73 / 77

第73話 不穏な空気 ❻

烈達が言葉もなく沈黙に襲われている頃 一生と共に人の世に渡った黒龍は、菩提寺の保養施設にいた 眼の前ではあのお淑やかな女性だった蓮華が、お年寄りを「あ〜、おっちゃん溢れてるって!」と叱り飛ばしていた テキパキ動き回る姿は生き生きして輝いていた 学校が休みなのか?蓮華の手伝いをしている次代の閻魔は、お年寄りに人気のお子様になっていた 利発さが現れ魔界にいた時とは全く違っていた 変われば変わるもんだ………と黒龍は想った その一番最たるが金龍なんだけど…… そんな事を考えている黒龍の横で、一生が何とか兵藤と連絡を取っていた 兵藤は一生からの電話で説明を受けると『了解した!直ぐに正義と連絡と取るとするわ!』と言い電話を切った 一生は康太にもラインを送った 黒龍に呼び出されて今は黒龍と共にいるとラインを送ると 『今どこよ?』とラインの返信が直様来た 「俺は今保養施設にいて貴史が正義を連れて来てくれるのを待ってる!」と送ると 『なら其処へ行くわ!』とラインが入った 康太と榊原は直ぐ様 保養施設にやって来た 「人には聞かせられねぇから3階に逝くとする!」 と謂うと夏海に「貴史来たら3階にいると伝えてくれ!」と言い3階へ上がった 3階へ上がると適当な場所に座り 「どうなってるのよ?」と問い掛けた 黒龍は烈の用で八仙に呼び出された時からの話をした 烈は七賢人八賢者達に竜胆の魂の件に付き話をして、そして堂嶋正義の話をした その時、羅刹天が蠱虫なのでは?と言い 魂に翳りを見せている程なら時間はないと謂れたと伝えた そして堂嶋正義に生き残る手立てを話して選ばせろ!と謂れたと話した 生き残る方法は一つ、堂嶋正義の命を一度断ち、蠱虫を消した後、直ぐ様蘇生せねば助かる道はないと話した 「蠱虫……蠱毒は知ってるが、蠱虫は知らねぇな……」 「羅刹天が禁術とか言ってたから……知る者もいねぇみてぇだったぜ!」 「ならその蠱虫とか謂うの、体内に入って何ヶ月位は生きられるんだよ?」 「まぁ人それぞれだと言ってた たが体内に入ってそんなに経ってないのに、正義の魂が翳ったとしたら、それは正義の体内にいる蠱虫が何らかの危険を察知して、正義の体内から早く出る手立てを用いて、魂を翳らせていると謂れた、そしてそんなに時間はない事も伝えたられた!」 「やってくれたな!」 と康太は悔しそうに呟いた 一生は「烈……何か厳つい大人の中にいて驚いた……」と呟いた 康太は一生を視て「あぁ、七賢人八賢者と星詠みの婆婆は桃源郷の近くに移り住む事にしたのか」と呟いた 一生はあれが七賢人八賢者なのか?と今更ながらに驚いていた すると携帯が着信を告げ、一生はスライドさせ通話を始めた 「貴史、正義捕まったか?」 『久遠の所にいたぜ、今朝起きたら体調が悪くなってて、食べ物を受け付けれなくなって立っていられなくなった程具合が悪かったらしく、迎えに来た政策秘書が久遠の所まで連れて行って診察を受けさせていた! 今何処よ、此れから正義を連れて逝くとする!』 「菩提寺の保養施設の3階にいる!」 『了解、其処へ逝くとする!』 そう言い、通話を終えた すると暫くすると兵藤が堂嶋正義を支える様に連れて来た 堂嶋正義は蒼い顔をして窶れていた その姿にもう本人に問い掛け決断させる時間も猶予もない事を悟る 康太は正義に目を遣り「急激に来たか………オレも烈の所へ逝くから貴史お前も来い!」と言った 康太は神の道を開くと 「此れより一分間は目を瞑れ! 緊急事態故、無理矢理でも此処を通らせて貰う!」と告げた するとフードを被った骸骨が康太の前に姿を現すと『緊急事態ならば目を瞑るとする!此れより一分間は誰も通さぬ!』と約束してくれた 榊原は正義を背に背負うと「行きますよ!」と言い神の道に入り走り出した その後に康太と黒龍と一生と兵藤が続いた 康太は「桃源郷の境界線にある七賢人八賢者の屋敷に繋いでくれ!」と頼んだ 『委細承知した! 逝かれるがよい!』 そう声が響く中、榊原は妻を気遣いながらも走った 出口が眩く光ると、桃源郷近くの境界線にある七賢人八賢者の屋敷の近くに出た 黒龍はその屋敷が並ぶ中で一番大きな屋敷の中へ入って烈に到着を告げた 「烈、今堂嶋正義が来る! だけど彼は酷く憔悴してもう立てない程になってた! もう選ばせるとかのレベルにないから康太達も来た!」と告げた 烈は黒龍の話を聞きつつも「父しゃんと母しゃんも来たのね!」と嬉しそうに笑っていた その顔は年相応に……嫌、とても幼く見えていた 榊原は堂嶋正義を背負い、屋敷の中へと入って行った その後に康太が続き、一生 兵藤が続いて入った 榊原は我が子の傍へ逝くと「正義を連れて来ましたよ!」と言った そして烈の膝に寝るクーを見付けて、傷だらけの体に「どうしたのですか?」と問い掛けた ラルゴは正義を渡して貰うと神髄師に 「何処でやられる?」と問い掛けた 神髄師は「庭に魔法陣を描く故暫し待たれよ!」と言い羅刹天と共に外へと出て行った 烈は両親に蠱虫と謂うのが正義の中にいる事を話し、黒いジャガーが黒龍達が行った後に現れクーと闘ったからクーが傷だらけになったと伝えた 康太は「え?嘘……それって本体?コピー?どっちよ?」と尋ねた 烈は「それね解らにゃいのよ、本体見た事ないからね、どうなのか?解らないのよ」と伝えた 康太は「やっとこさ直接攻撃始めたのかよ?」とボヤいた 羅刹天と神髄師が魔法陣を描いたから堂嶋正義を呼びに来た 烈は母に「黒いジャガーが、お前の大切な者や近いしい者が大量に死ぬぞって言ったわ ボクは別に構わないわよ!って言ったらお前は人間として欠落している!とまで謂われたわよ 酷いわよね母しゃん!」と興奮して母に話していた 「オレ等は例え愛する人が眼の前で殺されようとも、動じる訳ねぇのにな! 愛する人にトドメを刺さねばならねぇなら、それはキッチリとこの手でトドメを刺してやるに決まってるやんか! それが愛した者への報いる愛だかんな! 後で絶望し泣いたとしても、其れが我等が死命だかんな!」 「腕によりかけて殺してやらないとね!」 似た者親子はそう言い嗤った 兵藤は「あ〜もぉ!この似た者親子は! ほらほら、正義が死んじまうぞ!」と言い外に出した 羅刹天は信じられず「彼等は何時もあぁなんですか?」と兵藤に尋ねた 「あぁ、アイツ等は家の為だけに生きているからな!持っている重さが違うんだよ!」と謂う あぁ………家の為だけに生きている姿は曲がらない信念を持って明日を見ているのだろう…… 兵藤は「俺は朱雀として輪廻転生を司る神として、堂嶋正義の命を護らせて貰う!」と言った 烈は草薙剣を出して「ならばボクは聖神として堂嶋正義の命を護らせて貰うわ!」と言った 康太は始祖の御劔を出して「ならばオレも炎帝として堂嶋正義の命を護らせてを貰うわ!」と言った 榊原は「ならば僕は青龍として」と謂うと一生が 「なら俺も四龍が一柱赤龍として!」と謂う すると黒龍が「じゃ俺も四龍が一柱黒龍 龍族の長として!」 「「「堂嶋正義を護るとする!」」」と述べた 青龍には正義の槍を、赤龍は愛と平和の剣を、黒龍は長が持つ龍刀をそれらの手に持ち魔法陣の周りを囲んだ 神髄師は両手に教義の宝剣を手にしていた 羅刹天は修羅の槍を手にして待ち構えていた 羅刹天は「チャンスは一度きり、では行きます!」と言い呪文を唱え、蠱虫の位置を正確に確かめる様に視ていた そして一点に定めると、堂嶋正義の心臓を修羅の槍で一突きにした すると槍で釘刺しにされた堂嶋正義は息を引き取り倒れた 槍に突き刺さった物体が、ぎゃぁぁぁぁ!と断末魔を響き渡らせた 羅刹天は黒い塊が槍に串刺しにされ飛び出して来ると、槍先から黒い塊を手で掴み、槍を引き抜いた 力なく倒れる堂嶋正義を、羅刹天はその場に寝かせた 神髄師は元始天尊の姿になると、堂嶋正義の蘇生を始めた 羅刹天は黒い塊を脇差で串刺しにして烈に突き出し「これはどうする?」と問い掛けた 烈は笑って足元に魔法陣を浮かび上がらせた 「羅刹天、ボクが良いって言ったら魔法陣の真ん中に黒い塊を落として!」と頼んだ グルグル魔法陣が回り紋様を変えて逝く 烈が「今よ!」と叫ぶと羅刹天は釘刺しにした黒い塊を脇差から離すと魔法陣の真ん中に落とした パックリ口を広げた空間は黒い塊を飲み込み蠢いていた 口を広げた隙間から熔岩が吹き出て蠢く 烈は「えんちゃん 無限地獄の焔で消えるかしら?」と問い掛けた すると何時からいたのか?閻魔大魔王が姿を現した 「鬼たちには見張らせておる! 無限地獄で消滅せぬのならば、無限要塞牢獄に閉じ込める故案ずるでない!」 と言いワクワクして答えた 康太は「無限要塞牢獄?それは何よ?」と問い掛けた 閻魔は「無限地獄の奥の奥にある場所に烈が要塞牢獄を作り出したんですよ! 極悪人は総て無限要塞牢獄に放り込むと、法案も通り、更生の余地のない魂は其処へ放り込んでいるのです! あ、あの触覚のいた方の奥じゃないですからね! 烈の案で、完璧な強度を誇る逃げ道0の要塞牢獄を作り上げたんですよ!! 熔解山から運び込んだ特別な鉄で作られ建てられていて、出るのは不可能な空間を作り出したんです!」と謂う 本当に烈と閻魔が揃うとロクな事しないんだから!と康太は想った 烈は「ボク草薙剣出したのに………」活躍するチャンスが全く無かったと残念そうに呟いていた 元始天尊は堂嶋正義の蘇生の儀を成功させ、息を吹き返させた 朱雀がキィィィー!と大きく鳴くと、地面に降りて「正義の命は繋がった!」と言った 烈は羅刹天と元始天尊に深々と頭を下げた そして地面に寝そべる堂嶋正義の上に座ると、頬をペシペシ叩いた 「正義ちゃん、正義ちゃんってば!」 ペシペシ名を呼ばれ叩かれ、堂嶋は目を醒ました すると眼の前に少し怒った烈の姿があり、堂嶋は少し困った顔で「烈君……どうしたの?」と問い掛けた 「正義ちゃんは最近 心が弱る事があったのかしら?」と直球で問い掛けた 「え?………」 躊躇する堂嶋に榊原は烈の体を持ち上げると 「部屋に入ってじっくり聞けば良いのですよ!」と嗤った 「流石父しゃんね!」と烈も嗤う 兵藤は正義を起こして「んとに似た者親子だわ!」とボヤいた 屋敷の中へと皆が入り席に着くと、康太達も適当に空いてる席に座った 閻魔大魔王は「あと少しで地獄へ一名ご案内でしたのにね!」と残念そうに謂う 堂嶋正義は生き返ったは良いが、何が何だか解らないでいた 烈は「正義ちゃん!」と名を呼んだ 堂嶋は「何だ?」と返した 「えんちゃん、正義ちゃんの心の中、釈迦が見てくれたのよね?」と問い掛けた 閻魔は「あぁ、心が弱っているから蠱虫が良い場所あるやんか!と真っ先に狙らって棲み着いた、と申してました!」と答えた 烈は机の上を這って堂嶋の前に逝くと、まじまじと顔を見たから堂嶋は焦った 「レイたん、どう?心の中に闇はある?」と問い掛けた するとレイが姿を現すと何も言わずペットボトルの水を差し出した 「飲むのよ!正義ちゃん!」 堂嶋はペットボトルを受け取ると、蓋を開けて飲み始めた すると黒い涙を流し始めた 烈はそれを視て「心も弱り、弱った心は闇に染まり、蠱虫が好きな状態の出来上がりだったのね!」とボヤいた そして水を飲み干し、黒い涙が透明になると 「父しゃん!頼みます!」と言った 烈に頼まれた榊原は立ち上がり、堂嶋を立たせると渾身の一撃で堂嶋を殴り飛ばした 殴り飛ばされた堂嶋の体は吹き飛び、羅刹天が慌ててそれを支えて椅子に座らせた 宗右衛門の声で「何故殴られたか解るか?」と尋ねる 堂嶋は「………俺が弱いから………闇に染まったからか?」と言った 烈は堂嶋の頬をペシッと叩いた 「正義ちゃんには頼れる存在はいないの? 孤立して……孤独に悩まねばならない程に周りを寄せ付けずに何をしたかったの?」 「烈君………俺は……」 「ボクは正義ちゃんには取るに足らない子供だろうけど、ボクの母しゃんは正義ちゃんの仲間じゃないの?その仲間を拒否って孤立してるって解ってる?」 「君は康太の子だ、取るに足らない子供なんかじゃない!済まなかった……俺は君の眼が怖かったんだ……君とレイの眼が怖かったんだ…… だから近寄れずにいた………だけど君たちを蔑ろになんてしてない…………」 「別にボク達を好きになれとは謂わないのよ! ボクの眼は元々がニブルヘイムの眼だからね ボクの眼が怖ければレイたんの眼も怖いに決まってるのよ だから別にボク達を好きになれとは言わないけど、正義ちゃんの周りには仲間や友人はいなかったのかしら? まぁ闇に染まったその瞳では………何も視えなかったのね……… ねぇ正義ちゃん何が其処まで頑なにさせたの? ボクに言えないならば、母しゃんに謂うと良いのよ!所詮はボクが導く政治家は三木りゅーまだけだからね!」 烈の言葉に自分の思いが突き付けられ 本音を吐露する 「俺は焦っていたのかも知れない……… 貴史と竜馬の変わり様に焦りを感じていたのは確かだ………そして最近は雪哉が体調を崩して入院していて………無事に退院してくるのか? 不安で仕方ない日々を送っていた………」 「何処に入院しているの?」 まさか総合病院じゃないわね?と想いつつ問い掛けた 堂嶋は「飛鳥井の会社の裏に出来たカフェに行って還る最中に体調を崩して救急車で総合病院へ運ばれ入院した!それ以来面会さえ出来ずにいる」と答えた 烈は「母しゃん!」と叫んだ 康太は一生に「雪哉を久遠の病院へ移転させてくれ!」と頼んだ 一生は「貴史、お前も来てくれよ!」と謂うと二人は駆けて行った 烈は呪文を唱えると、その横でレイも呪文を唱え始めた 堂嶋は何をやっているのか?解らすに動こうとして康太に「動くな!正義!死ぬぞ!」と止められた 堂嶋は「え?………何なんです………」と呟いたが、烈とレイの詠唱は続いた 烈はかなり長い間詠唱を続け「師匠!」と呼び球体を渡した ラルゴは球体を受け取り、堂嶋の心臓辺りに球体を吸い込ませると印字を斬り大きな親指で押した 「此れで大丈夫だぞ!」と謂うと烈とレイは机の上から降りて椅子に座った 烈は羅刹天を視て「孤立にさせ、視野を狭め、思考を不安で停止させ正常な判断を狂わす この堂嶋正義はそれをやられたのよ! 一番大切な人間を離す所から、それは始まりジワジワと真綿に包み締め上げる様に孤立させて逝くのよ!すると正常な判断は何時しか取れなくなり、疑心暗鬼で何か正しいのか?さえ判断出来なくなるのよ、羅刹天はその一歩手前辺りかしら?」と問い掛けた 羅刹天は愛した妻が病に倒れた、妻は体の変調を夫には知らせなかった……… 夫の仕事の妨害になると耐えていた……妻の家族からは、此処まで放置したのはお前だと非難を受け、我が子達からも距離を取られていた 今思えば………総てが可怪しいとさえ気付かなかった、気付けずにいた レイは羅刹天を視て何も言わずにラルゴに「お水!」を要求した 湯呑に水を入れて水を汲んで来るとレイに渡した レイはその水を創世記の泉の水に変えて、羅刹天に飲ませた すると羅刹天も黒い涙を流し始めた 烈は「心が弱ってるのに正義ちゃんの儀式を成功させてくれてありがとう羅刹天!」と礼を言った 羅刹天は「烈殿………私は………とうしたら良いんだ? 助けてくれ……もう何も解らないんだ………」と弱音を吐いた 烈は羅刹天の背中を擦ると「不安や疑問、心の澱を全て吐き出すのよ!」と言った 羅刹天は苦しかった日を言葉にして言った それを聞いていた堂嶋も「俺もだ!俺も………どうして良いか解らなかったんだ!」と心の澱を吐き出した 奇しくも、時を同じにして愛する存在と離れねばならなくなったのが発端で、何をやっても上手く行かず………周りの者が総て敵に見えて来た………と言った 振り返れば自分には誰もいなくて……何もなかった 羅刹天と堂嶋は泣きながら何時間も烈に話を聞いて貰った そして全てを話すと心は軽くなり、視界は明るく爽やかな世界が広がっていた 烈は話を聞きつつも神髄師に、羅刹天の家族と連絡を取ってくれ!と頼んだ 神髄師は直様、部下の者を呼び、羅刹天の家族を此処へ連れて来てくれ!と頼んだ そして母には「正義ちゃんの恋人の安否をお願いします!」と頼んだ 康太は黒龍に「久遠の所まで逝って確かめて来てくれ!」と頼んだ 黒龍は即座に人の世に飛んで確かめに行った 烈は堂嶋に「少し前にね神野晟雅の恋人がね、胃痛で倒れて総合病院へ運ばれのよ もぉ神野は不安と哀しみで凝り固まってて、でもボクには平静を装っていたのよ クーたんがね神野の魂は悲しみに満ちている………と言った事が発端でね、病気なのが発覚して、転院させた 正義ちゃんの恋人は大丈夫よ、二人は時放つ運命ではないからね、きっと傍に還るわよ 羅刹天もね、ボタンの掛け違いだからね、もっと素直に思いを伝えるのよ 形振り構わず伝えるのよ、そしたら大切な人との道は再び重なり逝けるわ!」と告げた 堂嶋と羅刹天は「「烈!!」」と感激して名を呼んだ だが烈は話し終えるとバタッと倒れる様に崩れ落ちた 榊原が素早く烈を抱き締めると、ラルゴが 「奥の部屋に寝かせてくだされ!」と言い案内した 閻魔とレイは心配した瞳で烈を見ていた 堂嶋と羅刹天はあたふたして「「烈はどうしたのてすか!」」と聞いた 康太は「ガス欠だろ?まだ体調は本調子じゃねぇからな………」と謂う 榊原はレイに「ずっといたのですか?」と問い掛けるとクーが「そうだぜ!レイは俺と共に此処へ来てずっと息を潜めていたんだ! ついでに閻魔も息を潜めていたんだよ! 見守る為だけに来て下さり、烈を見守っていて下さった!」と説明した 榊原は閻魔に深々と頭を下げた そして七賢人八賢者にも深々と頭を下げ、羅刹天と神髄師にも深々と頭を下げ 「本当にありがとうございました!」と礼を告げた ラルゴが代表して「我等はもう無関係でいる事を辞めたのじゃよ! 烈が聞きに来る事なれば、我等は総ての知識を総動員して答えてやると決めたのじゃよ!」と言った 七賢人八賢者は【我等が弟子の事なればと当然じゃ!】と答えた 初めはラルゴが烈に興味持ち教えを始めた ラルゴが人に己の総てを伝承させる事が不思議で、七賢人の内の三賢人が烈に逢いたいと言い逢わせた すると三賢人は烈の賢さ、そして物事を考える柔和さに夢中になり教えた そして何時しか七賢人が烈の師匠となり教えて逝くと、八賢者も興味を持ち烈と逢いたいと申し出た それが始まりで今では七賢人八賢者の弟子となった 弟子はスポンジが教えを吸収するかの様に理解し、時には矛盾点を突っ突くからその矛盾を話し合い幾夜も幾夜も熱い答弁が繰り広げられた事もある そして今 烈は七賢人八賢者の弟子となり、最期の弟子の背負うべく荷物を少しでも手助けしようと動き出したのだった そして星詠みの婆婆も「我等は一つになり進むと決めてこの地に居を構えたのじゃからな!」とほほほほ!と笑った 閻魔は「我が弟の子なれば当然の事です!」とウキウキと笑って謂う 烈が齎す怒涛の日々に閻魔はすっかり夢中になり、何事も挑戦の精神で今は立ち向かうと決めたのだった だが康太は悪カギみたいな閻魔の顔を見て 「烈と兄者が揃うとロクな事しねぇのな!」とボヤいた レイは烈の寝かされた横に添い寝して、ギュッと抱き締めた 冥府の地下にいた時だって、貴方をどれ程抱き締めてあげたいと想った事か………… だから触れられる今、レイはギュッと烈を抱き締めていた レイの想いが、ぬくもりが、烈を留めて導いてくれるから、烈はレイを抱き締めた 何時の時も……その優しさで包んでくれた存在 二人はギュッと互いを抱きしめていた 暫くすると兵藤と一生と黒龍が戻って来た 堂嶋にタブレットを渡すと動画を再生させた 堂嶋はその動画を涙して見ていた 一生は「雪哉は久遠の病院へ転院させた! 貴史が美緒に頼み口を利いてくれたから今回も話がスムーズに行けた! 雪哉は今 久遠の病院にいる!」と伝えた 兵藤が「総合病院の院長が一度、飛鳥井家真贋と宗右衛門殿に逢えないか?との事だ!」と伝言を伝えた 康太は「一度会わねぇとならねぇのは今の狂った状況を見れば解る………でも宗右衛門のスケジュールを抑えるのは苦しいかもな………」と謂う 兵藤は「烈は?」と尋ねた 「ガス欠で倒れた………年末にあまり数値が芳しくないと謂われたばかりだからな、無理はさせたくねぇんだよ……」 と我が子を案じて謂う 自分も今まで結構無茶を通して来たが、今 烈の親となり自分が無理を通して来た無茶苦茶な現状を目にして………榊原や家族や仲間を心配させたなって解るのだ 一生は「今世紀最大の喧嘩も売るらしいからな、時間に余裕はねぇな……」と現状を踏まえて謂う 其処へ羅刹天の妻が連れられてやって来た その後ろには我が子がいた 羅刹天は妻と子を腕に抱くと、本心を吐露して話をする 警戒していた妻子もその真摯な姿や本音にやっと、羅刹天の想いを知った 何処で間違えていたのか? どんどん距離が出来…………気付けば…………何をしても、何を言っても声は届かず… 絶望の淵に叩き落されていた 妻子も羅刹天に思いを伝えた 話さねば解り合えぬ事ばかり……… 言葉の大切さを胸に秘め、羅刹天は情けない自分を曝け出した 妻子はそんな夫を、父を、受け止め、自分達の思いも告げた 羅刹天は冷静になると堂嶋正義に向き直り 「我等は言葉も想いも足らなかった 大切に思っていても言葉が足らぬと見失ってしまうのだと痛感した 貴殿も………愛する人への想いはちゃんと伝えられる事を願う! 同じ想いを抱いた同士よ!我は貴殿の先行きが光に満ち溢れている様に祈る!」とエールを送った 堂嶋も「ありがとう!貴方も愛する妻子を二度と手放されない事を祈ります! ありがとう、あの潰されそうな想いをしているのが自分だけじゃなかったと解って本当に嬉しかった!ありがとう羅刹天殿!」と礼を伝えた 二人はガシッと抱き合い幸せを噛み締め互いを讃えた 羅刹天は「何時か………貴殿が死して魔界へ来られたならば、この地で酒を酌み交わそうではないか!その前に烈殿に連れられて来られるがよい そしたら酒を酌み交わそではないか!」と友と呼べる存在に言った 堂嶋は「それは嬉しいです、貴方を友と呼んでも宜しいですか?」と心からの言葉を贈る 羅刹天は「あぁ友よ!我が心の友よ!そう呼ばせて下され!」と言い、差し出された堂嶋の手を固く握った そして離れると康太や榊原、そして龍族の長 黒龍に礼を言った ラルゴは「烈は少し寝たら起きて人の世に還る! それまで我等は飲み交わそうではないか!」と言った 七賢人八賢者は【おおぉ!それはよい!】と喜んだ 素戔嗚尊と四鬼が宴会の準備を隣の部屋でする 烈のお布団を四隅に移動させ宴会の準備をする 素戔嗚尊は孫とレイを抱き上げると、布団を畳ませた 畳の上に座り膝に孫とレイを抱く 四鬼はタロウ達と共に宴会の準備をして料理やお酒をテーブルに並べた 榊原も手伝って準備をして、宴会へ突入する 康太は嬉しそうに酒を飲む堂嶋に「雪哉元気だったか?」と尋ねた 堂嶋は「タブレットには少し痩せたけど雪哉がちゃんと喋ってて……面会も出来るから会いに来て!って言ってくれた!」と涙を流し答えた 素戔嗚尊の膝に抱かれ、でも良い匂いがして目を醒ました烈は「お腹減ったにゃー!」と言った レイも目を醒まし「そうねぇ〜」と答えた 素戔嗚尊は烈とレイを座らせると、二人の前に料理を並べた 烈とレイは仲良くそれを食べ始めた 羅刹天は「烈殿、本当にありがとう!私は愛する妻と我が子を手放す事なくいられるのは、総ては烈殿のお陰です!」と礼を言った 烈は「烈と呼び捨てで良いわよ!ボクはらーくんと呼ぶからね!」と言い笑う 堂嶋も「烈君本当にありがとう!俺の命を繋いでくれたばかりか、雪哉も助けてくれて本当にありがとう!」と礼を言った 「正義ちゃんも烈と呼び捨てで良いわよ! あのさ、正義ちゃんの愛する人って……ひょっとしてカフェで仲良くなった茶飲み友達のユキちゃんかしら?」と言い携帯を取り出すと、写真のフォルダの中から烈と竜馬とユキちゃんと仲良く写る写メを堂嶋に見せた 堂嶋は笑顔で烈と竜馬と写る雪哉を目にして 「え?雪哉………え?知り合いなのか?」と問い掛けた 「ボクは毎日自分の会社の見回りをするのよ 施工、レストラン、カフェ、其れ等は今は宗右衛門が管理しているのよ! で、良くカフェに行くと一人寂しくお茶してる子がいてね、話し掛けたのが切っ掛けで仲良くさせて貰っているのよ!」 「なら雪哉が新しく出来た友達って?」 「ボクとりゅーまじゃない?」 堂嶋は信じられない想いだった 雪哉は飛鳥井建設の裏にあるカフェを出て倒れた その日も友達と逢う為に行っていた 最近カフェに行っても逢えないのよね………と淋しそうだった 烈は「りゅーまは今 イギリスでお勉強中でボクは良く入院していたから………カフェに中々行けなかったのよ!」と答えた 堂嶋は「また一緒にお茶を飲んでやってくれ!」と頼んだ 「頼まれなくてもお茶飲み友達なのよ! でも還ったらりゅーまと共にお見舞いに行くわね りゅーまはまたイギリスへ行かないと駄目だけどね、今度のイベントはユキちゃんと正義ちゃんを招待するわよ!」 「それは喜ぶよ!」 堂嶋は心の底からそう言った そして烈の頭を撫でた、横にいるレイの頭を撫で、クーの頭も撫でた 「俺とも友達になってくれないか?」 烈とレイは堂嶋を同時に視て 「ボク達の眼、怖くないの?」と問い掛けた 「怖くないよ………何をあんなにも怖がっていたのかな……今は君達と沢山話しがしたいと想うよ!」 「正義ちゃん、もう友達よ! ボクが正義ちゃんと言った時から友達として見てるから!」 烈が言うとレイも頷いた 堂嶋は嬉しそうに笑った 羅刹天も「私も友達に加えて下され!」と謂うと烈は「もう友達よ!ねっ!天ちゃん、らーくん!」と言った 神髄師は嬉しそう笑い、そして野菜の話に花を咲かせるのだった 烈は「七賢人八賢者の住むこの地にフルーツの木や野菜やフルーツ野苗を植えるわ! 管理はじぃさんとクロスがしてくれるから、そしたら天ちゃんも来て種とか苗とか持って行くと良いのよ、同じ条件で育てても同じのが出来るかは?解らないからね でもね、トライアンドエラーで挑戦しないと何も始まらないからね!」と謂うと神髄師は感激して 「地獄界もそろそろ本格的に食について見直さねば………動物や獣の乱獲が始まって雑草まで食べ尽くし……放っておいたら生きる総てを食べかねない………そんな現状の打破をせねばと思っておるからな………助かる!」 「食もだけど生きるには活気とゆとりがないとギスギスして直ぐに諍いを呼ぶからね……… 今度ボクが魔界を紹介して歩くとするわ! えんちゃんに長く休める時に連絡するから、その予定に合わせて来てくれたなら案内するわよ!」 「ならば烈に案内され魔界を見て回りたいから、時間を作ってくれると嬉しそうわい!」 宴会が終わると康太は「なら還るとするか!」と言った 榊原は洗い物をして綺麗に整頓を終えると「そうですね!」と言った 神髄師はクーの軟膏を烈に渡した 「クーに塗ってやって下され!」 「ありがとう天ちゃん!」 「また崑崙山でお茶をしようではないか烈!」 「ええ、またね天ちゃん、らーくん!」 そして七賢人八賢者に深々と頭を下げ 「お師匠、また来ます! 婆婆もまたね!」 とご挨拶して屋敷を出る 康太も「本当にありがとう!」と言い閻魔と素戔嗚尊に 「兄者、またな!叔父貴もまたな!」と言い屋敷を出た 榊原も深々と頭を下げ、兵藤と一生と共に屋敷の外に出て兄に「兄さん 烈がちょくちょく魔界に行くので面倒お願いしますね!」と言った 黒龍は「おー!解ってるよ、またな青龍!」と送り出してやる 「赤いの、頼むな!」と黒龍は謂う 傍にいられるならば護れ!と想いを込めて謂う 一生は「あぁ、解ってるよ兄貴!」と謂う 烈は「黒ちゃん、近いうちにまた長としての心構えを叩き込みに行くから!」と笑って謂う 黒龍は「あぁ待ってる!だけど無理するなよ! お前は母親に似てるからな、直ぐに無茶するから、程々にしとけよ!」と謂う 烈は「ボクは母しゃんの様に無鉄砲じゃにゃいわよ!」と謂う だがその場にいた全員、お前も十分無鉄砲だよ!と想った 素戔嗚尊は孫とレイの頭を撫で「気を付けて行くのじゃぞ!」と謂う そんな別れを惜しんで、康太達は青龍の背に乗り飛鳥井へと還った 飛鳥井の家の屋上に下ろして貰い、家に入ると時間は午後2時だった 夜に烈は崑崙山へ行きかなりの時間を過ごして来た筈なのに………翌日のお昼過ぎだった 康太は「伊織頑張ったな!」と笑った 榊原は「烈の果てが狂うのは許せませんからね!」と言った 飛鳥井の家に入り応接間に行くと康太は 「取り敢えず弱ってるのまでは、治らねぇから久遠んとこに逝くとするか! 烈、おめぇは夕飯まで寝てろ!」と言い榊原と共に堂嶋を連れて病院へと向かった 康太と榊原が堂嶋を病院へ連れて行くと、一生と兵藤は顔を見合わせて、宴会の準備しとかねぇと駄目かと思案した だが烈は「当分は飛鳥井に来客はないから!」と告げた 一生は「どうしてよ?」と問い掛けた 「ボクの傍にいる方が危険だからね 暫く距離を取らないと駄目にゃのよね……… 寂しいけど…それが一番賢明な判断だと母しゃんだって謂うわ! あきましゃから始まり正義ちゃんまで……だからね 正義ちゃんにはもう魔は近寄れない様に魂を護らせたけど……黒いジャガーが直接攻撃して来てる今 下手には動けにゃいのよ………」 一生も兵藤も言葉もなかった 烈はレイとクーと共に部屋に行き寝る事にした 竜胆の儀式をせねばならないのだ 体力を温存しておかねばならないのだ 兵藤は烈とレイとクーを見送りソファーにドサッと座ると 「何か遣る瀬ねぇな……」と呟いた 一生は「竜胆の儀式までは距離を取るんじゃねぇかって………家族は解っていたみてぇだぜ!」と告げた 「それ……本当か?」 「烈は康太と似てる 康太は何かをせねばならない時は皆と距離を取る そして何が何でも遣り通して来たからな………今回も距離を取るんだろうな…と予感しているだろ?」 「あんなに似なくても良いのによぉ〜」 兵藤はボヤいた 一生も「俺もつくづくそう想うぜ! きっと康太もそれを痛感させられている だから『オレはあんな無茶してねぇかんな!』が口癖なんじゃねぇか!」と謂う 兵藤は「本当に似た者親子だな!」と笑った 堂嶋は魂を吸いつくされそうになっていただけあって、衰弱が見えて入院となった 雪哉と仲良く同室になり入院している! 康太と榊原は帰宅して来たが、夕飯を食べると疲れたと自室に戻り爆睡した 翌日から烈は霊脈が強く地場が安定した地に、総結界を張って竜胆の覚醒の儀の準備をしていた 霊峰御嶽山の三合目に儀式の場を定め準備する それと同時に閻魔を訪ねて何度も何度も魔界へも行った 全てを整える為に全力を注いでいた 烈は【R&R】関係の事を全てストップした 立ち上げようとしたYou Tubeチャンネルも、世界へ向けて発信する事も、総てストップさせた 竜馬と兵藤は2月になる少し前にイギリスへと旅立った 二人が旅立つ前に表面的な事案は総てカタが着いたと話して安心させて旅立たせた 二人には連絡は総てPCで、と言い携帯を総て変えたからまだ作ってないと言った あれから烈名義で携帯を一つ、榊原名義で携帯とタブレットを作った 清四郎が作ってくれた携帯はそのままだから連絡は何時もの様に出来ていた 兄達には烈名義の携帯の番号を登録して貰った 父名義の携帯はまだ誰にも教えてはいなかった 神野達はまた烈と連絡が取れなくなり………寂しい日々を過ごしていた 時々 康太に『烈と連絡が取れねぇんだよ……携帯自体番号が使えなくなっていた』と訴えるが……康太は「それは烈が導き出した事だから、オレには何も出来ねぇ事だから………すまねぇな!」とだけ言った 竜馬はイギリスへ行く前に、烈に自分名義の携帯を渡した 連絡を途絶えさせない為の強硬手段だった それで竜馬との連絡は取っていた それでも『ねぇ烈……何時まで【R&R】の方は保留にしとくの?』と訴えられてはいた 総ては、竜胆の覚醒の儀を終えねば、何も始められはしなかった 榊原と康太と竜胆と話し合い、儀式の日程を決める 覚醒の儀は2月29日に行われる事に決めた 奇しくもこの年は閏年だから、その日に決めた それらの話し合いは総て崑崙山の烈の屋敷で話し合われた 烈の屋敷は最近 倉庫が完成して荷物で溢れ返っていた部屋は片付けられ綺麗に掃除が行き届いていた クーが「猫に雑巾持たせるの烈だけだぜ!」とボヤく テーブルの上もホコリ一つなく拭かれていた 烈はクーに結界を重ねて張らせると 「竜胆覚醒の儀は魔界でやるわ!」と紙に書いて見せた 両親が見て直ぐに烈はその紙を燃やした 榊原は「え?……」と唖然とした 霊峰御嶽山でやるのだと想っていた その為の準備を菩提寺の僧侶や、スタッフを駆り出して日々作っていたのじゃないか? 「幾つか、ダミーとなる場を設けてその日は魔界でやる事にする その日は妨害は覚悟した方が良いからね 幾つかダミーになるべく場所を配置して目眩ましをかけるのよ」と紙に書き、二人が詠み終わると燃やした 其処までの徹底ぶりに、どうやっても横槍が入る事を懸念してるのが伺えられた そして其れさえも妨害されるならば………… 「魔界にも妨害の手が回るならば…………フヴェルゲルミルの泉の前でやるしかない 彼処は誰の手も介入出来ぬ地……ニブルヘイムが其処へ招いてくれると謂うから最終手段は其処に決めているのよ!」 康太はペンを取ると「其処まで妨害されるって事なのか?」と問い質す 「飛鳥井が1000年続く果てへ逝けるかどうかは?竜胆の魂が不完全か?完全になるか?にも掛かっているからね!」と書いて燃やす 康太は此処で飛鳥井の果てが消えるか?どうか?の分岐点になるのは竜胆の魂が完全になるか?不完全なまま終わるか? 其れに掛かっているのだと、理解した 竜胆の魂が不完全なままならば……闘志、闘魂、闘気の運気を詠む竜胆の力を無くす事となるのだ 飛鳥井の一族に喝を入れ奮い立たせ果てへと繋ぐ戦力をなくしてしまうも同然なのだと理解する 康太は「やっと全容を理解出来たぜ!」と書いて燃やした 心の中で何処か腑に落ちない点が多々とあり、何故に其処まで宗右衛門が躍起になっているのか? それが理解出来ずにいた 竜胆の魂が不完全なまま竜胆として力を奮えないならば……飛鳥井は直ぐ様、次代の竜胆を探さねばならない だが今世がキーポイントならば間に合う筈などないのだ! 稀代の真贋は果てを詠み適材適所 配置する者 宗右衛門は一族の秩序を護り規律を護り、飛鳥井の轍のレールを敷く者 源右衛門はその豪快さで敵をなぎ倒し道を作らねばならない時に転生して安定を齎す者 恵方は飛鳥井の未来を視て軌道修正を掛ける者 竜胆は活気気合に満ち一致団結させ一族を導く者 其々に役目も役割も違うが、明日の飛鳥井を創るべく存在なのは確かなのだ 其のどれか一人でも欠けたならば……飛鳥井は来世の竜胆を欠いた状態となる 今から探したとしても間に合わぬ それは即ち致命的な終焉が視えていると謂う事だった 康太は「何が何でも竜胆の覚醒の儀を遣り通すぜ!」と紙に書いて燃やした そして話が終わると烈は「どう?綺麗になったでしょ?」と掃除の行き届いた部屋を謂う 榊原は「流石は我が子です!」と褒めた 掃除、洗濯、と謂う家事スキルを子供のうちから叩き込んだ甲斐があった! 綺麗好きな子達で良かった………と榊原は内心安堵していた 埃で死なない……と言い汚くしてたら、それはもぉ埃で死ぬ目に遭わせてやるモノですが……… どの子も家事スキルが高い子達ばかりだった まぁ……猫にまで雑巾持たせるのはどうかと想うが……それは謂わない事にしておこう!と心に決めた 話し合いが終わると榊原は龍になり妻と我が子とクーを乗せて人の世に還った 2月に入りローテーション部署異動は、最初こそは混乱をしていたが、今は効果を発揮しつつ在った 製図課の子達も何人かは現場に回した その子達は製図を引く上で何を考えて、何に重点を置いて建てるべきか?現場を見て理解したと謂う 自分の引いた製図が職人や大工の手により息を吹き入れられ建物になって行く 自分は最初の1ページを作るのだから、慎重に、尚且、そこに住む人達を想い製図を引くと決めた 机上の空論ならば、どれだけでも引けるし、大変さを知る事はなかった だが今、建築に携わる大変さを知り、考えも責任も変わりつつ在った そんな会社に顔を出しつつ、烈は神野達とは距離を取っていた そして今は真矢と清四郎とも距離を取っていた 2月も中旬を過ぎると、烈は会社に顔を出さなくなった 生活の中心は竜胆を鍛える事に重視していた その合間を塗って烈は凛を連れてホテルニューグランドへと向かった ケントに連れられてホテルニューグランドへ向かうと、ロビーには既に律が事務所の社長と共に来ていた 事務所社長は律を部屋に届けると「総ては宗右衛門殿の想いの儘に!我等はそれに従います!」と言い部屋に入る事なく帰って行った 烈は凛と律を連れて部屋に入るとソファーに座った ケントはお茶を部屋に運び込んでくれ!と電話を入れた 給仕がお茶を部屋に運び込み用意をすると、部屋から出て行った ケントは部屋の方へ引っ込み、烈は律に 「呼び出して悪かったわね!」と話した 律は「べつにかまわないです」と綺麗な発音で答えた 年の割にちゃんと話せる姿は竜胆の魂の欠片のせいなのか? 凛は………律を見ても何も言えずにいた 烈は「律、竜胆に話をしたわ! だから竜胆は律に会いに来たのよ!」と言った 律は「なら、ぼくをころしますか?」と問い質す 宗右衛門は「主を殺しても何も始まりはせぬ! 儂はな律、主が生き急ぎ過ぎておるから、この機会じゃから話に来たのじゃよ!」と言った 律は首を傾げて「いきいそぐ?それってなに?」と問い掛けた 「子役で過ごす事が主が選んだ事なれば何も言わぬが……そうではなかろう?」 竜胆は「律、律、お前はお前の人生を送ってくれ!」と訴えた 「かけら、とらないの?」 「宗右衛門が違う方法を編み出してくれた! その欠片はお前の魂に根付いて取れは出来ない! お前が死したとしても欠片は取る事は出来ないそうだ!」 「そうですか……ならぼくはほんとうにだれからも、ほしがられないそんぞいとなったのですね」 と謂うから烈は律を殴り倒した 「今の事務所は辞めろ!仕事がしたいなら三社共同事務所へ託すとする! そして里親を用意する故、子供らしく生きてはどうじゃ?」 「そんな……」 夢の様な事なんて………考えるだけ無駄だ……… ぬか喜びになるだけだ………と律は心の中で自分に言い聞かせていた 「飛鳥井由依 宗右衛門の事業を手伝ってくれる女性だ、彼女には翔達と同い年の息子がいる! 彼女はシングルマザーで主の話をしたら引き取りたいと申し出てくれた 主は今日から彼女の家で生活するがよい 学校に通い、友だちを作り、普通の生活を初めて、その上で役者として生きたいと申すのならば己の道を逝くがよい じゃが今は駄目じゃ………主の魂は余りにも脆く儚い………誰かが背を押せば生きるのを止めてしまう程に…………な、儚く透けそうじゃよ」 「そーえもん…………」 「主の事務所の社長とは話が着いておる! じゃから主は自由じゃ、もう縛られずに生きても良いのじゃぞ!」 「なんで、ぼくに……」 律は泣いていた 凛は律を強くて抱き締めた 「主の母親は飛鳥井由真、十年以上前に行方不明になってて、凛の母親の遺体が埋められた山で発見された!DNA検査の結果、凛の母親と律の母親には親族関係があったと警察関係者から教えられたのじゃよ! それで一族を調べさせたのじゃよ! もう抜けてしまった一族や残留しておる一族 総て調べて凛の母親 飛鳥井由佳には姉妹がいた事が解った 妹の名は由真、主らは正真正銘、血の繋がった従弟でも在るのじゃよ!」 「ぼくの……かあさんのいたい……みつかったの?」 「凛の母親の傍に埋められていたそうじゃよ! そしてその横に未だ身元も解らぬ遺体が数十体あったと聞く………身元が判明するだけでも奇跡じゃ!そしてその身元から割り出した親族に連絡を取り事情を聞いたそうじゃ 律の母親はある日突然、こつ然と姿を消したそうじゃ!捜索願を出しても何処にも見付からず…… 由佳、由真の姉妹を持つ母親はショックの余りにも自ら命を落とした……… 由真には失踪当時高校生の娘がいた それが由依じゃよ、由依は弟を引き取り育てると申し出てくれた まさか弟が我が子よりも小さいとは思いもしなかったと申しておった 主の血を分けた親族の傍にいるのが一番じゃからな、事務所の社長には話を通した 事務所の社長はそれは喜び賛成してくれ送り出す事にしてくれた!」 律は体の力が抜けた様に泣いた………泣いた事なんてなかったのに涙が出た 其処へ烈が呼んだ飛鳥井由依が部屋を訪ねて来た 部屋を開けた烈は「さぁ律、お迎えよ!」と言った 部屋に入って来た女性は…………記憶も朧気になってしまった母に……雰囲気が似ていた 由依は「宗右衛門、お声を掛けて下さってありがとうございました!」と礼を言った 宗右衛門は「我が子として育てると申した以上は、手放すのは許さんぞ?それでも引き取ると申すのか?」と問い掛けた 由依は「当たり前じゃない!宗右衛門! 我が子としてと戸籍に入れ育てます!」と躊躇する事なく答えた 宗右衛門は「律、この者が主の姉になる由依、今日からは主の母になる人だ!」と紹介した 由依は律の頬に手を当てると 「凛ちゃんを見てたら何処か母さん似てると想っていた……由佳叔母様のお子だったんですね 凛と律が似ていて当たり前だし……こんなにも律は母さんに似ていて……」と頬を撫でた 律はそのぬくもりに戸惑いつつも、安らぎを覚えていた 由依は律に「この子はね誠人と謂うのよ、翔達と同い年で同級生なのよ!」と紹介した 誠人は律の前に立つと「幼稚舎に少しだけ通っていた事あるよね?」と問い掛けた 竜胆は「あぁ、榊原の家にいた時は幼稚舎に通っていたな!」と思い出した様に謂う 誠人は「その時に僕は君の姿を見てるんだよ! あぁ………君は僕の弟になるべく存在だったんだね 宜しくね律!また幼稚舎に逝くんだよね! そしたら僕が毎日送り迎えするからね!」と笑顔で謂う 宗右衛門は「律が大学卒業するまでの学費は宗右衛門の事業の儂の配当金から払うとする! その代わり律を頼むぞ!由依、誠人!」と謂う 誠人は「烈、僕は君の駒になるべく存在ですから!君も大切にするって決めてるんだ! そして君が大切な存在も大切にすると決めている 況してや律は母さんの子供………律が生きて来た境遇は聞いたからね、誰よりも大切に育てるよ!ねぇ母さん!」と謂うと由依も 「ええ、宗右衛門安心して下さい! 凛ちゃん、何時でも律に会いに来て下さいね! 幼稚舎でも仲良くして下さると嬉しいです!」と言い顔を引き締めると律に向き直り 「私は………母が失踪し、心労が祟った父も死去してしまい、頼れる人がいない孤独な人生を送っていました そんな時に優しくしてくれた男と結婚した 夫は………最低な男でした!私はそんな男を夫にしてしまっていて…誠人も殴られたり怪我させられたりしていました 未だに体にはその時の傷がある……… 働かずギャンブルに手を出し、生活費まで持って行くクズでした! 働いても働いてもクズがお金を持って行ってしまうから………生活は楽にならず……そればかりか日々受ける暴力に一緒に死のうと………命を断とうとしました………生きるのに疲れて死を選んだ私達を救ってくれたのは宗右衛門でした! 宗右衛門はクズな夫から私達を逃してくれました そればかりか、身が立つ様にして下さった…… ですから宗右衛門の頼みなれば我等は命を賭しても役目を果たす所存なのです! そんな宗右衛門に我が弟を託された………今日からは貴方は私の子です! 共に生きて行きましょう!」 と言い律を抱き締めた 凛は心の底から安堵して涙を流した 律はその日、由依に抱っこされ新しい家に連れて行かれた この日から名実共に飛鳥井律となった 律達を送り出して烈は「どう?心の重りは取れたかしら?」と尋ねた 凛は烈に深々と頭を下げた 「済まなかった!宗右衛門!」 「ボクもね律があのままなのは、土蔵の中か出した者としては、許せなかったのよ そんな時に律の母親の身元が判明して、律のDNAと鑑定したら一致したから、ついでに関わりなき者じゃないなら………と想い凛の母親のDNAと、律の母親のDNAを鑑定して貰ったのよ そしたら親族関係ありと出たからね、身元を警察と共に探っていたのよ 飛鳥井の一族の中の人間を鴉を使い探らせたりしたら、行方不明になってる姉妹が出て来たのよ で、この前律に逢った時に髪の毛一本拝借してDNAを検査したのよ そしたら身元が判明して、身内がたまたま【R&R】の仕事してくれてる子だったから全て話したのよ!そしたら泣きながら引き取ると申し出てくれてね、それが一番良いと判断して合わせたのよ あのまま不安定なまま覚醒の儀をやれば、負けるかも知れないからね 竜胆の心を安定させる必要もあったのよ!」 もうそんなに時間はないから…… 竜胆は落ち着き払った顔をして笑っていた まるで初代竜胆の様な顔で笑う 烈は「もう大丈夫ね」と安堵の息を吐き出した その後は菩提寺へ戻って鍛錬の日々を送るのだった

ともだちにシェアしよう!