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第70話 不穏な空気 ❸
竜馬の言葉に烈は嗤うと
「りゅーま、ボクの話聞いていたかしら?
ボクは今世紀最大の喧嘩を売るにょよ!
だからねりゅーま、8月で1年になるから、それまでにロードのお墨付き貰って来るにょよ!」と謂う
竜馬の顔は笑顔になり「了解!」と言い烈を送り出した
烈は「菩提寺から崑崙山へ出て魔界へ行きます!」と謂うと榊原は
「ならば僕は龍になり妻を乗せて魔界へ行きます!」と言いレンタルした部屋を出て行った
烈はケントを呼び菩提寺まで兵藤と共に送って貰い、菩提寺へ着くと本殿儀式の間へ入り、其処から神の道を開き崑崙山を目指した
神の道を歩いてると烈が
「あれ以上の情報は出ては来ないわよ!」と言った
兵藤は「何故にそれが解るんだ?」と問い掛けた
「竜胆の魂が分割された、それは意図的な何かが手引していたとしたら?
そして手引した奴が意図的に欠片を誰かに埋め込み、竜胆のコピーを作ろうとしていたとしたら?
凜は土蔵の中で暮らしていた………それは何かしらの意味が在ると想っていたのよボクは………
まさかね竜胆の欠片を埋め込み作られたのが律だなんて想いたくないけど………」
烈が言うと兵藤は驚いた瞳を烈に向けた
「律って清四郎さんに引き取られて榊原の家に行った子か?
その中に竜胆の欠片が在るって言うのか?」
「………誰にも言ってないのよ………それは
でも律が竜胆と共に土蔵にいた時点で、律は何らかの因果を背負い生まれて来たのだけは確かにゃのよ………多分………律は欠片を埋め込まれ作られた竜胆のコピーなのよ
竜胆の気配を纏わせて、あわよくば竜胆の方を切り律が竜胆に成り代わる………なんて計画して作られたとしたら?」
烈が言うと兵藤は「おい!そんな事簡単に言うなよ!」と怒りを滲ませ言った
烈は兵藤の目を射抜き
「簡単に言ってないわよ!
こんな事……簡単に言える筈ないのよ!
本当に人を弄ぶわね………!
朱雀!これが現実よ!
魂を弄ばれた結果にゃのよ!」とズバッと言った
兵藤は立ち止まると涙を流した
「此れが現実?……だったら律は何の為に生まれて来たんだよ!」と叫んだ
榊原の家では明日菜に邪険にされ、事務所の寮に入り………別の生き方を始めていると言う
烈は宗右衛門の声で
「輪廻転生は朱雀の領分
だからこそ………こんな不幸な運命を押し付けぬ為に、魂の管理をちゃんとせねばならぬじゃよ!
杜撰な管理で儂は殺されかけた
ヘルメースが救ってくれねば、儂は永久に輪廻転生は出来ぬき暗闇の世界で消滅するしかなかった
儂の様な奇跡は二度とは起きぬ………だからこそ、魂はちゃんと管理されねばならぬじゃよ!」と言った
「宗右衛門………」
宗右衛門の魂は冥府の間に放り込まれていたと言う
何故そうなってしまったのか?は今更誰にも解らない
だが悪意に満ちた者の手により、葬り去られようとしたのは確かだった
なのに……そればかりか竜胆と律の運命まで大きく狂わす事になろうとは………
「過ぎた事は悔やむでない朱雀!
今後は同じ轍を踏む事はない様に目を光らせておけばよいだけじゃ!」
「竜胆の魂は欠けた……それはどうするつもりだ?」
「魂は成長する、今はまだその成長が望める年齢故、覚醒の儀を行い、竜胆の魂を完全に蘇らせる
そして魂が定着したら、完全覚醒の儀を行うつもりじゃよ!
それで竜胆の欠けた魂は何とかなるじゃろう!」
「ならば、其れ等の儀式の見届人として儀式に参加する!」
「元より数に入れてあるから案ずるでない!」
宗右衛門はそう言うとサクサク神の道を歩いて行った
崑崙山へ出ると烈は愛馬アルくんとタカシを呼んだ
「アルくん、タカシお仕事よ!」
と言うとアルくんが嬉しそうに走って来た
少し遅れてタカシとレイモンドが嬉しそうに走って来た
烈は「兵藤きゅん、タカシの背にコオたんとイオリを括り付けてね!」とお願いする
兵藤はタカシの背にコオとイオリを乗せて括り付けた
そして馬に乗り込むと素戔鳴尊の家へと向かった
素戔鳴尊の家に到着すると、龍になり妻を乗せて来た榊原と康太がいた
烈は祖父の顔を見ると「魂、ちゃんと回収して来てくれた?」と問い掛けた
素戔鳴尊は烈をアルくんから抱き上げて下ろすと
「あぁ、ちゃんと回収して来たから大丈夫じゃよ!そして何と閻魔大魔王の協力を得て、二匹は話せる様になれるとも申しておった!」と説明した
烈は「えー!話せるの?イオリは愛してるコオ!しか言わないわよ!
だから話せなくても良いにょに………」とボヤいた
榊原は何だか自分の事を謂われてるみたいで気不味かった
素戔鳴尊は「そんな事は申すでない!」と孫を窘めた
兵藤はコオとイオリの体を縁側に二匹仲良く並べると、素戔鳴尊は回収しておいた魂を二匹の中へと入れた
先に目を醒ましたのはイオリだった
イオリは横に寝ているコオを見付けると
『コオ!コオ!ボクを置いて逝かないで!
愛しているから目を醒ましてよ!コオ!』と嘆いた
だが愛しい男の声にコオは目を醒す
するとイオリは『愛してますコオ!』と叫んだ
烈は「ほらね、愛してるしか言わないにょよ!」とボヤく
兵藤は「うしうし!んなに拗ねるなって!」と烈を宥めた
烈は「コオ、イオリ!」と2匹の前に行くと名を呼んだ
するとコオとイオリは起き上がりおすわりをすると烈の顔を見上げた
「今日からコオたん達と共に生活をしてくれる素戔鳴尊、ボクのじぃしゃんよ!
お行儀よくしてないと捨てちゃうからね!」
と脅しを込めて言う
2匹は首をブンブン振って頷いた
「話せるわよ、ほら二匹とも話してごらん!」
『あー』『うー!』と二匹は声は出した
素戔鳴尊は笑ってコオとイオリを家の中へ入れた
家の中には聖鳥 朱鷺がいて二匹を見ていた
烈は「仲良くするにょよ!トキたん!でないと羽根を全部毟るわよ!」と脅した
トキは『仲良くする!』と言った
「じぃしゃん、取り敢えずお願い出来るかしら?
ボクは此れから崑崙山へ行き蕪村の社員名簿と禁断の巻物を母しゃんに渡さないと駄目にゃのよ
明日は仕事始めだし、今度暇見つけて来るわね!」
「あぁその者達の事は案ずるでない!
それよりも怪我に気を付けて過ごすのじゃぞ!」
「解ってるわよ!じぃしゃん」
烈は不安そうな顔をしたコオとイオリに向き直りしゃがむと
「寝る時とかコオたんとイチャイチャしたい時は、この屋敷の裏に家を建てて貰ったから、其処へ行くのよ!
くれぐれも、じぃしゃんの眼の前で盛らないようにね!」と釘を刺す
イオリは『解った、ボク達は離れなくても良いのですか?』と問い掛けた
「愛を貫いたイオリにご褒美にゃのよ!
この魔界で愛する妻とずっと過ごすにょよ!
そしてトキたんとも仲良くしてやってくれると嬉しいのよ!
そしてやっぱ、じぃしゃんとも仲良くして欲しいにょよ!」
烈の優しい想いが心に染み渡る
愛を貫いたご褒美だと謂われれば嬉しくて泣きたくなる
コオは『皆と仲良く過ごす!』と言うと烈はコオを撫でた
「もう痛い事はないからね、イオリと静かに過ごすと良いにょよ!」と謂われれば泣けてくる
『烈!烈!………ありがとう!』
烈はコオの頭を撫で、イオリの頭を撫でると、トキの頭も撫でて
「ならね、じぃしゃん!また来るわね!」と言い両親の傍に行った
康太は「オレ等は少し閻魔と話をする!」と言うと、康太は兵藤を見た
兵藤は「ならば俺はコオとイオリと少し一緒にいて崑崙山の烈の屋敷に移動する事にするわ!」と謂う
「んなら崑崙山でな!」
と言い康太と榊原は、烈を連れて閻魔の邸宅へと向かった
閻魔の執務室を尋ねると、会議室へ通された
会議室には四緑が既に待ち構えていた
四緑は烈の姿を見ると
「ワン達、素戔鳴殿の所へ逝けた?」と声を掛けて来た
「四緑が導いてくれたにょ?」
「あぁ、台帳を創りそこに名を記し魔界へ住む許可を与え、話せる様にした
魂を迎えに行く時は俺が素戔鳴殿と共に行き、閻閻魔大魔王の許可の元、黄泉の旅路へと旅立たせた」
「ありがとう四緑!
手間暇掛けたわね!
お礼は何でもするわよ!」
「なら俺の家を建てて貰おうかな!
今までの総てを捨てるから新しく始めるとする
我が主の子息であるお前に誇れぬ自分は捨てる事にした!
だから新しくスタートを切れる様に新しい家を探しているんだよ!」
「なら腕によりをかけで作るわよ!
春休みには来て建てるわよ!」
と言い笑った
閻魔の秘書官が皆に飲み物を置いて行く
飲み物が置かれ秘書官が四緑と共に出て行くと閻魔大魔王が
「竜胆の魂の事について話をしたいのですが?」と本題を切り出した
烈は閻魔大魔王を視た
閻魔大魔王は静かに烈の瞳を受け止めていた
宗右衛門は「竜胆の魂は悪意の行為により何分割かにされた………そしてその欠片で創られたのは多分律じゃろ!それは朱雀にも話をした
あわよくば本物の竜胆を捨て去り、魂の欠片を持つコピーの律を助ける様に仕向けられた悪意じゃよ!そんな悪意の元二人の人間が翻弄され苦しんでおる!それが真実じゃよ!」とズバッと言った
康太は「やはり二人が蔵に閉じ込められていた意味はそれしかねぇよな……
本当に人を弄びやがるな……!!」と悔しそうに吐き捨てた
閻魔大魔王は「足りない魂は……どうも出来ません
律から返して貰えば……律の寿命は尽きます」と現実を口にする
康太は「宗右衛門がまだ魂が柔和なこの時期ならば、覚醒の儀を行い竜胆の魂を呼び起こし、定着したら完全覚醒の儀を執り行い、欠けた魂を補うと言っていた
だから兄者には恵方と源右衛門の【血】を何とかして貰いたくて寄らさせて貰った!」と切り出した
「恵方と源右衛門の【血】ですか?
それは本人から流れた【血】しか効果はないのではないですか?」
閻魔大魔王が言うと烈は「そうね……容器に入れて流したとしても効果はないわね!」と言った
「ならばどうします?
二人の魂は転生まで眠らせてあるので可能ですが……人の世には逝かせられません!」
「ならば魔界で完全覚醒の儀を執り行うしかないわね!」
烈が言うと康太が「ならば竜胆と転生者が魔界へ入る許可を頼む!」と言った
閻魔大魔王は考えて……「許可を出しましょう!」と言った
康太は「此れで何とかなったな!」と安堵の息を吐いた
閻魔大魔王は「烈、閻魔庁ですが、建築長くないですか?本当に建つのですか?」と不安げに問いかけた
烈は出された紅茶を飲みながら「建つわよ!失礼ね!」と怒った
「ですが烈!魂の管理庁舎や武道場よりも長くないですか?」
「閻魔庁の地下にお札の印刷所を作る分、どうしても時間が掛かるにょよ!
しかもえんちゃんカフェ的なのも欲しいと言ったじゃにゃいの!
其れ等を製図に落とせば、時間は掛かるわよ!
どの庁舎よりも立派なのにしたい!
そう言ったじゃにゃいの!
今後の裁判所や法務庁舎の建設もあるんだけど、どの庁舎よりも立派なのが良い!
って言った分時間は掛かるにょよ!」
と烈はボヤいた
どの庁舎よりも立派なのが建つと言われ閻魔大魔王はご機嫌になった
閻魔大魔王は「妖精達の家は順調に仕上がって魔界に棲みたいと謂う妖精が増えました!
妖精の家の木は今後は崑崙山近くの山に植樹を続ける予定です!
そして金龍は誓約の地を境界線ギリギリまで拡げ、その地に家を立て始めました
金龍の家の地下はシェルターを作るのでしょ?
少し難航しているのでアドバイスをお願いします!」と今後の予定を烈に知らせる
「金ちゃんちは、シェルターを併設して創るからね、今度長い休みを取って大歳神と共に行く時じゃにゃいと無理なのよね
少しだけ待たせといて!」
「解りました、で、そのシェルター、閻魔庁の横にも作る予定なのですね?」
「そうよ、今後闘いに突入した時に老人や子供、闘えない者達はシェルターへ避難させなきゃ足手纏になるのよ!
種族を根絶やしにされない為と、怪我人を運び込む為の病院にも特化させないとね」
「そんな闘いが…………近い内にあると謂うのですか?」
「それは解らない………でも備えは怠れない!
備えて鍛え上げていなければ、今後は乗り越えられにゃい状況が来るのは確かよ!」
「ならば備えて鍛え上げて逝かねばなりませんね
武道場へ通う者達も増えました!
そして何より太極拳を習う者達が増えて、武道場に入り切らないので今は朝から2時間と決めて世界樹の広間で皆が太極拳をしています」
「闘える体を作ったならば次は武器を持たせて実践訓練させるのよ!」
「今も武器では無いですが、武器に似せたモノで戦いの訓練はしています
皆 意識が変わって来て自分の身は自分で守る為に努力しています!
私も黒龍に指南して貰い武術を習っています!」
「えんちゃん!体が引き締まって来たわね!
蓮華とは時々逢ってる?」
「はい、時々逢いに行ってます
変わりましたね蓮華………強い女になった
私が尻に惹かれる日も遠くない気がします
そして何より、息子も変わりました
礼儀を知り学ぶ姿に……私はあの子の父として生きねばならぬと痛感しました!
魂を分け合える暇に我が子を愛してやれば良かった………これからは我が子に誇れる父になりたいと想います!」
「えんちゃん、そんなに気張らなくても大丈夫よ
我が子や妻に目を向けて愛を伝えれば、思いは伝わるのよ!」
「烈………」
閻魔大魔王は烈を抱き締めた
お日様の匂いのする烈は、やはり我が弟の魂を受け継ぎし子なのだと想う
こんなにも似た優しい匂いのする子なのだから………
「あ、そうだ!蓮華はね魔界へ帰還したら玉姫と名乗らせるのよ!
蓮華の運命を遡って行くと、どうやら豊玉姫の子が蓮華の母親で、母親は絶大な力持つ女神で、期待されていたし力もあった
だけど一族の反対を押して駆け落ちして子を成した、その子が蓮華にゃのよ!
そうでしょ?母しゃん」
「え?そうなの?オレは息も絶え絶えの女に我が子を託された!
で、八仙に託して育てさせ、その力に兄者の嫁に相応しいと想い嫁にしただけで、生まれとか気にしてなったな………」
「そうなの!!ならば母しゃんは天性の勘の鋭さがあるのよ!それで無意識でも導いて適材適所配置しちゃうのね!流石 ボクの母しゃんにゃのよ!」
と烈は感激して母を見ていた
康太はたらーんとなり困った顔を榊原に見せた
康太は本当に困った人には手を貸してしまうのだ
それが果てにどう繋がるとか、そんな事は一切考えずにしてしまうのだ
榊原は笑って烈の頭を撫でると
「君の母ならば、其れ位の事が出来なくてどうします!」と謂うのだった
「父しゃん!」
康太は気を取り直して兄に向き直った
「烈の星詠みの力は魔界随一だかんな!
蓮華がそんな運命を持っていたとは知らなかったな………だが帰還したならば蓮華は今後は生い立ちを明かして【玉姫】と名乗り、閻魔の妻としての役目を果たさせるとしよう!」
閻魔大魔王は「今の蓮華ならば、ズンズン己の運命を切り開き進んで行くでしょうね!
私はそんな妻を愛して逝くと誓いましょう!」と謂うと烈は「惚気られたゃったわ!」とボヤいた
康太は「お前も愛する人を見付けて………共に生きて欲しい………」と心の内を吐露する
「そうね、魔界へ帰ったなら男前の嫁を探すわよ!ボクを蹴り飛ばして豪快に嗤う彼女見つけるわよ!」
それが第一歩だと想うから………言葉にする
閻魔大魔王は「木花咲耶姫なんかどうです?」と口にすると烈は即座に「それは嫌なのよ!」と返した
「西村を嫁に?それは御免にゃのよ!」
康太と榊原と頷いていた
閻魔大魔王は木花咲耶姫、貴方…どんだけ嫌われているんです?と想った
閻魔大魔王は笑って「時が来たならばお知らせ下さい!此方は転生者を起こして魔法陣の前に立たせておきましょう!」と約束してくれた
康太は「ならば時が来たならば知らせる故、頼むな兄者!」と言った
話し合いが終わると、康太と榊原は烈とクーを連れて閻魔の執務室を後にした
その足で崑崙山へ行き、烈の屋敷へと向かう
烈の屋敷は花に囲まれ美しい景観を醸し出していた
その横に建設中の倉庫が建てられていた
鬼ちゃん達が建ててくれているのだった
烈は屋敷の中へ入ると山の様な荷物を指差し
「この右の方が菩提寺の地下に在った巻物にゃのよ!そして左の方は古い薬局を取り壊した時に発見したモノなのよ!
金塊とか屋根裏に溜め込んでて、持ち主が死して忘れ去られたのね、結構な財産にゃのよ!」と言った
烈は山の様な荷物の中から巻物を取り出すと母に渡した
そして烈は更に部屋の奥へ入って逝くと、蕪村の社員名簿を取り出して父に渡した
康太は巻物を広げて見ていた
「確かに、これは完全覚醒の儀の巻物だな
これは初代の恵方が書いて残した巻物だな!」
「初代の頃に完全覚醒しなきゃ行けない事があったのかしら?」
「その頃の魂の管理庁は杜撰な仕事しかしてねぇならば、在ったんだろうな………だから記した
だけど使える者がいないから禁忌として地下深くに封印した、そして墓所の移転がなければ発見はされなかった………何か恵方ならば何時か宗右衛門が見つけ出す未来を詠んでいたんだろ?」
康太は幾つかの巻物を開いて見ていた
「え?転生の儀の巻物、何処にもねぇと想ったら封印されていたのかよ!」とボヤいた
烈は「菩提寺の地下に戻す時に巻物の存在を忌日に残して来世に伝えにゃいとね!」と言った
康太は心底納得して「だな!」と言った
そして巻物の中から手紙を発見すると、康太は封を切って手紙を出して読み始めた
手紙はどうやら恵方で、未来を詠み、今日この日を予知して書いた手紙だった
『稀代の真贋と宗右衛門へ
この巻物を手にする時に合わせて手紙を書きます
飛鳥井は百年しないうちに終焉を迎える
その事は稀代と宗右衛門ならば解っているだろう
歪な形になってしまった飛鳥井の果てを繋げると言うのは並大抵の事ではない
そしてこの手紙を目にしている、この時
竜胆の魂の欠片が何処かへ行ってしまった時と一致している時だろう
ならば近い内に魔界で逢えると信じている
飛鳥井は終わらない
我等の時で終わらせないでくれ!
其れ等のキーとなるのは手紙を読んでいる今にあると予知して書いてます
俺の未来視は………そこで途絶えて果ては視えない
魔界で逢う時に書き換えられる事を願って文にしたためました! 恵方 』
康太は総て読むと烈に手紙を渡した
烈は手紙を読み驚愕の瞳を母に向けた
「恵方の未来視が今世で途絶えている……嘘……」
「未来視ってのはあくまでも過程の未来を視ているだけだろ?烈!
我等が繋げた果てが途絶える訳がねぇだろうが!
今度逢った時にバリバリ視える未来へ繋ごうじゃねぇかよ!
その為に我等は血反吐を吐いて果てへと繋いでいるんじゃねぇかよ!」
バシッと背中を叩かれ烈は気を取り直した
兵藤は「お取り込み中悪いけど、俺の存在解ってる?」とボヤいた
兵藤は荷物だらけのソファーの上で寝ていた
康太は「お前良くもこんな乱雑な中で寝れるよな?」と謂う
まぁ自分は玄関の廊下でも疲れてたら寝ちゃうんだけど………今は榊原がちゃんと面倒見てくれているから言っちゃうのだった
「ソファーの上は荷物ねぇから良いじゃねぇかよ!あ、近くの書物視てたらさ何だか俺、呪われたかも知れねぇんだよ!」
【え!!!】
康太と榊原と烈は慌てて兵藤を凝視した
「なんか煙見てぇなのが体の中へ入って来たんだよ!」と兵藤は状況を話す
クーは兵藤の匂いを嗅いで「これは呪いじゃねぇよ!力を授ける巻物読んじまったんだよ!」と告げた
康太は「お前、巻物には呪いもあるし能力者が力を授ける巻物もあるんだよ!
無闇矢鱈に見るんじゃねぇよ!」と怒った
榊原は兵藤が詠んでいた巻物を奪うと康太に渡した
康太はその巻物を視て「何か解らねぇ文字で書かれているやんか!」とボヤいた
烈はその巻物を奪い見ると
「これ壊した薬局の屋根裏にあった巻物にゃのよ!クーたん何が書かれているのか?解るかしら?」と困った顔で頼む
クーは巻物を手にすると
「これは古代マヤ文明の時に書かれた巻物で、人の上に立つ者の【覇気】を手入れられるとされる巻物だな!」とサラッと言った
「兵藤きゅん死んだりしにゃい?」
「死の巻物じゃない、多分これを買い付けた輩は絶対の力を手に入れたかったのかもな
でも役不足で巻物に殺された………
この巻物は力のない者が開けば祟りが降り注がれる…………そんな仕組みだ
兵藤貴史がその力を受け継いだって事は、この巻物はもうただの紙切れだな!」
とクーは簡単に言う
兵藤は慌てて「烈ごめん!暇だったから適当に書物を見てたんだけど、この巻物が気になって開けちゃったんだよ!」と謝罪した
クーは「巻物に呼ばれたんだろ?」と言う
烈は「巻物なんてどうでも良いにょよ!
兵藤きゅんに何かあったらボクは………」と泣き出した
うぇ~んと泣かれて兵藤は困った
榊原は烈を抱き締めてクーに
「この巻物が貴史を呼んだのですか?」と問い掛けた
「だろ?でなきゃわざわざ巻物を開いて読む人間なんて滅多といねぇだろ?
巻物 = どんなのが出るか解らない
そんなの子供でも解る事を兵藤貴史がやる理由ねぇだろ!」
言われてみればそうだった
康太の傍にいた兵藤が何の警戒もなく巻物を開いて見てしまうなんて事はないのだ
康太は「貴史の体に何かあるのか?時々変身するとか?」と不安げに言うと烈も「超合金になるとか?」と問い掛けた
クーは兵藤の匂いをクンクンと嗅いで
「身体的な変化はねぇだろ?
唯言えるのは兵藤貴史は【覇気】を手に入れた!
って事だろ?」
烈は「【覇気】?それって何なの?」と涙で濡れた瞳を父に向けた
榊原は「【覇気】って覇者になろうとする意気込みとか、覇気がないとかの覇気ですか?」と口にする
クーは「兵藤貴史は覇者になるべき【覇気】を手に入れたって事だ!
少し前に竜馬がうっかり巻物を開いて紙切れにしちまった、あれは【闘気】だったな
闘気と覇気で丁度バランスは取れたやんか!
なぁに巻物の闘気や覇気は身体の一部となり本来自分が持つべき能力を少しだけ活性化させるだけだ、その後は己の力量に掛かってるって事なのは変わらないやんか!」と笑った
烈は「本当にね、ロクなの屋根裏に隠してないわね!何が【闘気】と【覇気】よ!
うちの母しゃんは、そんなのに頼らなくても物凄い闘気と覇気にゃのよ!
そんなの自分で培えって言いたいにょよ!」と怒っていた
兵藤は烈を抱き締めて「んなに怒るなよ!巻物を見ちまった俺が悪いんだから………
其れよりも竜馬も巻物見ちまったのか?」と笑って問う
烈は「解体作業中は竜馬が帰国しててね、で、出て来たの確認していたら竜馬が「此れ何っすかね?」と開いて見ちゃったのよ!
それが【闘気】の巻物だとクーたんが教えてくれたにょよ!幾らボクでもマヤ文明の文字は解読出来なくて専門家に頼もうかと想っていたのよ
もぉ紙切れになったなら、今度専門家に頼もうかしら?」と笑って言う
康太は「その薬局の屋根裏に巻物隠した奴は【覇気】と【闘気】が欲しかったって謂う訳か?」と呆れて言った
「世界征服でもしたかったのかしら?」
烈が言うと兵藤は「おいおい、闘気と覇気で世界征服なんて出来ねぇだろ?」とその考えを止めた
烈は「え?トップに立てるなら可能じゃにゃい!」と謂う
康太も「覇気と闘気で国民を震え立たせ世界を制圧するのも可能だろ?」と簡単に言う
榊原は「それもこれも軍事力があればですが………」と纏めた
兵藤は「それ怖いって!」と叫んだ
康太は「ならばお前は正しい道へ逝け!」と言う
烈は「闘気と覇気を内に抱いた政治家が出来たわね!」と嗤う
康太も「だな、楽しみだな!乱世の世を生き抜く政治家に相応しいじゃねぇかよ!」と嗤った
悪代官並の顔に兵藤は何も言えなくなった
クーは兵藤の肩に手を乗せ、何も言うな!と目配した
榊原は「さぁ帰りますよ!烈、君はまだ暴風圏内なので油断は禁物ですよ!」と釘を差しておく
烈は「はい!父しゃん!」と言った
榊原は龍なるとサクサクと康太と烈とクーと兵藤を乗せると気流に乗り時間を遡り飛鳥井の家へと還って来た
飛鳥井の屋上に康太と烈と兵藤とクーを下ろすと、榊原は人の姿に戻り部屋へと入って行った
子供達の廊下にはデジタル電波時計が掛けられていて、それを見ると時間は其れ程経っていなかった
1月4日の午後7時
烈は「お腹減ったのよ!」と空腹を訴えた
朝を食べてコオとイオリを家族で送り魔界へと向かった
昼は食べてはいなかった
康太は「キッチンに行き何かねぇか探して、なければウーバー頼むしかねぇだろ?」と言った
皆で一階へ降りて逝くと客間では笑い声が響いていた
客間に顔を出すと神野達や真矢と清四郎達がいた
烈は客間を覗き込むとレイが駆け寄って烈に抱き着いた
烈は空腹でレイに抱き着かれた衝撃で尻もちを着いた
兵藤はレイを抱き上げて「烈は今腹減りさんだ!」と伝えた
兄達は烈を起こすと宴会の席へと連れて行った
そしてすき焼きの卵を器に入れると溶いて準備をしてやった
烈の大好きな焼き豆腐やお肉を器に入れてやると烈は美味しそうにそれを食べていた
康太達も席に着くと一生や慎一が準備していた
康太は「米くれ!」と言うとご飯をパクパク食べていた
兵藤はレイが準備してやり「いいにょよ!」と言われると食べ始めた
音弥は「クーちゃん顔と足を拭くわよ!」と謂うと音弥が顔と手を、太陽が足を拭いてやった
そしてすき焼きをクーの食器に入れてやると、上手に箸を使い食べ始めた
キャットフードを食べない猫だった
ちゃんとトイレに行き、使用後は水洗を流す猫だった
そんな猫でも烈の宝物だと兄達は世話を焼くのだった
烈は凜に「話は着けて来たから、近い内にやるわよ!」と言った
凜は頷いた
その日の凜は少しだけ元気がなくて、家族を心配させた
その日以降、凜はすっかり元気がなくて………烈に凜どうしたのよ?と問い掛ける程に元気がなかった
1月6日 飛鳥井建設の仕事始めの日だった
烈は朝から掃除を始め、何時もと同じように掃除して着替えたら洗濯物を洗濯物をネットに入れて、その合間に朝を食べに行っていた
クーも一緒に朝を食べる
兄達も一緒に朝を食べ行くと………凄い事になってる烈の髪を食事を終えると蒸しタオルで直していた
風もないのにユラユラ揺れる髪を梳かしてセットする
でも揺れてるからすぐに乾燥しちゃうのか?
凄い事になっちゃうのだ
烈は食事を終えるとは洗濯を干して、スーツに着替えて支度をする
烈はケントを呼び出して一足早く会社に行くと、クーを宗右衛門の部屋に置いて、部署異動の紙をコピーしていた
出勤して来た西村も手伝い社員の枚数コピーする
「それ三階の目立つ場に貼っておいてね!」と頼む
西村は「あ~お嬢様と有名な女も現場へ行かせるのかよ?」と言い笑っていた
「結婚相手を探すなら結婚相談所に逝けば良いにょにね、しかも汗臭くて嫌になるわ!とかカフェで大声で友達と話しているんだもん
現場に送りたくなるにょよね!」
「おっ!それは私もそう想うわ!」
烈と西村は大量のコピーを持つと三階へと向かった
康太と榊原や清隆や瑛太も三階に集まると、社員達もゾロゾロと集まりつつあった
「始業十分前は社会人としての常識よ?
そんな事もこの会社の社員は出来ないのかしら?」
と烈の嫌味が爆裂する
皆 IDを通して三階に集まると西村は皆に紙を配った
其処には仕事始めから【現場で仕事する者】【他部署へ行く者】の名前が書かれていた
西村が噂していたお嬢様は紙を見て
「ならば辞めます!」と言った
西村は「ならば退職届を書かれて退職されて下さって構いません!
ですが貴方程度の人が他所の会社に働くのは大変ですよ!
ご実家も今は貴方に贅の限りを尽くして遊ばせてくれる程の財力もないでしょうから、良く見極められた方が懸命です!」と嫌味を炸裂させた
お嬢様は悔しそうに唇を噛み締めた
講習会で文句を言った社員達は何も言わず、転属の紙を受け取り………即座に移動して行った
年末年始で頭が冷静になり考えて考えて考えた末、どれだけ過酷な仕事でも食らいつくと決めたからだ
求人雑誌を見ても条件の良い会社は結構資格がないと入れない現実を突きつけられたからだ!
もし資格があったとしても経験がモノを言う
資格と経験のない者が会社を辞めて生きては行けない現実があった
現場に行く者は九頭竜の元へ集まるとされていたから、九頭竜の元へと向かった
お嬢様はやはり会社から還って行った
皆誰も止めはしなかった
自分の進退が危ういのに人なんて構っていられないからだ
一色は建築に半年身を置く事になり、棟梁が一色の面倒を見る事になっていた
水野は中村に1年鍛え上げられる事になり、部署異動した
皆それぞれに部署異動を始めた
現場へ行く者は現場へ行く前に資材管理課へ行き作業着を貸し出して貰う事になっていた
作業着を貸し出して貰い着替えたら正面玄関に集まる事になっていた
現場へ行く者は全員で15名、荷物を詰め込んだワゴンで現場へと向かう
その日から………社員達による他部署ローテーションが始まった
その日の昼頃 お嬢様の身内が飛鳥井建設に苦情を言い会社にやって来た
母親の言い分は何処までも高飛車で、娘の為に譲歩しろ!と言う
対処に当たっていた陣内は烈に内線をいれた
「朝 還って行った社員の母親が来ているんだが?どうしたら良い?」と謂う
陣内ではどう仕様もないから烈に助けを求めて来たのだった
『直ぐに行くから待ってて!会議室?』
「会議室に通そうとしたら、此処の会社は社員の両親を会議室に通すのか?と謂われたから来賓室にいる!」と伝えた
『解ったわ、待ってて!』
烈は受話器を戻すと竜馬と兵藤に
「お嬢様の母親が来ちゃったわ!」とボヤいた
兵藤は「ならば康太に知らせて一緒に行くしかねぇな!」と言い康太を呼びに行った
副社長室のドアをノックすると榊原がドアを開けた
「どうしました?」
「朝 部署異動の後勝手に帰った奴の母親が文句を言いに来てるんだよ!
烈だけじゃ荷が重いからな同席してくれ!」と言った
榊原は「ならば稀代の真贋と副社長である僕が同席しましょう!」と言い康太と共にエレベーターに乗り込んだ
康太は烈に「お見通しか?」と問い掛けた
「そうね、文句言うの解ってて現場にしたからね!」とサラッと言った
竜馬は「あの女、烈の事チビって悪口言ってたんだぜ!あんやチビの言う事を聞いているこの会社も高が知れてるって言いやかっていた!
俺は………その場で文句言おうとしたけど烈が止めたから黙って見過ごしたんだよ!」と告げた
康太は「何かうちの女性社員ってカフェやレストランで会社の悪口言うヤツ多いよな?」とボヤく
榊原も「そうですね、烈が言ってたので康太と共にカフェに言ったら文句垂れ流している社員を数人見かけましたからね!
会社の内情を垂れ流しする社員は要りませんよ!」と辛辣な事を言った
エレベーターは二階の来賓室に到着した
応接間のソファーには着物を着他御婦人がキツい香水を漂わせて座っていた
康太は御婦人を視た
御婦人は康太達の姿を見るなり鬼の形相で
「うちの娘を現場に派遣するなど、一体どういうおつもりなのですか?」と問い掛けた
康太はソファーに座ると足を組み嗤っていた
烈もその横で同じ様に足を組み嗤っていた
宗右衛門は「会社に文句を言いに来る前にお嬢様には仕事に対する姿勢を教え込むべきじゃったな!」とにべもなく言う
康太も「我が社に文句を言いに来る事自体間違いだと解りませんか?」と一蹴した
榊原も「嫌ならば辞めろと宗右衛門は何度も言いました!
嫌ならば退職され他へ逝かれればよい!
それだけの事に親が出て来ますか?」と失笑した
母親は真っ赤な顔になり
「失礼ね!貴方は誰に口を利いているのよ!」と叫んだ
宗右衛門は「清和鋼業の社長夫人如きが、誰に口を聞いておるか理解しているか?」と逆に言われキーキー興奮していた
榊原は「清和鋼業…建築用材料に混ぜものをしたとかで、今は生き残りを図るも必死になってる筈の会社が我が社に喧嘩を売ると仰るのですか?」と睨みを効かせた
宗右衛門は「青色吐息な会社じゃから娘を働きにいかせたのじゃろうて!
じゃが我が社の社訓を理解しておれば今回の事など理解は出来た筈じゃよ!
主等は娘の教育を失敗した!
誰のお陰で飯を食えているのか?叩き込まなかったから馬鹿で人を舐め腐った人間にしかならなかった!
その性根を叩き直す為に娘は現場を体験させる事にした!それだけじゃ!嫌ならば辞めればいいと何度も申した!」と一蹴した
兵藤は美緒のコネを使い清和鋼業の社長の直電の番号を手に入れると
「今 お宅の奥様が飛鳥井建設に喧嘩を売りに来ておいでですよ!」と伝えた
清和鋼業の社長は青褪めて即座に飛鳥井に来ると約束した
御婦人は「娘を正規の職場に戻しなさい!」と主張した
宗右衛門は「戻す気はない、飛鳥井建設の社員は今後は正式な部署に配置する前に必ずや現場を体験させると決めている!
今後はローテーションで必ずや現場を知る事となる
今避けたとしても何れは現場を体験せねばならぬ!それが嫌だと申すならば退職されよと幾度も申しておる!」と凛として申し上げた
其処へ清和鋼業の社長がやって来て妻の姿を見て
「お前は何をやっているんだ!」と怒った
御婦人は「だって貴方、あの子が不当な扱いをされているのよ!」と尚も引き下がる
榊原は「飛鳥井宗右衛門が決めた、社員教育の一環、全部署ローテション計画は既に発動されています!此れより2年に渡りその計画は発動されたばかりです!
飛鳥井宗右衛門の言葉は絶対です!
覆りはしません!」と説明した
清和鋼業の社長は榊原や康太達に深々と頭を下げた
烈は紙の束を取り出すと物凄い早さで計算を始めた
竜馬は烈が計算しやすいように、余白が無くなる前に新しい紙に変えてやっていた
清和鋼業社長は「私は清和鋼業社長をやっております、清和和実と申します!
飛鳥井建設の役員の方々には本当に申し訳なく想っております!」と謝罪した
清和和実と名乗った男は酷く窶れていた
「御存知の様に我が社は役員をやっていた妻の弟の独断により金属に混ぜ物をして多大な負債を背負いました!
役員や重役連中は即座に解雇にして会社の立て直しに全力を注いでますが、会社は既に青色吐息でして……
娘には大学を卒業して以来家でゴロゴロしていたので働きに出て貰いました!
ですがやはり……あの子は使い物にはなりませんか!」と悔いたように言葉にした
宗右衛門は「妻の弟や役員を切るよりも、一番に切らねばならないのが主の妻だったな!」と言った
康太も清和和実を視て
「だな、一番要らねぇのはお前の妻と娘だろ?
会社を私利私欲で狂わせた罪を取らせねぇから、こうして厚顔無恥に会社に苦情を言いに来る様なお馬鹿になっているんじゃねぇかよ!」と嗤った
飛鳥井を敵に回して生きて行ける程………清和鋼業には力はなかった
後一押し押せば……会社は倒産する
康太と烈は顔を見合わせて嗤っていた
兵藤は似たもの親子がこんな顔する時は本当に厄介だぜ!と想った
それは榊原も感じていて、兵藤と目が合うと苦笑していた
「なぁ宗右衛門どうするよ?」
「そうじゃな肉を切らせて骨を断つしかなかろうて!それしか生き残れはせぬじゃろ!」
「まぁ総ては妻の尻に敷かれて良いようにされたツケみてぇなもんだからな!」
「うちは傍観を決め込む!
そう運命が出たから手出しは無用じゃよ!」
「うし!了解!ならば傍観決め込むわ!
でもアドバイス位はしてやれよ宗右衛門!」
「儂のアドバイス料は高いぞ!
そうじゃな建て売りの建築資材の釘の開発あたりで手を売ってやってもよいが?」
「だな、ならば蹴り飛ばすか?」
「じゃな!」
話が着くと康太と烈は清和鋼業の社長に向き直った
康太は足を組み唇の端を吊り上げて嗤っていた
烈も同じ様に足を組み唇の端を吊り上げて嗤っていた
最初に切り出したのは宗右衛門だった
「儂は飛鳥井宗右衛門、名くらいは知っておろう!」と鋭い瞳で射抜いた
「オレは飛鳥井家稀代の真贋、顔位は知ってるたろ?」と同じく鋭い瞳で射抜いた
清和和実は青褪めて………小刻みに震えていた
そんな夫の姿を見て、やっと自分の立場を御婦人は知った
清和和実は「存じております!」と言葉にした
「飛鳥井建設に喧嘩を売りに来たのか?
答えられよ、清和和実殿!」
と宗右衛門に問い掛けられ清和和実は
「滅相もありません!飛鳥井建設に喧嘩など売った瞬間に我が社はトドメを刺されてしまいます!お許しを!」と懇願した
烈は「りゅーまカフェの防犯カメラの映像を見せてやるのよ!」と言うと竜馬はPCを開いてフォルダに入れてあった映像を流した
ケバく化粧した女が大きな声で
「飛鳥井建設になんて入社するんじゃなかったわ!イケメンなんていないし、現場から帰ったむさ苦しい男とエレベーターで一緒になった時は地獄よ!汗臭いしホコリ臭いし、本当に私の前に出て来るな!って感じよね!」と似たもの社員と話して盛り上がる映像だった
宗右衛門は「其処にいる社員は全員現場に回した!何故か解るか?清和和実?」と問い掛けた
「建築会社に勤めていて、この発言は許されません………結婚相手が欲しいならば結婚相談所へ逝けば良い!本当に娘は愚かでした!申し訳御座いませんでした!」と立ち上がり深々と謝罪した
「この発言をした女性社員達は総て現場へ配属した!辞表を出す者は今の所は誰一人とはおらぬ!
今後は解らぬが、飛鳥井を辞めて他へ行ける程の資格も経験もなくば、留まり踏ん張るしかないからな!」
「………もっと早くに貴方達とお逢いしたかった……
さすれば我が社は………終焉へは向かう事などなかったのに…………」も本音を吐露した
「主は愚妻を妻に娶り、妻の一族に好き勝手されたのを傍観しておったから終焉に向かうしかなかっただけじゃろ!
完全に終わりたくないならば儂の話を聞くが良い!これがラストチャンスだと儂は申そう!」
清和和実は立ち上がると土下座して
「そのラストチャンスをどうか、どうかご教示下さい!」と頼んだ
「土下座を簡単にする奴は己の矜持を簡単に捨てされる奴じゃと心に刻むがよい!」
清和和実は驚愕の顔をして立ち上がり椅子に座った
己の矜持まで捨てた想いはない………
だが妻の一族の者に愚か者扱いされ過ぎて………その矜持さえ……捨ててしまっていたのか?
悔しくて……哀しくて………遣る瀬無い想いで一杯になる
だが現実が待ち構えていた
今 我が社が飛鳥井建設に喧嘩を売り生き残れる未来など皆無なのは確かなのだ
清和和実は「今回の愚行を招きましたのは、全ては己の判断不足故の事でした
妻や娘を甘やかし好き勝手させた結果がこれでした!これが最期と決めました!
帰宅しましたら妻と別れます!
身勝手に生きて来た妻と娘は此れよりは苦労して人として勉強して行って貰おうと想っています!
この度は本当に飛鳥井建設さんにはご迷惑をお掛け致しました事を後ほど詫びに越させて戴きます!では今日は此れで失礼致します!」と深々と頭を下げた
康太は「娘さんの進退はどうされます?」と問い掛けた
「それは娘に決めさせます!
辞めるならば辞めれば良い!
だが家も追い出すので無職だと詰むのは理解出来るならば、大人の対応をさせます!」
そう言い清和和実は妻である御婦人を強引に引き連れて還って行った
それを見送り康太は「清和って繋がるのかよ?」と問い掛けた
「ギリギリラインだったわ
社長として妻の傀儡だったから好き勝手されて青色吐息なのは否めないからね
でも奮起した今、運命は変わったわ
それは眼を持つ母しゃんなら解ったんじゃないかしら?」と嗤って謂う
「おー!繋がったがこれからの道は修羅の道だ
どの道覚悟が必要な道になるわな!」
と康太は果てを視て謂う
「道なんて本人次第でどうにでもなるものにゃのよ!それを甘んじて流れに任せるから、流れに流れて本来の道が解らなくなるのよ!」
と烈は辛辣な事を謂う
「で、あの会社どうする気よ?」
「あの会社の持つ特殊な螺子は特許を取っているからね、潰れたとしても欲しがる会社は引く手数多にゃのよ!」
烈は計算した紙をコンコンと指差し
「飛鳥井で特許を取る建築資材を開発して貰おうかと想っているのよ!
それで他社と【差】を着けたいからね!」
「おっ!それは美味しい話やんか!
鴨が葱を背負って来やがったな!」
「そうなのよ!母しゃん!
しかもあの娘、崖っぷちに立たされた後は変わるわよ!まるで施工に回した子みたいね変わるのよ
今が分岐点なのよ、まぁ馬鹿な母に甘やかされ姫みたいに育てられたら勘違いするわよね」
烈の言葉に兵藤は「毒親ってヤツか?」と問い掛けた
「そうね、ある意味毒親よ!
蝶よ花よと育て現実を知らせずに育て、お金が底をついたから、いきなり外で働け!うちにはもう遊ばせるお金ないから!
と謂れ我儘放題に育てたのに放り出したんだからね…………そりゃ常識も礼儀も何も知らない子になるしかないわ」
と烈はボヤいた
榊原は「仕事始めから……此れですから覚悟が必要ですね……」とボヤいた
康太も「何人辞めるかな?」と求人を出そうか?と思案する
烈は「誰一人辞めないわよ!そして下地を作ったら来年からは建築科や商業科の新卒を迎え入れる準備をしないとね!」と言った
新卒を取る為の下拵えだと謂うのだ
康太はだからこそあんなに強引に部署異動をさせたのかと納得した
だがまだ烈の髪は風もないのに揺れていた
「でもよぉ、まだ烈の髪揺れてるよな?
まだまだ波乱は続くと謂うのか?」
とついつ康太は謂う
出来るならば、これ以上の問題は勘弁して欲しいからだ
だが烈は嗤って
「ボクね今世紀最大の喧嘩を売るつもりなのよ!
だから巨大なハリケーンを呼び寄せているのよ!
多少飛鳥井も揺れるけど、そんな事で吹き飛ぶ飛鳥井じゃにゃいから大丈夫よ!」とサラッと謂う
榊原は「今世紀最大の喧嘩を売るって?貴方らしくないですね?」と言った
「コケにされているのよ【R&R】は!
今までじぃたんやばぁたんしか使わなかったから猿芸だの使い回しの芸だの謂われているのよ
だからね、そんな事を言った奴等を見返してやるのよ!売られた喧嘩は倍返して返してやるのよ!
それが飛鳥井の漢の矜持なのよ!」
と嗤う
竜馬は嬉しそうに「烈!」と抱き締めた
兵藤はまだまだ扱き使われそうな現実に
「烈といると本当に退屈しねぇよ!」とボヤいた
烈は「仕事始めも終わったし、今夜は料亭で食事しにゃい?」と問い掛けた
「それは良いですね!」と榊原は返した
康太も「おっ!何処か良い料亭は有るのかよ?」と問い掛けた
烈は「兵藤きゅんが探してくれるわ!」と笑う
康太は「おっ!貴史、早速烈に扱き使われてるやんか!」と揶揄した
「美緒に聞いて最高な料亭探してみせますとも!」と口にした
康太と烈はそれを聞いて嗤ったが…………それに気付いたのは榊原だけだった
烈は「じぃしゃんとばぁしゃんに知らせに行かなきゃ!」と言いIDを翳しエレベーターのドアを開けた
そして飛び乗り「さぁ行くわよ!」と謂うと皆がエレベーターに乗った
そして最上階に到着すると烈はエレベーターを降りて相談役の部屋を目指した
下の方でノックすると清隆がドアを開けた
「じぃしゃん!」
孫の姿を目にすると清隆はデレデレになり
「烈!」と言い相談役室へと招き入れた
竜馬と兵藤と相談役の部屋に入ると、康太と榊原も部屋に入った
「じぃしゃん、今日はこれから暴風県内真っ只中になる前哨戦の祝いをする為に料亭を借りてお食事よ!」と謂う
清隆は「飛鳥井は再び暴風圏内真っ只中になりますか!ならば前哨戦の祝いをせねばなりませんね!」と謂う
兵藤は、おいおい!本気か?マヂか?と耳を疑った
社長も呼び寄せて、その話をすると瑛太も
「ならば明日の為に鋭気を養わねばなりませんね!」と謂う
竜馬も飛鳥井の家族は只者じゃない………と今更ながらに痛感した
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