目を輝かせた
そして途中で買って来た袋を烈に渡した
烈は袋の中を覗き込むと、蒟蒻ゼリーが沢山入っていた
「神野!お腹減ったにょよ!」と言い蒟蒻ゼリーを食べ始めた
小鳥遊は笙を目にして、その変わり様に驚いていた
その体は引き締まり精悍さを全面に出して、オッサン臭さかった笙とは全くと言って別人みたいだった
そこまでになるにはかなり厳しい日々を送って来たのだろう
そして何より須賀の事務所の5人を目にして、神野は「うちもこの先花開きそうな者を見てくれませんか?」と申し出たが、腹減り烈はもう何も聞いてなかった
竜馬が「烈は今腹減りなので、聞いちゃいません!それと時差で眠くて腹が膨れれば寝てしまうでしょう!
話ならば明日以降にお願いします!」と言った
食事を運ばせ食べてると途中で烈は眠ってしまい、テーブルに突っ伏して寝落ちしてしまった
それぞれ部屋に戻り眠る事になると、神野と小鳥遊もホテルに部屋を取り泊まる事に決めた
開会式までホテルで過ごすと、須賀も決めていた
相賀も合流して開会式までは、護衛されつつホテルで過ごすつもりだった
開会式前日 夕方過ぎに烈と竜馬は相賀がチャーターしてくれたマイクロバスに乗り込み戸浪の所有する豪華客船へと向かう事にした
前夜祭と称して、豪華客船の船上でパーティーがある事となったからだ!
相賀は関係者に掛け合い戸浪の所有する豪華客船の船上でパーティーを開く様子をテレビクルーを入れて撮影する枠を取ってくれたからだ!
近い内に榊原真矢と榊󠄀清四郎との船の旅の特集も行う予定だった
玲香と清隆にはその前に話すつもりだった
だが今は国際大会の開会式に心血を注がねばならなかった
真矢は華やかなドレスを着ていた
清四郎はカクテルスーツに身を包み、存在感を出していた
隼人と笙も顔つきが変わり、一際目立つ姿をカメラは追っていた
そしてカメラは紹介もされなかった5人を映し出す
紹介があるのかと思っていたが、なんの紹介もされず、船上パーティーの様子とイベントに対してのコメントのみとなった
だが榊原真矢と榊󠄀清四郎夫妻が出るとあって、そこそこの視聴率は叩き出せ、逆に紹介されなかった方が視聴者は誰なんだ?と関心を抱き効果的でもあった
コロナで悪影響を受けた豪華客船だが、こうして船上でのパーティーは好感度を上げて、こんな風にパーティーが出来るならば結婚式も船上で挙げられたら……と再び船上での結婚式も注目を集める事となった
烈は祖父母に大切に大切にされ、終始笑顔で笑っていた
その顔は年相応、嫌、かなり幼く見えて、今更ながらに子供なんだと思い知らされた出来事だった
船上でのアピールは上々で好感度を得られて戸浪は安堵した
そして迎える国際大会当日 オープニングセレモニーの開始時間となった
花火が一発だけ打ち明けられると、静まり返って国立競技場の全てのライトを消された
そしてドローンが飛び、ドローンがスポットライトを照らす
その先には榊原真矢が夫で俳優の榊󠄀清四郎にエスコートされ、ステージまでの道程を、真紅の絨毯の上を歩いて中央のステージに向かいマイクの前に立った
すると照明が着いてドーロンは何処かへ飛んで行った
シーンと静まり返った中、無音で、二人は国歌を歌った
テノールの清四郎とソプラノの真矢の歌声が国立競技場に響く
国歌斉唱が終わると、何処からかスケボーに乗った笙と隼人が滑って来て、プロジェクションマッピングには、空へ飛ばされた風船の映像が映し出され音楽が鳴り響いた
プロジェクションマッピングに映し出された風船は、本当に飛んてるんじゃないかって、錯覚しそうになる程リアルに風船が舞い上がった
その中に本当の風船を混ぜてよりリアル感を出す
笙と隼人はプロ並みの旨さでスケボーを披露し姿を消す
須賀の事務所の5人はそれぞれにスポットライトを浴びてダンスを続けた
人目を惹く5人の姿がプロジェクションマッピングに映し出され、それぞれの顔が切り替わる
オープニングセレモニーはど派手に、皆の印象を捉えて離さない、そんな出来栄えだった
打ち合わせは一度もしていない
イギリスで自分の立ち位置を叩き込ませ、ぶっつけ本番となった
リハーサルもしなかった
だから運営側はどんな出来なのか?今知った事となった
ラスト数分に迫った瞬間 プロジェクションマッピングには
【何者に囚われない
何者にも干渉しない
我等の世界
それが【R&R】で在る】」
と映し出された
【R&R】らしいオープニングセレモニーとなり幕を閉じた
観客達は興奮冷めやらぬ勢いでスタンディングオベーションが行われた
【R&R】の世界を間近で味わえば、その世界に魅了され、ずっとその世界の中で過ごしたいとさえ想える
この映像は全世界へと配信された
リサーサルすらしないで、ぶっつけ本番で、観客を魅了した【R&R】此処に在り!と証明したも同然の出来栄えに………運営側は言葉もなかった
閉会式はコレ以上の出来か、同等な世界観を用意せねば………劣るとみなされてしまう
宣戦布告したも同然となった
【R&R】は楽屋に引っ込むと、真矢達も楽屋へとやって来た
楽屋には康太も榊原も飛鳥井の家族達もいた
烈は走って康太に飛び付いた
「母しゃん!」
康太は烈を抱き締めた
「頑張ったな烈!」
そして竜馬やメンバーを見て
「皆も本当に頑張った!」と労った
榊原も「本当に頑張りましたね!」と我が子に労いの言葉を掛ける
「父しゃん……」と烈は泣き出した
付け狙われ、気の抜けない日々だった
弱音も吐けなくて頑張るしかない日々だった
榊原は烈をギューッと抱き締めた
瑛太や清隆、玲香はメンバーや隼人や笙、そして真矢と清四郎に「お疲れ様でした!」と労いの言葉を掛けた
開会式のオープニングセレモニーも無事終わり、帰る事にした
機材を回収してスタッフに倉庫まで運ぶように謂うと国立競技場を後にした
飛鳥井へと還り、その夜は宴会に突入した
メンバーも宴会にご満悦で、皆と酒を酌み交わし
飛鳥井の夜は楽しげな笑い声が響き更けて行った
翌朝はテレビを付けたら【R&R】のオープニングセレモニーの話題一色となった
世界に配信されたと謂うだけあって、【R&R】の注目度が上がって行っていた
そして何より国歌斉唱をした榊原真矢と榊󠄀清四郎夫妻の歌声が話題となった
美しい歌声に、国歌斉唱は孫が聞きたいと言ったから歌ったエピソード付きで話が出て、二人の孫を思う想いに感銘を受けたと話題になっていた
笙と隼人のスケボーの上手さも、難度と高い技を繰り出してプロ並みだったと注目を集めていた
そしてその中で一番注目を集めたのは須賀の事務所のタレント5人だった
5人は須賀の事務所のタレントだと公表され名前も同時に公表した
すると5人に仕事が舞い込んで来た
五十嵐美怜を起用したいとドラマの話が出て
デービッドが言った通りに咲楽我空にはモデルの話が舞い込んで来た
他の三人にも仕事の話がちらほらと来ていた
須賀の事務所はリフォーム中の物件に移動して実務を行っていた
ビルの最上階のリフォームを優先してやって貰い、ジャミングの機械を使い、仕事の話をして行く
邪魔される心配はないが、今までの事があったから用心して事を進める
相賀と神野も新しいビルへ移り、仕事の依頼を受けていた
笙や隼人、真矢と清四郎の仕事も増えて来つつあった
やはり相賀も須賀の事務所のタレントみたいに、使えるタレントを増やして行きたいと考えていた
だから烈に見てくれと頼んだ
だが烈は今はダメだと断った
宗右衛門が「閉会式が終わり氷室を潰さねば、この先どんな妨害をして来るか?
じゃから、それまでは待つがよい!」と謂うから、それまては動けずにいた
国際大会は様々な感動を与えて幕を閉じた
閉会式のセレモニーは……開会式のオープニングセレモニー程大々的に取り扱われる事なく、パッとしない……と不発で終わりを迎えた
当たり前だ、【R&R】のボツ案なのと、【R&R】程の技術がなければ完成度は極端に低くなる
そんな完成度がかなり低い出来の閉会式のセレモニーなれば、話題にすら上がる事はなくなるのは当たり前だ
閉会式をやる事になったパフォーマンス集団はテレビで特番を組んでもらって盗作疑惑をふっ掛けるつもりだったが、【R&R】が全く別のモノを用意してしまった所為で盗作疑惑すらかける事が出来なかった
何時リハーサルしたのか?
全く解らなくて、敵情視察すらする事が敵わなかった
イギリスで大々的にテレビに出て、かなり余裕だな……と想った
イギリスではクリストファー・オブライエンの屋敷に滞在していたのか?
掴む事すら出来なくて、だがリハーサルすらやってないから、諦めていたのか?と想っていたら……やられた
氷室は万が一を狙い突き落とそうとしてたのに、自分が奈落の底に突き落とされ、完敗だと痛感させられていた
やはり一条隼人と榊原笙を手に入れていれば違ったかも知れないのに……
風向きはすっかり相賀、須賀、神野の事務所のタレントに注目が集まり、変わってしまっていた
盗作疑惑どころか、全く別物を用意された今、力量の差を見せつけられただけとなった
国際大会が終わった翌朝 氷室エンターテイメントと国際大会運営側との癒着が大々的にスクープされた
証拠の写真もあり、氷室は断罪される日がやっと来たのだと……終われる時を心待ちにしていた
それと同時に氷室家のスキャンダルが大々的にスクープされた
大学教授をしている氷室喬ニは女子大生の愛人を囲い、妻のシルビアは若手ピアニストと同棲生活を送る仮面夫婦を演じている!
と一面スクープが出た
記事の内容は、喬ニは自分の大学に愛人を作り、自分のマンションに囲い、その愛人と手を繋ぎマンションから出て来る写真が見出しを飾った
妻のシルビアはもう大分前から若手ピアニストと同棲生活を送り、近所の人達は夫婦だと想っていたと、近所の人の談話まで用意されていた
そして兄である陵一は☓3で女癖が悪く、共演した女性との間にトラブルに発展している!と暴露されていた
そして何より、氷室エンターテイメントの代表 氷室灰音はどう見ても夫婦の子供とは想えない
とまで書かれ、当日シルビアのコンサートスタッフに灰音に良く似た男性がいて親密な写真も残っており、その男との間に出来た子供なのではないか?と記事にまでされていた
癒着から始まって家族全員のスキャンダルに発展して、噴火する様に爛れた醜聞が露にされた
氷室喬ニは大学教授の座を奪われ失脚した
妻のシルビアも夫同様、不倫が大々的に晒され、今まで築いた地位も仕事も総て失った
喬ニとシルビアは離婚した
陵一は俳優を辞めて何処かへ姿を消した
家族はバラバラに離散した
この現状に氷室灰音は笑っていた
灰音は芸能事務所を廃業した
散り散りになった家族に、灰音はやっと開放された想いで、重い鎖を切り離せたのだと安堵した
家族のスキャンダルは灰音が撒き散らしたのだ
飛鳥井を敵に回すのだから、総て無くす事は解っていた
飛鳥井の噂は知っていた
やられたら倍返しされると知っていたからこそ、灰音は癒着の証拠も掴みやすくやっていたし、それが発覚すると同時に家族のスキャンダルが明るみに出るに細工をして、巧妙に自分の終わりを待った
康太はそれを視て「まるで……遥か昔の聖神だな……」と呟いた
復讐の炎に身を窶し……終われる日の為に一族が滅ぶ日だけを夢見て……爪を研ぎ復讐を誓い日々を過ごす
総ては終われる日の為だけを夢見て………
どんな気持ちで、それをしたのだろう……
烈は竜馬と共に氷室灰音に逢いに来ていた
事務所の整理に事務所にいると聞き、烈と竜馬は事務所を訪ねたのだった
灰音は二人見て「何ですか?損害賠償請求とかしちゃう為に来たんですか?」と揶揄する様に言った
強気で謂う灰音を目にして、烈は弱さを見せない為に虚勢を張っている姿が憐れでならなかった
烈と竜馬が黙って灰音を見ていると、灰音はもう何も謂う事はないと黙った
宗右衛門は「終わりたかったのか?」と尋ねた
灰音は驚愕の瞳を烈に向けた
「何を………」
「己の手で総てを壊してしまいたかったのじゃろ?
だから無謀に飛鳥井に喧嘩を売って、癒着の証拠も少し調べれば簡単に出て来る様にしたのじゃろ?
儂からすれば探って下さい!と頼まれおるみたいなものじゃった!」
「貴方には関係ないじゃないですか!
損害賠償請求はされても払えません……資産すべて今は差し押さえされてますから!」
「それがどうしたのじゃ?
損害賠償請求などせぬよ!
儂は主と話がしたいから来ただけじゃ!」
「総てが遅いし、僕はやはり滅びの為に飛鳥井を選んで大成功だったから満足でした!
それ以外の話は有りません!お帰り下さい!」
「この先はどうするのじゃ?」
「まだ決めてないし、これ以上の話をする気はない!」
「儂が主の呪縛を解き放ってやろう!
今日はスカウトに来たのじゃ!
捨てたのじゃろ?総てを!
ならば灰音は捨てて、新しい名になり新しい人生を送ってはどうじゃ?」
「馬鹿な………そんな事出来る訳ないじゃないか!」
「もう主を捉えおるモノは何一つない!
総ては己の手で落とし前を着けたのであろう?」
「それが?僕は僕である為にそうした!
それで母だった人や父や兄と呼ばせてくれなかった人達を社会的に抹殺したとしても………それで良かった」
「ならば主は総て捨てたのじゃろ?」
「全部捨てた!僕も捨てた!
なんの未練もなく全部捨てた!」
「だからな、拾いに来たのじゃよ!」
「え?………」
「氷室も捨てたのじゃろ?
なれば灰音なんて名も捨てた!
だからな儂が拾いに来て、新しい名と主の雇用主を用意してやろうと思ったのじゃよ!」
「ごめん………話が見えて来ないんだけど?
君が僕を拾って何のメリットが有るって謂うんだい?」
灰音はそう言い頭痛を覚えたのか頭を押さえた
「主は何かを拾う時にメリットを期待して拾うのか?」
「え?………」
「儂は何のメリットなど無くても主を拾いに参ったのじゃ!それでは足らぬか?」
「え………えええええ!!!!」
「さぁ逝くとしようぞ!
竜馬、財務整理は既に終わっておるのじゃろ?」
「だね、今日は本当に私物を取りに来ただけだと聞いたよ!」
「んな私物はゴミ箱に捨てておくがよい!
では逝くとするかのぉ〜竜馬!」
「だね!」
竜馬はそう謂う灰音の手をガシッと掴んで離さなかった
外に出るとサングラスをしたSPのケントが、灰音の手を掴み助手席に無理やり乗せた
竜馬と烈は後部座席に乗り込むと車走り出した
灰音は隣のSPの男が怖くて、声が出せなかった
烈は「菩提寺まで乗せて行ってねケント!」と言った
竜馬は「菩提寺まで行った後どうするんだよ?」と問い掛けた
烈は「それはね内緒ね!」と笑った
ケントは飛鳥井の菩提寺まで烈を乗せて逝くと、駐車場に車を停めた
烈は「りゅーまはどうするにょ?」と問うと、竜馬は「菩提寺で待ってるよ!」と答えた
「にゃら早く帰るにょよ!」と謂うと灰音の手を取り歩き出した
そして試練の間に入る襖がピシャッと閉まって真っ暗になった
烈は呪文を唱えると少しずつ景色が見えて来て…
荒廃した何もない世界が姿を現した
烈は灰音の手を握り締めたまま歩き出した
八仙が空に浮きながら烈の傍へとやって来ると、灰音は腰を抜かしそうに驚いていた
八仙は烈に「今日は何をしに参ったのじゃ?」と問い掛けた
宗右衛門は「この者の髪の毛の色って変わらぬかなと想い参ったのじゃ!」と答えた
八仙は「何色にするのじゃ?」と問い掛けた
「灰音よ、何色の髪になりたいのじゃ?」と宗右衛門は問い掛けた
「え?僕の髪の毛………黒かな?でも黒になっても灰色の瞳までは変えられないからね………このままで良いよ!」
「目か、八仙……目の色は無理かえ?」
「変えられぬ事もないが、激痛が伴うが耐えられぬのか?」
「堪えねば明日が拝めぬのじゃ!堪えるしかあるまいて!」とサラッと言った
灰音は、まさか………と戦々恐々として、その場に立っているだけで精一杯だった
八仙は「了解した、では此方に!」と謂うとフワフワ浮いて屋敷の中へと入って行った
烈は「行くにょよ!」と宗右衛門を出すのに疲れて謂う
「僕………殺されちゃうの?」
「まさか、別の人生を歩むには、その髪と目は邪魔にゃのね!」と言いスタスタと灰音を引っ張って屋敷の中へと入って行った
八仙は「髪ならば永遠にその色になる薬があるから心配されるな
じゃが目の色はが、結構苦しい想いをせねばならぬ………大丈夫なのかえ?」と最期に問い掛けた
宗右衛門は「死んだと想えば堪えられるじゃろ?
主は終わりたかったのじゃろ?
全て終わらせてなくなりたかったのじゃろ?」と問い掛けた
灰音は頷いた
「ならば覚悟を決めるがよい!
そすれば、違う自分になり、違う人生が送れる事となる!」
宗右衛門に言われ灰音は覚悟を決める
八仙は「ならば、先に目をやるかのぉ!」と言い奥の戸棚から小瓶を持って来た
宗右衛門はそれを受け取り「飲め!」と言った
灰音はやけくそになり、その小瓶を受け取ると蓋を開けてグビッと飲み干した
そして最期まで飲み干すと苦しみだした
喉を掻き毟る様に苦しみ出し、ゴロゴロとのたうち回った
そして気絶すると、八仙は大きな鬼のクロウを呼び出して灰音を椅子に座らせた
そして毛染めみたいな薬剤をクロウに渡すと、クロウはせっせと灰音の髪に薬剤を塗り始めた
細やかな場所はハケを使い、はみ出さない様に気を使い染めて行く
肌には触れさせないに注意し進めて行くのは、少しでも触れたら痣みたいに残るからだった
塗り終わり暫らく経つと、八仙が「薬剤を流すのじゃ!」と謂うとクロウは灰音を持ち上げて、逆さにすると樽の中へ頭ごと突っ込んだ
そしてジャバジャバと洗い流す
気絶してなきゃ、暴れるだろうけど今は絶賛気絶中だから、少し手荒にジャバジャバされても気付かなくて、烈はホッと胸を撫で下ろしていた
クロウは「洗い流しました!」と八仙に言うと、クロウは灰音の髪を拭いた
八仙は仕上げの薬剤をクロウに渡した
クロウはまた細心の注意を払い薬剤を塗って行った
八仙は「それは洗い流さずともよい!」と謂うとクロウは「では私の仕事は終わりですね!」と言い烈に近寄ると
「お会いしとうございました!」と言いバシバシ烈を抱き締めた
烈は「じぃーさんに八仙にお野菜沢山差し入れたにょむと伝えておいてね!」と謂うとクロウは
「解りました!お伝えしておきます!」と言い還って行った
暫くして灰音が目を覚ますと、烈はお茶を飲んでいた
「気付いたにょね!」と可愛い子どもの声で聞かれると、灰音はハッと全てを思い出し
「僕、どうしちゃったの?」と問い掛けた
烈は胸ポケットから携帯用の鏡を取り出すと、灰音に渡した
灰音は鏡を渡して貰い覗き込むと、そこには!
誰?って想う顔があった
黒い髪と黒い瞳になると、全くの別人になっていた
「これが僕なの?」
灰音は信じられない声で問い掛けた
宗右衛門は「主は一族の者の戸籍に籍を移す事となる!
そして名を飛鳥井翼と名乗るがよい!
主はもう灰被りではない!
己の翼で自由に何処へでも飛んで行けるのじゃ!」と謂うと灰音は泣き出した
ずっと無視され、いない者として過ごした日々に辛いと感じた事はなかった
何の不自由もなく生活出来たが、自分の存在はあの家の中ではなかったのだ
話し掛けても返ってくる事のない日々に、自分は存在しないモノとカウントされているのだと思い知らされた
その日から復讐する事だけを考えて生きて来た
宗右衛門は「翼、主は今日から飛鳥井翼となるのじゃ!辛かった日々は消えはしないだろう
じゃが主には明日がある
明日を生きる自由があるのじゃ!」と謂う
灰音は「何故………僕を救ってくれたの?」と問い掛けた
「儂は遥か昔……一族の者から虐げられ蹂躙されて暮らしておった
儂の場合、愛した妻を略奪され子も奪われ全てをなくした
それで総てをなくした儂は復讐を心に決めた
復讐の炎を燃やして、復讐を遂げられる日を夢見て過ごした
だが、復讐が遂げられても虚しさは消えはしなかった
そして儂は………亡き者にされ去るしかなかった
復讐しても夜は明けるし、朝は来る
何一つ変わりはしなかった現実に打ちのめされた
それでも儂にはチャンスをくれた人がいた
今はその人の為に、日々生きて家の為に明日を繋いで贖罪の日々を送っておる
なぁ、灰音よ、復讐して気分はスッキリしたか?
報われなかった想いが報われたか?
全て終われる事の方が嬉しかったのであろう?
儂もそうじゃった
だからな主は翼を得て、再び生きるのじゃ!
それが儂が主に与える最大の罰だと申そう!」
「………命を与えて生きろと申されるのか……
貴方は一番酷な方法で生きてこられたと謂うのですか?
それで僕にも……この先を繋げて生きて行けと申されるのですか?」
「そうじゃ!それこそが主にとっての贖罪だからな
楽になどなれぬと想い知れるがよい!
儂がそうして生きて来た様に、主もそうして生きて逝くがよい!
そして繋がれた明日を精一杯生きるのじゃ!
そしたら生きる喜びを味わえるかも知れぬ…主はそれを知らぬ赤子の様なモノじゃ、此処で死なせる気は皆無なのじゃ!」
「僕は……もう立てないよ」
「立って歩くしかないのじゃ!」
灰音はワンワン大きな声を出して泣き出した
烈はその背を撫でてやり、落ち着くのを待った
泣き止むと灰音は涙を拭き、姿勢を正した
「飛鳥井翼、主の名を忘れるでないぞ!」
「はい!僕が貴方を裏切るとか思わないのですか?」
「裏切るならば、それでもよい!
主が楽に生きて行ける場に行けるなれば、儂はそれでよいのじゃ!」
勝てないと想った
人間の器が違うのだ
絶対に勝てない
そして絶対に裏切ってはならない存在だと理解する
何もかも無くした自分に………手を差し伸べてくれる存在がいた
まるで地獄の中、垂らされた一本の蜘蛛の糸みたいに…………
こんな奇跡は二度と起こらないのは解っていた
烈は「八仙、世話になっちゃのね!じぃーさんに言って野菜を持って来て貰うきゃらね!」と謂うと八仙は喜んで「それは楽しみだわい!」と言った
烈は表に出ると灰音の手を握り締めて、呪文を唱えた
するとまた暗闇に突入して、灰音は目を瞑った
でないとグラグラと足元が覚束無くて怖くて仕方なかったからだ!
暫くすると菩提寺の試練の間に出て、烈は部屋を出た
すると待っていた竜馬が烈に飛び着いて、無事を確かめていた
烈は「疲れたにょよ、今日はもうそーえもん出にゃいのよ!」と謂う
竜馬はスッカリ別人になった灰音を見て
「これって………氷室灰音だよな?」と問い掛けた
「神威の事務局に行かにゃいとなぁ……でも眠いにゃー」
烈が言うと竜馬は「なら腹拵えして寝よう!そして明日片付けようぜ!」と言った
烈は「飛鳥井翼にゃのよ、翼って呼ぶにょよ!」と念を押した
「了解!ならば翼、帰ろうぜ!
お眠な烈は何時寝るか解らねぇからな!」と謂うと翼の手を掴むとケントと共に駐車場へ向かい車に乗り込んだ
そして飛鳥井の家に行き、キッチンを目指す
キッチンにいた慎一にご飯を用意して貰うと、烈は黙々とご飯を食べていた
慎一は「この方は?」と尋ねた
「翼って謂うにょよ!
ボクの秘書になりゅにょよ!」と言った
「烈の秘書さんでしたか?
この事は康太はご存知ですか?」
「もう眠いにょよ!限界にゃのよ!」と不機嫌に烈が言うと、竜馬はご飯を食べ終わると烈と翼を連れて客間へと向かいお布団を敷いて眠りに落ちた
レイは烈が還って来たと聞き、客間に行き烈のお布団に潜り込んで眠った
夜になり康太が還って来ると慎一は烈の秘書を知っているか?と尋ねた
「え?烈、秘書にするのか!
ならば秘書なんだよ!」と言い康太は笑った
榊原も頷いていたから、慎一はもう秘書を得て仕事をせねばならぬのか?と烈を想った
翌朝早くに起きると烈はキッチンに行き祖父母に
「ばぁしゃん、じぃしゃん!船の旅に出にゃい?」と楽しそうに問い掛けたて謂う
るんるんとスキップせんばかりの勢いに玲香は
「船の旅かえ?」と問い返した
清隆も「会社を想えば……旅などしてられません」と言った
烈は泣き出した
其処へ康太と榊原がやって来て
「あんで泣いているんだよ?」と問い掛けると玲香が、烈が船の旅に出ないか?と聞いてきたと言った
康太は「真矢さんと清四郎さんも逝く旅だろ?烈」と問い掛けた
烈はコクッと頷いた
榊原は「トナミ海運の起死回生の為の旅番組でしたよね?烈は祖父母の為に必死になって頑張って来たのです、考えてみてくれませんか?」と頭を下げてお願いした
玲香は榊原に頭を下げさせて慌てて
「伊織、頭を下げないでおくれ!」と言った
康太も「烈は必死に頑張って来たんだよ!
その為に若旦那ともう話は付いているんだよ!
国際大会の前夜祭もその一環だったんだ!
父ちゃんと母ちゃんが行かなきゃ烈の苦労が報われねぇじゃねぇかよ!」と言い両親に頭を下げ
「頼む!我が子の想いを無碍にしねぇでやってくれねぇか?」と頼んだ
清隆は慌てて康太の頭を上げさせた
其処へ竜馬が翼と共に起きて来て、烈が泣いているから、慌てて「どうした、烈!」と問い掛けた
烈は涙で濡れた瞳を竜馬に向けて「りゅーま、ばぁしゃんとじぃしゃんが旅行に行かにゃいのよ」と訴えた
竜馬は「え!その為に烈は寝る間も惜しんで相賀達と打ち合わせして、若旦那とも話をしたと謂うのに駄目なのか?」とショックを受けた風に言った
康太は「飛鳥井と榊原の祖父母の為の豪華客船の船旅なんだ!
行って来いよ父ちゃん、母ちゃん!
会社は瑛兄と伊織とオレで頑張るし
烈も竜馬と共に会社に出てくれるだろうし!
何も心配は要らねぇんだよ!
何日まで行くかは真矢さん達と決めれば良いじゃねぇかよ!
宗右衛門は世界一周は無理じゃが時間の許す限りは旅をさせてくれぬか?と頼み込んだんだ!
それに母ちゃん達が旅に出ないと戸浪は経営危機で、ハッキリ言って苦しい状態なんだよ!
コロナの初期で豪華客船でクラスター出して以来、客足も遠退いてるからな
宗右衛門がその打破の為にと、祖父母に贈る為に打ち出したのが真矢夫妻との船旅なんだよ!
考えてくれねぇか?」
と内情を話して頼む
瑛太はそのやり取りを黙って聞いていて、助け舟を出す事にした
「ならば私が会長の仕事をやります!
伊織が社長の仕事を、烈が副社長の仕事をなさい
康太は真贋の仕事がありますから、それだと会長の不在で困る事はありません!
どうですか?」
榊原は「社長の仕事ならば苦もなく出来ます!」と答えると宗右衛門は笑って
「儂だとて副社長の仕事なれば苦もなく熟してやるわい!
ついでに現地視察もこれまで以上にやるとしようぞ!」と高笑いした
清隆は玲香に「なれば旅行に行こうか?玲香」と問う
玲香も笑って「なれば真矢と清四郎と旅行に逝くとするかのぉ!」と嬉しそうに言う
宗右衛門は「なれば好きなだけ船旅を頼むとよい!これでやっと烈も報われるわ!
ついでに戸浪を救わねばならぬ故、撮影は入るが気にせずともよい
思いっ切り夫婦の船旅を楽しんで来てくれ!
日程は真矢夫妻と決めて行くがよい!」と言った
康太は烈を抱き締めて「良かったな烈!」と労いの言葉を投げかけた
烈は笑っていた
瑛太が「隣の方を御紹介下さらないのですか?」と問う
烈は「飛鳥井翼、ボクの秘書になるべき男にゃのよ!」と答えた
瑛太は「秘書ですか?」と問い掛けた
「スカウトしたにょよ!」と嬉しそうに言うと
翼は姿勢を正し「飛鳥井翼と申します!不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします!」と答えた
その姿は何処から見ても日本人にしか見えなかった
「ボクの仕事は翼がしゅるにょね!」と笑う
楽する為に秘書を持ったのかよ?と疑いたくなる発言に康太は爆笑した
「んで、翼は何処に住むのよ?」と尋ねた
「りゅーまが買って貰った部屋、そのままにゃのね、だから其処に住むにょよ!」
「うし!了解した!
服とかは伊織が見立てて用意してやるからな!
お前は総て捨てたんだろ?
ならば身一つしかねぇって事で、此処から初めて行け!」
康太の言葉に翼は「はい!」と返事した
その顔付きは諦めていた顔ではなく、希望に満ちた顔をしていた
康太は「で、誰の戸籍に入れるつもりなのよ?」と問い掛けた
「それにゃのね……神威が有栖を養子にしちゃったから………」とボヤく
「なら、俺が見繕って養子に入れさせとくわ!」
「良いにょ?母しゃん?」
「おー!オレに出来る事ならば協力してやんよ!」
「にゃら副社長のお仕事ぎゃんばる!」
「うし!頑張ってくれ!」
と康太が言う
清隆と玲香は真矢達と連絡を取り、旅行に行く予定を立てねば!と想った
孫がプレゼントしてくれる旅行なのだ
最高の想い出にせねば………と二人は心に違うのだった
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