18 / 100
第18話 今を生きる明日を夢見て…❶
イギリス最終日
フレンチレストランで軽く夕食を取り、烈はマンションへ還って行った
竜馬達成人した者はBarに繰り出して、美味しいソーセージとビールを飲んで楽しい時間を刻んだ
そして帰宅して泥のように眠りに、昼近く起きて遅い朝昼兼用の食事を取り、荷造りを始めた
チケットは事前に取ってあるから、時間までに行かねばならないのだ
烈と竜馬はテーブルの上にリネンと一緒にスーツを並べクリーニングを頼むと一筆書いて、手ぶらでマンションの外に出る
定期的にオブライエン家の者が掃除やクリーニングをする為に出入りしてくれるから、頼んでから出る事にしていた
そしてタクシーを捕まえると空港まで向かった
取り敢えず、その日帰るのは烈と竜馬と康太と榊原と戸浪と田代だった
【R&R】のメンバーは残る事となった
タクシー2台に分かれて乗り込む
烈と竜馬と田代が伸びこむと、もう一台に康太と榊原と戸浪が乗り込んだ
康太は「近い内に戸浪に行くわ、その時何故こんな状況になったのか?
少し調べねぇとならねぇと想っているんだよ!」と伝えた
戸浪も「烈と竜馬に実践と経験を叩き込まれて、如何に私の経営は成ってないと痛感させられました!なので私も帰国したら状況を把握せねばと思っていたのです!」と伝えた
「顔付きが変わって来たじゃねぇかよ!」
「そう貴方に言って貰えるならば、私はもう揺らがない明日を刻めているのだと想います!」
「烈と竜馬は容赦がねぇから、かなり苦労したろ?」
「行き成りオリヴァーに託すと置いて行かれました!」
「最初からオリヴァーだったのか!!
まぁ鳳城葵や東堂御影も一癖も二癖もある奴だからな、ある意味オリヴァーで良かったのか?」
「海運やってるのに船酔いするんじゃねぇ!と鳳城さんにかなり怒られました」
「あの女は容赦がねぇからな……
まぁ飛鳥井の回りにいる女は男前過ぎて、優しさを100万光年果てに忘れて来ちまってるからな
そして烈はそんな女に溺愛されて大切にされているんだからな………怖い話だよ」
と康太はボヤいた
戸浪は笑って「烈は誰からも愛されているのですね」と言う
が、康太は表情を翳らせて「まぁ、な、それが宗右衛門だからな」と答えた
戸浪は何か悪い事を言ったかな?と不安がったが、康太はそれ以上何も言わなかった
空港に着いて搭乗手続きをする
そして飛行機に乗るなり、寝て過ごした
空港に到着すると、沙羅が戸浪を迎えに来ていた
慎一が迎え来ていて、それぞれに別れて帰った
康太は「近い内に連絡する!」と言い車に乗り込んだ
戸浪は深々と頭を下げて別れた
康太は車に乗りなり「烈、熱出してるんだろ?久遠の病院に寄ってから帰るか?」と口にした
竜馬は「知っていたんですか?」と驚いて問い掛けた
「あぁ、最終日、サラダも食わなかったじゃねぇかよ
食が落ちてる時は必ず熱が出てるんだよ!」
母なればの言葉だった
久遠に先に見せてから、帰る事にする
烈は点滴を打つ事になった
康太は竜馬に「烈はこのまま還って寝させとくけど、お前はどうするのよ?」と問い掛けた
「俺は飛鳥井で車に乗り換えて、一度三木の家に顔を出して来ます!」
「そうしてやれ!繁雄も喜ぶからな!」
竜馬は烈と共に飛鳥井の家に一旦帰ってから三木の家へと向かった
烈は部屋に行き寝る事にした
慎一に冷えピタをしてもらい、パジャマに着替えてベッドに入った
疲れてた烈は直ぐに眠りに落ちた
慎一は心配そうに覗きに来ているレイのお布団を横に敷いてレイもお布団の中へ入れ寝かせた
烈の熱は翌日になっても下がらなかった
イギリスに一ヶ月行っていて、かなり忙しかった
だがそれは何時もの事なのに、烈の熱は下がらなくて家族を心配させた
そんな中、真矢と清四郎、清隆と玲香の船旅の日程が決まった
中々日程が決まらず二転三転しまくった船旅の日程がやっと決まったのだ
だが烈が熱を出して寝ている現状で、旅行だ何だと用意していて良いのか?と想い
「我等は延期を考えておる…」と玲香は言った
真矢も烈を心配して延期しようかと思っていた
だが烈が「ダメよ!トナミ潰れちゃうから!」と謂うから延期は止めた
「ばぁしゃん達、楽しんで貰えにゃいと頑張った意味がにゃいのよ…」と謂うから思いっ切り楽しむと決めた
清隆と玲香、真矢と清四郎は共に服を新調しに行ったりと準備をして過ごしていた
そして時は、烈が戸浪をイギリスへと連れ出した翌日に戻る
流生は学校を休んでレイと共にトナミ海運へ毎日通う事となった
流生にとっては大役だった
レイは「にーに、らいじょうび?」と緊張する兄に問い掛けた
レイは流生達の事をにーに、と呼んでいた
兄達はそれを許していたので、そのままにーにと呼んでいた
凛もにーしゃん!と呼んていた
椋は寡黙に何も言わなかったが、最近は変わろうとしてか?何か言おうとして断念するを続けていた
沙羅がお迎えに来ると流生とレイは車に乗り込みトナミ海運へと向かう
レイは何も言わず、黙っていた
流生は少しだけ緊張していた
トナミ海運へ到着すると社内へと入って行く
そしてエレベターに乗り最上階へと向かう
社長室に入るとそこには煌星と海が待ち構えていた
煌星と海はレイに近寄り「君が烈の大切なレイですね!宜しくね!」と挨拶した
レイはじーっと二人を視て、ニコッと笑った
煌星は「流生さん宜しくお願いします!」と声を掛けた
「烈から大役を仰せ付かっているから、頑張るね!」
海が「それでは会議室に行きますか?」と言った
会議室へ移り今後のトナミ海運の見直しを始めた
烈からの指示で亜沙美は社内秘となっている経理の流れを調べていた
レイは黙って会議室に集まった社員達を視ていた
腹の腐った汚い人間をレイはゴミを見る様な目で見ていた
そしてニブルヘイムの声で
「沙羅、貴方にはこの腐敗臭が解りませんか?」と問い掛けた
沙羅は「え?腐敗臭?………何処から臭って来るのですか?」と訳が解らなくて問い質した
「解りませんか?
そこの役職の上に胡座をかいている者達から臭っているでしょ?」
沙羅は「え?………」と役職を見た
役職達は慌てて「沙羅さん社長が出張中だとお聞きしましたが、何故にこんな子供を会議室に入れているのですか?頭は大丈夫なのですか?」と揶揄する言葉を投げかけた
「私利私欲に塗れ、多分そこの役職がトナミの情報を流して利益を得ているのですよ?」と言った
「確たる証拠もないのに何を言っていやがるんだ?このクソガキは!」と怒りに満ちた顔をする
そんな男を身も凍るような瞳でレイは視ていた
其処へ慌てて兵藤貴史が入って来て、レイを抱き上げた
兵藤は「お前に何かあったら烈が悔いる事になるんだぞ!」と怒った
「ぎょめん……にゃさい……」
兵藤はレイを椅子に座らせると
「このお子様は飛鳥井家稀代の真贋を継ぐべき存在なんだよ!
そんな彼を子供だと油断すると痛い目に遭う事となる!」と宣言した
飛鳥井家稀代の真贋を継ぐべき存在………と謂われて男達は息を飲んで黙った
兵藤は流生の肩に手を置き大丈夫だ!と安心させてから、レイに
「レイ、この者達から何を視た?」と問い掛けた
「トナミの情報を流して利益を貪っている腐った奴だと申したのだ!
腸が腐って、腐敗臭がすると申したのです!」と言い切った
「へぇ、それは大変な事をしてるじゃねぇかよ?
沙羅、【R&R】企業向け調査事務所に依頼を頼んだんだよな?
そろそろ結果が出て来るんじゃねぇのかよ?」
「結果は戸浪が還ったら受け取り、然るべき対応をする所存に御座います!」
兵藤は「それだと遅いんだよ!沙羅
レイが白日の元に晒した今こそ、それを使わねぇとトナミの明日は途絶えると想われよ!」と宣言した
沙羅はバッグの中から報告書を取り出して、兵藤に渡した
兵藤はそれを受け取り、中の書類を確かめる様に見ていた
流生は「母さんが呼んだのですか?」と問い掛けた
「嫌、烈が朝から国際電話掛けて来たからな、慌てて駆け付けたんだよ!
飛鳥井に行ったら既に出て、亜沙美さんに聞いて此処へ来たんだよ!」と話した
流生は「烈はレイが心配だったんだね……」と呟いた
「何を言う!誰よりも兄達を愛して1000年続く果てへ必死にレールを敷いているのは、兄達の為だって解ってるか?
烈は流生、お前が誰よりも諍いが嫌いな事を知っている!
だからこそ、康太じゃなく俺を遣わしたんだよ!」
「兵藤君………」
「うしうし!少し待て!」と言い書類に目を通す
会議室の出入り口はニック・マクガイヤーとリック・村上がガードして封鎖していた
役職達は「馬鹿らしい!」と立ち上がり去ろうとした
それをレイが「縛!」と呪縛した
男達は身動き取れず呪縛された
兵藤は「おっ!凄いな誰に教わったんだよ?」とレイに問い掛けた
「れちゅよ!しきぎゃみもね
もらってるにょよ!」と言い見せた
破滅の序章を唱えさせない為の苦肉の策なんだろうと………烈の苦悩を垣間見る
「れちゅとやくちょくしたきゃら!」
何も唱えないと唇に人差し指を当てて笑った
兵藤は「約束は絶対だからな!」と謂う
そして報告書を見て兵藤は笑った
「本当に腐ってんな、こんなに腐ってちゃ腐敗臭で、社内も終わっちまうってもんだ!」とボヤき
報告書を沙羅に見せた
沙羅はその報告書に目を通して、息を飲んた
何これ?……
何でこんな事になってるの?…………
「今頃烈の指示で亜沙美が経理の洗い直しをしてる頃だからな、それが全部揃ったら警察に突き出してやると良い!
その前に社長代理、この者達の処分はどうなさいますか?」と問い掛けた
沙羅は「総ての証拠が揃うまで自宅待機をしていて下さい!
貴方達の役職は今、この時を持って剥奪致します!」と告げた
兵藤は報告書に名の上がる者の名を告げた
そしてニックに「この者達を直ちに会社から追い出して下さい!」と謂うとニックは警備員を呼んで一人残らず会議の場から退場させた
兵藤は「リック、亜沙美の警護を頼む!」と謂うとその場を後にした
リックが消えるとレイは烈から貰った式神を飛ばして指示を出した
「あしゃみをまもりゅのよ!」と。
式神はレイの指示を受けて飛んて行った
レイは流生の手を引くと「にーに!」とニコッと笑った
流生は沙羅に「社員達と話し合う場にどうして役職付きが来ているのですか?」と問い掛けた
沙羅は「すみません!前日には各部署の代表から会議室に集まって下さい!と伝えました」と説明した
兵藤は「ならば戸浪が次はどんな手を打って出るか?調べさせて流させる為に無理矢理同席したんだろう!
報告書を見た所、同業種や物流倉庫を担う会社からのトナミ潰しをする為に、情報のリークをさせている見てぇだな!」も話す
沙羅は顔色を無くしていた
煌星は「我が友 飛鳥井烈が救ってくれたチャンスを潰す気はないんだよ!
僕等は烈の壮大な野望を潰す事なく果てへと逝かねばならない!
それには社員一丸とならねばならない!
喝は宗右衛門が入れてくれるそうなので、我等は我等が出来る事をする!ねっ、海!」と言った
「だね、我が友烈が敷いてくれたレールの上を逝かねば明日へと続かないから、僕等は微力ながらも立ち上がり父さんの不在を守ると決めているのです!だから社員の皆さん、どうしたらもっとより良いトナミ海運になれるか?話し合いましょう!そして皆でこの苦境を踏ん張り乗り越えましょう!
烈達が帰国して来るまでに、何とかしないと飛び蹴りがまされる!そうたよね煌星!」
「だね、出来ないと視た瞬間、飛び蹴りかまされるんだよ!
僕達二人いるじゃない?
足らない分はレイをぶっ飛ばして来るからね!
レイも喜んでぶっ飛ばされちゃうからさ、皆でより良いトナミ海運にする為に話し合うよ!」
と力説した
その話に場かホッコリしてると、煌星の携帯が鳴り響いた
海が「ハンズフリーにするのよ!」と謂う
煌星は携帯の通話ボタンを押すと
『この戯け者が!』と宗右衛門の声で檄が飛ばされた
レイは「れちゅ!」と喜んでいたが、煌星と海は緊張していた
『戸浪海里は今 血反吐を吐いて明日へと繋いでおる最中じゃ!儂が与えたミッションを弱音を吐く事もなく踏ん張っておるのじゃ!
主等は社長がそんなに踏ん張っているのに、頑張らぬのか?
ならば明日はないとしか言えぬな
そして煌星、飛び蹴りしてやるのじゃ!
海、主はレイに頑張って貰うかのぉ〜』と謂う
レイは「れい ぎゃんびゃる!」と言った
煌星は「藪蛇だよ!烈!」とボヤく
『煌星、明日を繋ぎたいのならば、腐った腐敗臭はキッチリと片付けねば、寝首を掻かれるぞ!
飛鳥井は寝首掻かれて源右衛門を殺された!
そんな気も起きぬ程に素早くキッチリとカタを着けねばならぬ!解っているか?』
「………解っているのよ烈………」
『ならば沙羅を動かしキッチリとカタを付けろ!
其処に兵藤貴史がいる故、彼に動いて貰い対処されよ!』
「解ったよ直ぐに母さんに動いて貰う!」と海は言った
『兵藤きゅん!お願い出来るかしら?』と烈の声で謂うと兵藤は笑って
「おー!お願いされてやる!
お前の壮大な野望の為に俺も一肌脱いでやるさ!」と言った
『ありがとう兵藤きゅん
レイをお願いなのよ!』
「おー!レイはちゃんとお前の約束を守っているからな!」
『ありがとう、にゃらまたね!』
と言い烈は電話を切った
その場にいた者達は宗右衛門の威厳のある声に、身を縮め緊張しまくっていた
煌星は「大変よ!流生さん!蹴り飛ばされるのよ!」と慌てる
流生は笑って「ならば、この会議に出ている者達で話し合いましょう!
沙羅さんは腐敗臭のする人達を直ちに警察に突き出して、SPを雇って身辺を警備して貰って下さい!」と告げた
沙羅は頷いて、その場を後にした
兵藤も沙羅と共にレイを抱き上げてらその場を後にした
会議室にいた者達は、レイが外に出て行ってホッと息を吐き出した
あの瞳は脅威だ
飛鳥井家真贋とはまた違う瞳の厳しさに社員達は背筋に冷水をぶっ掛けられた気分を抱いていた
流生は「ならば皆さん、我が弟烈が繋げる果てへと進む為に血反吐を吐こうとも、此処で踏ん張って下さい!
己の会社は己の力で護る!その為に長い長い会議の始まりです!」と会議の開始を告げた
社員達はこの子も情け容赦なさそうな子じゃない………想い気を引き締めた
戸浪海が流生の横に立つ
二人は何処か似た顔をしていた
流生は「海、友が引いたレールを行くならば情は断ち切るのよ!」と謂う
海は「烈に蹴り飛ばされるからね、元よりなのよ!」と言った
トナミ海運の明日を繋げる為に、長い長い会議は始まりを告げた
烈達が帰国して来るまで、連日会議は続いた
それと並行して沙羅は証拠を元に弁護士に相談をした
今回、矢面に立ってくれた弁護士は、兵藤貴史からの紹介で飛鳥井神威がなる事となった
神威は「烈の壮大な野望の為に邪魔者は排除するだろ?無論引き受けてやるさ!
そして飛鳥井の悲劇を二度と引き起こさぬ為に、徹底的に叩き潰してやる!」と言ってくれた
兵藤は「この方は飛鳥井烈の顧問弁護士であられる!」と紹介したから、沙羅は全面的に信頼して依頼したのだった
目まぐるしい日々を送る
顧問弁護士に依頼してからは、沙羅は会議に出て話し合う以外の時間は戸浪の代理として仕事した
飛鳥井から烈の秘書を派遣されたのは、そんな時だった
「沙羅、久し振り!」と突然康太がトナミを尋ねて来た
康太と榊原は見た事のない男性を連れて来た
「彼は烈の秘書をしている飛鳥井翼だ!
めちゃくそ仕事は出来るからな田代の代わりに烈が帰国して来るまでは仕事をしてもらうと良い!」
沙羅は驚きつつも目の回る忙しさに、助っ人は助かりそれを受け入れる
「宜しいのですか?」
「おー!飛鳥井でも既に戦力となっている存在だ!戸浪でもその力を惜しむ事なく奮ってくれるだろう!
翼、頼めるか?」
そう声を掛けられ、翼は「はい!了解しています!」と答えた
黒い髪と黒い瞳はすっかりその顔に馴染み精悍さを引き立たせていた
烈に救われた日から、翼は必死に食らいついて仕事を覚えていた
そして名実ともに飛鳥井の戸籍に入り、名を翼と改名した
飛鳥井翼として生きる自分は生まれ変わったんだと、ようやく最近実感出来ていた
仕事をする以外は自由に過ごせた
与えられたマンションで孤独に過ごすのかと思っていたら、一生や聡一郎や隼人、そして飛鳥井の家族や榊原の家族が気楽に誘ってくれ充実した日々を過ごしていた
そんな日々が嬉しくて堪らなかった
働いて、仕事を終えると会社の皆と飲みに行く
ってのも体験した
城田は「烈の秘書なんだって!困った事があったら言えよ!宗右衛門には逆らえねぇし、逆らう気は皆無だけどな、愚痴くらい聞いてやるよ!」と言ってくれていた
栗田も「困った事はないか?」と気を使ってくれていた
そして同じ秘書課の女性達も「烈の秘書!」と紹介されると皆受け入れてくれた
ただ、西村が「畜生!烈の秘書狙ってたのに!私の可愛い烈を!!」と悔しがっていた
佐伯は「気にしなくて大丈夫よ!彼女は真贋の秘書なんですから!」と教えてくれた
「なによ!佐伯!あんたの旦那、最近イケメンになったからってえばんないでよ!」と難癖を謂う
榮倉が「彼女の旦那は榊原笙、俳優してるのよ!」と内情を教えてやる
すると佐伯は「この子の旦那は陣内統括本部長よ!」と教えてやる
彼女達の話は今まで知らなかった世界を垣間見た様で新鮮だった
西村は「無駄話はその辺になさい!」とピシャと遮り「仕事よ!」と仕事の開始を告げる
すると秘書の顔付きになり仕事を始めた
翼は、すけぇな………とそのパワーに押され気味だった
西村は初日から翼にかなりハードルの高い仕事をさせた
だが翼は卒なく熟し、その頭脳に感心した
そして今回、何故翼がトナミに秘書として派遣されたかと謂うと
康太に「おめぇ情報理工学科だったよな?
ならばトナミ海運に行って秘書の仕事をしつつ、あそこのシステムの欠落を調べてくれねぇか?
システムプログラムを探れるんだろ?お前!
烈が翼を行かせるにょよ!と謂うのはそんな意図があるんだろうからな!」と言った
翼は「解りました!必ずや貴方達の探すモノを探ってみます!」と約束してトナミへ向かったのだ
翼は沙羅の秘書をやりつつ、トナミ全体のシステムの中枢に入り込み色々と調べた
そしてシステムの甘さ、セキュリティが直ぐに破れてしまえる甘さをロムにコピーした
戸浪が帰国して来るまでの一ヶ月
流生とレイは煌星と海と協力して、トナミ海運をより良い方向へ導けれる様に社員達と話し合った
烈が打ち出した船上結婚式やシニアの旅以上の出来栄えの案は出て来なかったが、より具体的に船上結婚式を打ち出すならば、費用や何処まで込みで打ち出すか?等連日話し合われた
各部署の人間を毎日毎日入れ替えて宿題を与えて会議を開く
それが戸浪が帰国するまでの一ヶ月、連日行われた
これで何時宗右衛門がやって来て質問されたとしても、大丈夫だと社員達は胸を撫で下ろした
トナミ海運社長 戸浪海里が社長業に復帰した
一ヶ月 イギリスへ行きかなり過酷なミッションを熟していたのか?
戸浪は窶れて壮絶な程に、引き締まり帰国し、社員達の前へ姿を現した
社員達は社長と共に烈もトナミにやって来るのだと、何処かで思っていた
が、烈は帰国して直ぐに熱を出して寝込んだと聞くと、戸浪はかなり無理していたんだろうか?と心配して康太に連絡を取った
「康太、今回は本当に世話になったね
所で烈は大丈夫なのかい?
流生に熱を出していると聞いたんだけど?」
『あぁ、若旦那、【R&R】の仕事も重なって寝ずに仕事していたのも有って体調を崩したのです
烈が起きれる様になったら一度伺います!』
「流生達が帰る時にフルーツを持たせるから、せめてもの詫びに受け取って欲しい……」
『それは烈も喜びます!』
「ではまた!」と言い電話を切った
烈が会社に来るまでは、と流生とレイはトナミに出向いて最終段階の調整をしていた
3日後、烈の熱が下がったと流生から聞いた
熱が下がった日、烈は久遠の診察を受けて、もう普通の生活に戻って大丈夫だ!と謂われて帰宅して来た
その日の晩 烈は客間に家族を集めた
烈は中央に座して、黙って椋を睨み付けていた
竜胆がその横に座り、反対側に稀代の真贋が座った
その前に椋が座っていた
清隆、玲香、瑛太、慎一、一生、聡一郎、隼人も家族会議に参加していた
榊原の家から真矢と清四郎も呼ばれて、それを見届ける為にいた
流生達兄達も黙ってその場に座っていた
宗右衛門は「では、始めるとするかのぉ!五通夜の失敗は主の連携不足によるモノだと理解しておるか?」と切り出した
椋は何も言わなかった
その場で宗右衛門は見切って、立ち上がった
竜胆が「待ってくれ!宗右衛門!」と呼び止めた
「儂を呼び止めると謂う事は、主が何とかすると謂うのか?」と問い質した
「宗右衛門、俺だってどうして良いか解らねぇんだよ!
だけど、宗右衛門が継ぎを決めたんじゃねぇのかよ?」と訴えた
「確かに儂が宗右衛門を継がせると決めはした
が、今世は顔見せだ、その顔見世で上手く連携出来ぬ者を来世に逝かせる訳には逝かぬ!
儂の選択ミスじゃな!
継ぎを早急に見付けるしかなかろうて!」
「宗右衛門はそれで良いのかよ?」
「ならば問おう竜胆よ!
唖ならば手話でも伝える術はある筈じゃ!
じゃが何も発せぬ者をどうやって解り合えと申すのじゃ?
以心伝心するのか?
竜胆、主は椋とはその域まで達しておるのか?」
「…………ならばどうしろって謂うんだよ!
俺だってコミニュケーション取れるならば、取ってるよ!
以心伝心?そんなの到底無理だろ?
俺にはそんな力はねぇよ!
俺が無力で非力だから………謂う事を聞かせられねぇなら………其処までしかねぇのか?
俺は毎日悩んで悩んで………でも出口が見えなかった………宗右衛門 教えてくれ……俺はどうしたら良いんだよ?」
竜胆は頭を抱えて泣いていた
レイは「卑怯者!こんなに竜胆が悩んでるのに、何一つ謂う気はないのですか?」とニブルヘイムの声で問い質した
椋は「…………」何か言わなきゃ!と想えば想う程……言葉が出て来ないでいた
宗右衛門は「レイ、暫し待たれよ!」と謂われて、黙った
「東矢、連携が大切な事、理解しておるか?」と問い質した
椋は頷いた
宗右衛門は思い切り椋を殴り飛ばした
殴り飛ばされた椋の唇が切れて血を流した
慎一がそれを目にして止めようとしたのを康太が「宗右衛門の話の最中だ捨てておけ!
飛鳥井の一族は絶対に宗右衛門には逆らっちゃならねぇって事を忘れるな!」と止めた
「東矢、返事はどうした?」
「はい……」
「聞かれたら直ぐに返事をせよ!」
「はい!」
「轍から外れる気か?」
「それは嫌に御座います!」
「ならば何故竜胆と連携を取らなかった?」
「申し訳御座いませんでした」
謝罪をする椋を宗右衛門は容赦なく殴り飛ばした
「誰が謝罪を要求したのじゃ?」
椋は唇を噛み締めた
竜胆が椋の唇をティシュを鷲掴みに取り押さえた
宗右衛門は「人の話を聞いておらんのか?」と謂う
東矢は「聞いてます!」と答えた
「ならば何故連携を取らなかった?」
「貴方はレイばかり優遇しているじゃないか!
絆が有るかどうか知らないけど、僕にはそんなのは関係ないんだよ!」
興奮して話す言葉を身も凍るような瞳で視て
「それで?」と返した
「貴方はレイさえいれば良いんじゃないか!」
東矢がそう謂うと竜胆は「それはこじつけだろ?東矢!」と一蹴した
「こじつけではない!」
「ならば問おう、宗右衛門にとってレイさえいれば良い?
本気かよ?東矢……確かに宗右衛門はレイには甘い
だがレイが何もせずにいても許されると思っているのか?」
「でしょ?特別なんだから!」
宗右衛門は嗤った
「確かにレイは特別じゃな、儂にとっては!
じゃが1000年続く果ての邪魔になるならば、儂は関係なき存在にして傍にいた方が楽じゃから、喜んで関係なき者にする!
じゃが稀代の真贋を継げれる者など、半端な者ではなれぬ!
神の力を兼ね備えておらねば、稀代の真贋になどなれはせぬ!
視えねば刻めぬ明日があるのじゃ!」
「貴方が気に入っているか?どうかでしょ?」
頑なな東矢は総てを突っぱねていた
宗右衛門は溜息をついて
「ならば稀代の真贋の眼を体験するとよい!
稀代の真贋と謂われる存在はそんなに簡単なモノではないし、儂が気に入っておるだけではなれはせぬよ!
レイ、暫しの間だけ東矢の瞳と同化さるのじゃ!ニブルヘイムの眼を見せてやる故、視るがよい!
レイが稀代の真贋を継げるだけの器かどうか、をその身で知るがよい!」と言った
レイは東矢の手を握り締め、呪文を唱えた
すると東矢の視界はレイの眼と同化され、視てる世界を変えた………
レイは「そのままで明日まで過ごしなさい!
明日の晩、話し合いましょう!」と言った
宗右衛門は竜胆に「竜胆、主も視てみるか?」と問い掛けた
「五通夜の時にその瞳は借りた
俺には………少しばかり荷が重いからな良い!」と言った
康太は「ならば宗右衛門、今夜は話し合いにはならねぇって事か?」と問い返した
「じゃな………しかし何故にこんなに頑ななのか…
辟易しそうじゃな!」とボヤいた
「おめぇがレイばかり依怙贔屓してるからって言ってたやんか?
そんなにあからさまだったのかよ?」と問い掛けた
それに答えたのは一生だった
「宗右衛門は平等だったぜ!
烈はレイの面倒をよく見ていた
だが凜や椋と区別や差別なんてしてなかったと想うぜ!
まぁレイは何時も烈絡みで泣いていたから、そう思うのかも知れねぇが、翔も兄達も弟同然の接し方してて、凜はにーしゃん、レイはにーにと呼んで懐いていた
椋だけが兄達とも距離を取り、馴染めずにいたのか?馴染む気がないのか?と俺達は思っていた」
榊原は「椋……いいえ、東矢、この家にいるのは嫌ですか?」と問い掛けた
「いいえ、そうではありません」
「ならば何故連携しなかったのですか?」
「連携しなかった訳じゃない
レイが聞かないから…取れなかっただけです!」
聡一郎は「どうあってもレイが邪魔ですか?」と問い掛けた
「甘えて何もしないレイに辟易なんです!
何故彼が稀代を継げるのか?すら理解したくもない!」とまで答えた
竜胆は「なぁ東矢、レイは連携してたぜ?
お前が無視して返事すらしなかったんじゃねぇのか?
そんなに決められた轍を逝くのが嫌ならば、宗右衛門を継ぐ資格なんてないわ!
俺は嫌だぜ、来世でもこんな身勝手されたら宗右衛門が築いた1000年続く果てへが途絶えてなくなるしかねぇからな!」
と言い捨てて、客間を出て行った
宗右衛門もさっさと自分の部屋に引き上げて行ってしまった
真矢は「何だか……空回りし過ぎね椋」と悲しげな顔をした
康太は「宗右衛門が判断を下す!1000年続く果てへは宗右衛門が築くが役務だからな!」と言い捨てた
そして「母ちゃん、父ちゃん船旅の準備は出来たのかよ?」と問い掛けた
玲香は「あぁ万端じゃ!」と笑顔で返した
康太は「椋、部屋に行けよ!そして明日の晩までに答えを用意しとけ!」と言った
椋は客間を後にした
瑛太は「宗右衛門の果てが狂わねば良いのですが……」と心配して呟いた
康太は「まぁなる様にしかならねぇだろ?」と諦めの境地だった
翌日 椋は普段通り支度をして学校へ向かう
飛鳥井の家の中では変だな?目がおかしくなったのか??と想っていたが、外の世界へ出ると視界は更に一変していた
擦れ違う人の内面が透けて視えて、走馬灯の様に果てが映し出される
椋の視界は垂れ流しで総ての映像を拾っていた
人の悪意が透けて見えて、己の内の醜さも透けて見えていた
ドロドロとした黒い屁泥に侵食されてしまいそうな恐怖に駆られる
自分は何を見ているんだろう?
歩けなくてトイレに駆け込み吐いた
こんな世界など知りたくない………
これがレイが視ている世界だと謂うのか?
稀代の真贋を継ぐと謂う事は、こんなにも大変な想いをしないと駄目なんだろうか?
自分は何を視ていたんだろう………
気を取り直して歩き出す
もう前は向いていられない……
下を向いて………己の足元を見て立ち止まった
立ち止まるともう歩けなくなっていた
そんな椋に康太は近寄った
だが椋はそれさえ気付かずにいた
康太は「椋、少し話をしようか?」と声を掛けた
「真贋……貴方はこんな世界を視ているのですか?」
「オレはレイの眼とは違う
オレの眼は人の果てを映す
視て見るか?」
椋は首を振った
「少しオレの話を聞け!」
「はい……」
「その瞳はニブルヘイムと謂う創世記の一柱の神の眼だ!
ニブルヘイムの眼は、オレの眼と正反対になる様に出来ているんだよ
ニブルヘイムの眼は、人の悪意や闇を見抜く様に出来ているんだよ!」
「ニブルヘイム………それがレイなんですか?」
「そうだ、この蒼い地球(ほし)を護る為にオレとニブルヘイムは存在しているんだよ!
稀代の真贋を継げる存在なんてのは、アイツしかいねぇからな!
宗右衛門の人選は間違いじゃねぇんだよ!
そして何故烈はレイを大切にするか?
その話をしてやるしかねぇと想ってな」
「特別なんでしょ? ならば別に話なんて聞かなくても良い!」
「それだとお前はこの家から出て飛鳥井すら名乗れなくなるぜ?」
「え?………それは何故?」
「竜胆が拒否れば、お前はもう宗右衛門を継ぐ事は出来ねぇんだよ!
その選択を今夜せねばならぬからな
お前と話さねぇとなって想って来たんだよ」
「僕は……どうすれば良かったんですか?」
「それはお前が考えて決めねぇとならねぇ事だろ?
まぁオレの話を聞け!」
と謂うと椋は「はい!」と返事をした
「この蒼い地球(ほし)には天界、人界、魔界、冥府と謂う別け隔てがあり天界と魔界が人の世を管理して、冥府は全てにおいて中立の立場で闇の動きを管理している世界がある
魔界には素戔鳴尊と謂う天魔戦争を闘い抜いた英雄がいたんだよ
素戔鳴尊と謂う名は魔界では知らない者がいない程に名を轟かせ有名になり、名家となった
その一族ってだけで魔界ではかなり優遇され続けた時代があった
一族ってだけで優遇される、そんな美味しい甘い汁に群がり欲深く回りを蹴落とそうとする愚か者一定数必ずはいる
そしてその愚か者は一族の中で頭角を現す者の頭打ちをして、目が出る前に潰しに掛かった
素戔鳴尊の直径の子供は沢山いたが、殆どが潰し合い消滅して逝った
素戔鳴尊の息子の一人に大歳神はと謂う神がいる
大歳神は倭の国に残り、豊穣の神として倭の国を守護していた
その子供が聖神だ!
素戔鳴尊の直系の孫に当たる
聖神は祖父に憧れ、少しでも近くで過ごしてみたいと魔界へと渡った
血筋ならば誰にも負けない立派な直系だ!
大歳神は倭の国を守護する神だ
だから大歳神は動く事は出来ないが、我が子が魔界へ行きたいと謂うのならば、行かせてやりたいのだと、素戔鳴尊に頼み魔界へと送り出した
だが、魔界へと渡った聖神は、血筋が立派すぎて煙たがられ、熾烈な嫌がらせを受ける日々を送る事となった
生きているのが嫌になる程の嫌がらせをされ、蹂躙された
そんな時に聖神を励まし続けたのが、冥府の地下深くを守護していたニブルヘイムと謂う神だ
二人は世界樹の樹の下で出会い、互いを励まし合い、日々を過ごした
二人の出逢いまでで解らねぇ点はねぇか?」
「聖神………と謂うのが宗右衛門ですか?
そしてニブルヘイムと謂うのがレイですか?」
解っているか確かめる様に、問い質した
「そうだ!んじゃ続き話して良いか?」
「はい……」
「辛い魔界の日々の中でも聖神は幸せを見付けた
愛する人と結ばれて子を成した
ニブルヘイムも辛かった日々を耐えていた聖神にとっての幸せを祝福した
だがそんな幸せな時間は長くは続かなかった
妻と子を略奪されたんだよ
愛した人は知らない内に一族の者のモノになっていた
大切にされるならば納得もしただろうが、奪う為だけに奪った女に興味なんて直ぐになくなり、その日から聖神を苦しめる為だけにいたぶられ蹂躙され……日々衰弱して逝く妻と子を目にして聖神は復讐すると決めたんだ
日々復讐の炎を心に燃やし一族なんか滅べと願う
そんな聖神をニブルヘイムは視ているしか出来なかったんだ
聖神はニブルヘイムに逢いに行く事もせず、復讐を遂げる事だけ夢見て過ごした
聖神は己が滅んで無くなっても良いと願っていた ニブルヘイムはそんな聖神の幸せだけを願って夢見ていたんだよ
素戔鳴尊の一族の者は総てを追放され、解体され…………復讐を遂げ聖神の願いが叶った日
聖神は処刑され人の世に堕とされる事となった
最期の夜ニブルヘイムは聖神に自分の眼を与えた
聖神はニブルヘイムの眼を貰い断罪され、全て消えて無くなる事を願っていた
だが聖神は人の世に堕とされ、初代宗右衛門として生を成し転生した
そして時は巡りニブルヘイムも人の世に転生して聖神の傍へ転生を果たした
それが烈とレイの絆であり、結び付きなんだよ!」
そんな深い結び付きがあったなんて……
椋は言葉もなかった
「聖神は初代宗右衛門として生を成し飛鳥井で生きて来た
1000年続く果てへと繋げねばならない役務があるんだよ!
だからその邪魔になると判断したならば、宗右衛門はレイを躊躇なく切るだろう!
別に稀代の真贋なんて継がせなくても、烈は宗右衛門の事業を継いで収入はあるし
今世は【R&R】と謂う活動もしてるからな
レイ一人位養う力はあるんだよ
レイが足を引っ張っている存在だと見做したら、宗右衛門は大切にしようが切れるんだよ!
そこの所を踏まえて、レイは足を引っ張っているのかよ?」と問い質した
東矢は「引っ張っておりませんでした」と言った
「ならば何故昨夜はあんな台詞を吐いたんだよ?」
「………羨ましかった………のもあります
何時だってレイは兄さん達からも可愛がられて………大切にされていたから………」
「流生達はお前を蔑ろにしていたのか?」
「…………いいえ、凜はにいしゃんと懐いてました
僕だけが馴染めずに僻んでいたんです
直ぐに烈に甘えて泣くレイにイラついてました
どうしてレイばかり優遇されるんだ!と想っていました」
「レイは優遇されていたのかよ?
まぁ烈はレイを傍に置き大切にはしてただろう
死にたい位辛かった日々を支えてくれた人だからな、どうしてもレイは大切にはされていた
だかお前と凜も大切に扱わなかったか?
お前等の生活費や学費はオレと宗右衛門の折半で出しているって知っているか?
金だけ出させて文句言ってる様なもんだって気付けよ東矢!」
東矢はハッとした顔になった
生きる上で必要なお金は総て飛鳥井が出してくれているのだと思っていた
私学なんて高い幼稚舎に通い、家庭教師も着けて学んているのだ
普通の子供よりお金が掛かるのだ
そのお金は康太と宗右衛門が折半して払っていると謂うのか?
「僕等の生活費や学費は真贋と宗右衛門が払っていると申されるのか?」
「そうだぜ!烈はその収益を己の為には使わねぇ!会社へ貢献し会社に還元し利益を上げる努力をしている
宗右衛門がお前と同じ年には既に継いで利益を上げていた
子会社の施工会社を作った、その金も宗右衛門の金から出ている!
1000年続く果てへと繋げねばならないからな
宗右衛門はその死命で動いている
だがお前は?不平不満ばかり口にして何をしてるんだよ?
別にお前等の生活費や学費なんてのは出すのは惜しくはねぇが、何もやらねぇ奴に出すのは筋が違うだろ?だから話しているんだよ?
宗右衛門の果てを狂わせるな!
飛鳥井の中で宗右衛門は絶対だと思い知れ!
序列で言えば稀代の真贋と同列で同等だ!
お前は宗右衛門は継げねぇな
こんなに劣るなれば考え直さねぇとならねぇ!」
康太の言葉は現実を突き付け、東矢は崖っぷちに立たされる事となった
レイの眼で視る康太は緋い焔を蒔き散らし、神の姿をしていた
そしてその横にいる榊原は蒼い龍の姿に視えていた
こんな世界を視ていたのかと……今更ながらに想う
「……今一度………チャンスを下さい!」
「それはオレに謂う事じゃねぇぜ!
オレには何もしてやれねぇからな!
それを決めるのは宗右衛門だ!
そして竜胆が拒否れば、全ては振り出しとなる!
だからなオレに何を謂われても、何ともしてやれねぇんだよ!東矢
オレは明日の飛鳥井の為に生きている
だがそのレールを敷いているのはオレじゃねぇんだよ!
明日の飛鳥井のレールも、1000年続く果てへと続くレールを敷いているのも宗右衛門だからな
逝くべき存在じゃないと見做されたら、そこで全てが終わるんだ!
まぁお前が成人するまでは、転生させたオレの役目だかんな面倒は見てやるよ!
だがそれは飛鳥井の轍から外れた場所で過ごすしかねぇって事だと頭の中にいれておけ!」
「…………はい………すみませんでした」
「レイを憎む前に、気付くべきだった
稀代の真贋を名乗れるのは、神が如くの力を持たねばならぬって事を………
その眼で視れば解るだろ?オレと伊織が普通の人間じゃねぇって!」
「はい………」
「おめぇは女神から与えられた眼でさえ視てねぇから、壁に突き当たってしまったんだよ!」
言葉もなかった
「その眼でもっと人混みを歩いて人を知れ!
夜になったら、昨夜の続きをする!」
「はい!」
そうして康太と榊原は何処かへ消えた
椋は行く宛もなく人混みを歩いていた
その後ろを凜とレイが追って歩いていた
竜胆は「このままって訳にはいかねぇよな?」とボヤく
ニブルヘイムは「でしょ?よくもまぁあの眼で人混みを歩けるなって感心するわ!」と嗤った
「お前の眼だろ?」
「私は普段はフィルター掛けられますから!
宗右衛門だって垂れ流しで視ている訳ではありませんよ?
それに元は私の眼だったとしても、長い年月が宗右衛門の眼に馴染み機能を変えていますからね」
「俺は眼は無いが人の少し先を知る事は出来るんだ!
恵方の様な予知予見の力はないが、東矢は今、崖っぷちに立たされるってのだけは解る」
「後がないのは私だって解りますよ
宗右衛門、めちゃめちゃキレてましたからね
あの人は悔しい時は何もしないんです
殴られる時はまだマシなんです
最後の方、冷たい眼で視てただけだったのは、相当キレてましたからね」
「それ、俺も想った!
だから宗右衛門より先に客間を出たんだよ
そしたら話し合いは終わるからな!」
「ねぇ竜胆、貴方は東矢が宗右衛門で良いと想ってますか?
私は耀の方が適任だと想っていました
何故東矢なんでしょう?
東矢に源右衛門を継がせれば良いのに……」
「それな、俺も想った
だけど東矢には何かあるんじゃねぇのか?
其処が知りたくて躍起になっていたが、俺ではそれを知る事は出来なかったな」
「あ!見失うじゃないですか!」
とレイは慌てて走って行く
凜も一緒に着いて走る
その光景を烈は両親と見て笑っていた
康太は「宗右衛門、レイが言ってたの俺も想った
あんで耀じゃなく東矢を後継にしたのかって?」と問い質した
宗右衛門は「東矢はまだ力を隠し持っておる!
近い内に能力解放の儀をやるつもりじゃったのじゃ!」と謂う
「え?力持っているのかよ?東矢」
康太は驚いていた
「東矢は儂の様な眼はないが、目の代わりになる式神を持っておるのじゃよ!
その式神は封印されて奥深くで眠っておるのじゃ
それを目覚めさせ使える様にすれば、宗右衛門の器になると踏んで据えたのじゃよ!」
「式神?竜胆も式神使いだよな?」
「竜胆も覚醒の儀をやれば、本来の竜胆の力は復活する故、二人で覚醒の儀をやるつもりじゃった
その前にこれじゃからな、儂も困り果てておる」
「どうするよ?宗右衛門」
「まぁニブルヘイムの眼がどう東矢に作用するか?それからであるな!その前に、竜胆とレイが何とかするやもな!」
「だと一石二鳥やんか!」
「であるな、まぁ駄目ならば、その足で菩提寺に行き覚醒の儀を即座にやるしかなかろうて!
なぁに儂に掛かったら覚醒の儀など連通連夜30通夜程の苦にもならぬ!」
「連通連夜30通夜か、あれはやりたくねぇよな
腹は減るし自給自足だし、一ヶ月それをやらねぇとならねぇ苦労はしたくはねぇわな!」
「儂は前世で3回それをやった!
それ故、今世は免除されておる
連通連夜30通夜をやるには今の連携では、末路は死あるのみだからな!」
「まさか、宗右衛門………やらせる気なのか?」
「初等科を卒業する年にやらせる気じゃった
竜胆もその気だったからこそ、五通夜をやり連携を深めるつもりじゃった」
「来世は其れ程の絆を要するのか?」
「であろう、前世で恵方がそう申していたと言っておったからのぉ〜」
「恵方の予知予見の未来視の結果か?」
「で、あるな、だから今世は顔見せに重きを置いたのじゃよ!
今世に竜胆、次代の稀代の真贋、次代の宗右衛門、次代の源右衛門の転生者を誕生させたのは偶然ではない、必然なのじゃよ!」
「ならば連通連夜も30通夜をやらせねぇとならねぇってのは理解したわ!
此処で踏ん張らねぇと来世の絆が出来ねぇって事ならば、オレも本気出す事にするわ!」
「母しゃんは本本気だしゃにゃくて、大丈びなのよ!本気出すのは竜胆だからね!」
「え〜本気出し全力でぶっ放してぇんだが…」
「駄目よ!それは凜とレイがするにょよ!」
「見てるだけって疲れるけど?」
「にゃら此処で気づかにゃいなら、ぶっ放して良いにょよ!」
「おっ!頑張るぜオレは!」
指をパキパキ鳴らして康太は気合を入れた
ともだちにシェアしよう!