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第二部 復讐鬼の狂気

目の前に無様に裸体を晒して横たわり、恥部を晒している男は、期待に満ちた表情で俺を見上げていた。 じゃらんと足元の鎖を鳴らして、男の股座に這い寄ると、その一物に唇を寄せてやる。 「あ、ああっ……デイトリヒさまぁ。もっと、ふ、深くっ」 先端に浮く雫をわざといやらしく舌を出して舐めとり、焦らす。 この男は、俺を排斥して新しく出来た政府の財務大臣だ。でっぷりと肥え太った壮年の男だが、この男はもうすっかり俺の口淫の虜になってしまったらしい。 白銀の髪をかきあげて、男に流し目を送る。それだけで、男の一物はピクピクしていた。 素直なちん×は中々可愛らしいものだ。 褒美に、髪の先で鈴口をこちょこちょと擽ぐると、もどかしい快感に男はアヒィと鳴いた。 「で、デイトリヒさまぁ、後生だ、早くっ」 この男はマゾヒストだ。 もうそんな必要はないが俺をデイトリヒ様と呼ぶ。 「早くなんだ?はっきり言わねば伝わらないぞ」 「わ、儂の……ちん×を、貴方の口でっ……」 「豚語はわからんな」 「そん、な、ああー」 両足の裏で挟み、こしこし擦る。軽石で丁寧に手入れをしている俺の足の裏は、皮が薄くなって柔らかい。その足で揉んでやると、ビクビク腰を跳ねさせる。 散々焦らした後だから、もう限界のようだ。 「あ、足は、嫌だぁ、足でイキたく、ううっ」 「嫌だ?貴様の薄汚いものは喜んでいるぞ。ほら、無様に鳴け」 「ううっ、い、ああ~でっ、出てしまっ」 「おっと。まだ許さん」 まさに射精する、という瞬間に足を離す。 寸止めされて狂いそうな顔で喘ぐ男を見て俺は楽しんでいた。 元々、俺は嗜虐趣味(サディスト)気味だった。醜男だが、この客の反応は中々可愛げがある。 ちらと壁に付けられた時計を見た。 そろそろ、この客は帰らねばならない時間だ。 俺は娼婦だ。もしこの男が個人的な奴隷ならこのまま焦らて帰らせるが、相手は客。最終的にはすっきりさせてやらねば。 もう焦れに焦れている性器を、俺は一気に喉奥まで招いた。 上顎と舌で挟んで、喉の奥で締め付ける。 「んおっ!あー!で、デイトリヒさまあー!」 そのままじゅぽじゅぽと三往復ほど吸い付きながら扱いてやれば、男はガクガク身体を跳ねさせて射精した。 臭い精液だが、口に含んで溜める。 一滴残らず吸い出すと、くたりと弛緩している男の胸の上に跨り、口を開けて白濁を見せつけてからベッドの上に吐き出した。 「あ、ああ、飲んでほしかった……」 「くっく、俺をイカせれたらな」 「デイトリヒ様を……イカせる男がいますか?ああ、儂がイカせたいっ……」 男は俺の足元に跪き、勃起した性器を舐め始めた。下手ではないが、普通の口淫では中々イケない。 「諦めろ。この後仕事があるのだろう」 「あ、あ、デイトリヒ様の我慢汁っ……もっと舐めたいっ」 「駄目だ。仕事をこなしてからまた来い。貴様は労働する豚だな?それとも餌を食らうだけの豚か?」 「……労働する豚です……」 労働する豚はしょんぼりして服を整える。少し手伝ってやり、さっさと部屋から追い出した。 一人になった俺はふと自分の部屋を見回してみた。 大きなベッド。柔らかな絨毯。どこもかしこも掃除の行き届いた俺の部屋。 納屋から出て2ヶ月。 今やこの王宮の離れが俺の住まいだ。 足枷はされているが、重しはない。両足の間に長めの鎖が繋がれているだけで、大して邪魔ではない。 離れには風呂もあり、侍女も一人いる。食事は三回侍女が運んでくれた。掃除も日に二度、俺が風呂に入っている間に侍女が済ませる。 納屋にいた頃とは大違いだ。 「ふん。2ヶ月でこんなものか。男というものは、なんて馬鹿な生き物だ」 俺が本気になれば、男達はあっと言う間に虜になった。 また高官が通うようになれば、奴らは我先にと俺の待遇を良くし、俺に気に入られようとしてきた。 結果がこの高待遇だ。 よく貴金属類も贈られたが断っている。重いからだ。形が残る身につけるものは、いらぬ執着を産む。 身につけるものは香水だけありがたく頂く。 他の男が贈った香水を付けた俺を抱く男達は、中々可愛げがある顔をするからだ。 次の予定を確かめようと、机の上の暦を見る。予約の客の名が書き付けてあるが、そこに『隻眼』と書かれていた。 「……今日は、奴が来るな……」 そう考えると、ジンジンと腰の奥が疼いた。 舌打ちをして、俺は風呂に向かう。 髪を洗い綺麗にして、少し香油を付けて手入れをする。身体も丹念に洗い、最後に香水を付けた。最近一番気に入っているものだ。 風呂から出れば、侍女がシーツを変えてくれていた。 中々仕事の早い良い侍女だ。 ベッドに倒れこみ、俺はすでに期待で持ち上がり始めた一物を指先で撫でた。 もう、一週間射精していない。 俺を使う男達は、俺をイカせる事が出来ない。奴らは俺をイカせようと躍起になり、より俺に溺れていくので、それはそれでいいのだが。 問題は、俺はすっかりあの隻眼でないとイケなくなったという事だ。 ノックもせず、ガチャリといきなり扉が開く。 今やこの俺の部屋に黙って入ってくるものなど、侍女を除けば一人しかいない。 「……ノックくらいしろといつも言っている」 返事はない。 部屋に入ってきた隻眼の男は、いつも通りの無愛想な仏頂面で俺を見ている。 無言で腰の剣を外し机に置いて、俺の居るベッドへ迫ってくる。 「……く、……んんっ」 奴が近づいて来るだけで、腰が震えて勃起から先走りが垂れた。 情けない話だが、まるで条件反射のように奴の存在が俺の快楽に結びついている。 「……今日こそ、成功させるぞ」 そう言って、隻眼は鎧を外しはじめる。 納屋を出てからずっと練習させられている、射精なしで絶頂する雌イキの事だ。 週一程度の頻度で訪れる隻眼は、その度に仏頂面で俺の尻を責めに責めて抱いたが、結局まだ一度もそうなった事はない。 「もう諦めろ。俺には素質がないのだろう」 「駄目だ」 ばさりと切り捨てて、隻眼は裸体を晒すとベッドの上に乗った。 胡座をかいて座り込み、無言で俺の行動を待つ。 俺は女豹のように尻を上げて、隻眼の方へ這い寄ると、股座に顔を埋めた。 この男には風呂に入ってから来るような気遣いは無いようで、性器はいつも蒸れた匂いがしている。まあ、わざと汚してから来る馬鹿もいるくらいだから、この程度今更気にはならない。 まだ半勃ちの性器を口に含み、丁寧に愛撫する。イかせる必要はない。勃たせればいいのだ。 唾液を絡ませ舐め回したり、わざと唇を窄めて強く吸ったりしてやると、あっと言う間に完全に張り詰め切って反り返った。 その勃起を見ると、尻がきゅうきゅうと疼く。 「もう口はいい」 男はそう言って俺の顎に手をやり性器から離させる。 頷いて見せてから、俺は潤滑剤の小瓶をベッドの横の棚から手に取る。 その中身を尻に塗り込んで、たっぷり濡らした。 「…ふ、……んあ、……濡れたぞ。入れろ」 早くこの男の一物に貫かれ、いい場所をたっぷり擦り上げて欲しい。 この男の尋常じゃないスタミナと精力だけが、俺を満足するまでイかせてくれた。 この男が俺を開発していっているだけあって、他の男よりこの男の一物に俺の尻は貪欲に反応してしまうのだ。 仰向けに寝た俺は足を開いて隻眼を誘う。もう、前戯も必要ではないくらい、俺の尻は解れて熟れきっていた。 隻眼は俺の腰を掴むと、性器を尻穴に押し当てる。 「は、あっ……は、やく、挿れろと……言っている」 しかし、隻眼は挿入しようとはせず、亀頭の先で入り口を捏ねながら俺の乳首を摘んできた。 「いっ!や、めろ!」 この男に乳首を愛撫されるようになり、初めは擽ったいだけだったが、次第に行為中弄られたり舐められたりすると快感を感じるようにはなった。 しかし、性器や尻に比べればまだ足りない。少し()いといった程度だ。 そういえば少年の頃にマクスウェルに抱かれた時、マクスウェルは俺の乳首を舐め回し実に美味そうにしゃぶりつていた。 もちろん、俺もマクスウェルの乳首をいじり倒した。 逞しい老兵の乳首が女のように色づき腫れているという、素晴らしく淫猥な身体にしてやった。 乳首だけでイケるようになってしまってからは、普段は乳首に絆創膏を貼っていたな。 それも堪らなく卑猥で、俺はそれを剥がすのが毎日の楽しみだったのだ……。 「ん、ち、くびはっ……はあ、いいから、早く尻にっ……」 入り口を刺激されると、中が酷く疼いた。もう、この一物の味を覚えた尻は早く食いたくて焦れきっている。 なのに、隻眼はまだ挿れない。 乳首や、首筋、脇腹、臍……様々な場所を指でさわさわと刺激し、もどかしい快楽を与えてくる。 「い、……や、……もうっ……」 そのまま、焦らしに焦らされた。 尻には勃起が押し当てられたり尻の谷間に擦り付けらるのに、挿れられないもどかしさに気が狂いそうだ。 一週間、客との行為で性感を覚えつつも、ずっとイケなかったのだ。 もう限界だ。 俺は娼婦の眼差しで、隻眼に流し目を送る。 「た、のむ……もう、挿れろ。後生だ」 ひくひくと震える腰を浮かせて懇願する。 隻眼はいつもの渋面のまま俺に覆い被さり、体重をかけて一気に奥まで突き込んできた。 焦れに焦れた最奥に、奴の剛直が突き刺さる。 「う゛あ、ああぁぁっ!!」 悲鳴のような声が出て、背中が仰け反る。待ちわびた場所に一気に訪れた強い快感に、俺はたった一突きで打ちのめされていた。 視界がチカチカして、手足が言う事を利かない。 「そのまま……拒むな」 「うあ、あっ、あー!ああぅ、ぅううーー!!」 確かに、いつもと違う感覚だった。 性感が全く制御できない。隻眼の性器が内側を擦り体内深くを蹂躙する動きに合わせて、勝手に腰が揺れつま先がびくびくと跳ねた。 隻眼の激しい動きに、俺は今にも意識を失いそうだ。 これは、この感覚はなんだ。 隻眼は、恐ろしく凶暴で甘美なものを、俺の身体の奥から暴きだそうとしている。 「いや、だあ、ああ、マク、ス……ああ!こん、な!あぐ、ひあ、ああぅ!」 「目を瞑れ。お前のマクスウェルを思い出して、受け止めろ」 「ひ、ああ、マク、す、うぇ、あー、こ、わい、マク……あぐ、ぐうう~~!!」 硬く瞑った瞼の裏に、マクスウェルの姿が浮かぶ。隻眼にマクスウェルの姿が重なって、俺はその肩に縋り付き泣いた。 頭が真っ白になり、下腹部に電流が流れたような激し過ぎる快感に襲われる。 ケダモノのような唸りを上げて、俺は未知の絶頂に翻弄された。 「……く、ッ…」 痙攣する腹の中で熱い精子を吐き出した隻眼は、俺をじっと見下ろす。 俺も、訳が分からなくなりそうな快楽の余韻に溺れながら、奴を仰ぎ見た。 するりと奴の手が俺の性器に触れる。 「……出していない」 先走りでベトベトではあるが、確かに俺の性器は射精していない。張り詰めたままだ。 だが、確かにイッた。 今のが雌イキか。凄い快楽だった。マクスウェルはいつも俺にこんな風にイカされていたのか。 若くはないマクスウェルに、ずいぶん無理をさせていたようだ。可哀想な事をしたものだ。 「…ぁ……く………」 「……言葉もでないか」 「う、………ふぅ……き、さま……覚えて、いろ……いつか、貴様も、同じ目に合わせてやる……貴様のケツを女のようにしてやるからな……」 「元気そうだな。続けるぞ」 「……はっ!?ま、待てっ……き、今日はもう」 はっきり言って普通にイクのとは比べ物にならん程の疲労で、もうやりたくはない。 だが、隻眼は遠慮する事はなく、また俺の身体を掻き抱いてきた。 「はな、せぇ……こ、……この野獣がっ」 「次は出させてやる」 「あ……ぐ、ぅ、ふぅぅっ!」 俺の細腕では拒む事は出来ず、押し退けようとしても呆気なく動きを封じられた。繋がったままの身体を揺さぶられると、この男の性器に馴染んでしまった俺の尻は、勝手に揺れて喜んでしまう。 そのまま抜かずに何度も何度も抱かれ、いつものようにお互いもう一滴も出ないというくらいに犯され尽くした。 「……ぅ…………」 いつの間にか、落ちていたようだ。 だらしなく開いた口から涎が垂れて、シーツに染みを作っている。だが、まだ指一本動かせない。 何時間犯されていたのかわからないが、唯一動く目玉だけ動かし部屋を見回すと、窓の向こうが暗かった。 俺は確かに遅漏だが、この男とすると何度も何度もイカされてしまう。その間に隻眼は俺以上に出しているはずなのだが。 こいつの精力はどうなっているのか。 隻眼は俺の側に座り、俺の髪を片手でで梳きながらぼうっと煙管を吸っていた。 煙草は嫌いだ。臭いし、部屋が汚れる。だが、この客に文句をつけれまい。 奴は俺が起きた事に気づいていないようだった。起きている時にこんな風に髪を愛撫された事はない。 髪に触れる手が、マクスウェルを思い出させる。 事後はいつもこうしてくれていたのだ。 マクスウェルに会いたい。 久しぶりに感傷的になっていると、ノックの音と共に男の声が聞こえてきた。 「……中将。恐れ入ります。国王陛下がマクスウェル中将をお探しです」 「……いないと言え」 その名に、俺は思わず跳ね起きた。 頭が、身体が、凍りついたようだ。 寒気すら覚えながら、俺は隻眼の顔を見詰める。 隻眼は起き上がった俺を、いつもより更に不機嫌そうに眉を顰めて睨みつけていた。 「ま、……くす、……うぇる、だと……」 「…………息子だ」 誰の。とは問う必要はない。 髪や目の色も、顔立ちも声も、似たところなど一つもない。 強いて言えば、体型は似ているだろうか。だが、親子だと思わせるほどではなかった。 マクスウェルに息子が居たなど、俺は聞いたこともない。 昔、妻とは離縁したとだけ聞いていた。葬儀にも、兄弟と親類しか来てはいなかったはずだ。 「信じられん……葬儀の時にも、居なかったではないか」 「……他国へ養子に出されていた」 「なら、何故、今は……マクスウェルを名乗っている」 「養子先が没落したからだ」 淡々と答える隻眼を見ていて、次第に俺は吐き気を催してきた。 ベッドの横の屑篭に顔を突っ込んで嘔吐(えず)く。しかし、苦しいだけで何も出なかった。 息子。 マクスウェルの息子に犯され、善がってしまった。 マクスウェルに手酷い裏切りをしてしまった。 「まさか、貴様は……俺とマクスウェルの事を知っていて、俺を……ッ」 「……ああ」 「クソッ……クソッ……ふざけた事を、俺がどれほどマクスウェルをっ……それを貴様っ」 あまりの怒りと嫌悪感に、身体が震える。俺の身体がもっと頑強なら、この男を殴りつけていただろう。 そんな重要な事を隠して、俺の身体を嬲っていたとは。 「そんなにも、大事か」 「当たり前だ!」 はっきり言い放った俺に、隻眼は初めて不機嫌ではない表情を見せた。 憐れみだ。 「……あの男は屑だ」 その言葉を許せず頬を張った。全力で振り下ろした手のひらが、バチンと乾いた音を立てる。だが、あまり痛がっているようには見えなかった。 「ふざけた事を抜かすな下郎!!マクスウェルは俺のッ」 「お前が産まれた次の日。奴は母と離縁した」 「………なに?」 言っている意味が分からず、俺は隻眼の顔を睨みつける。奴は酷く可哀想なものを見る目で俺を見下していた。 「翌週には、オレを養子に出した……お前の教育係になる為に、本当の妻子は邪魔だったからだ。オレが養子先に送られた次の日、母は池に身を投げた」 少しぼうっとして、マクスウェルの優しい顔を思い出す。 妻子を捨てた後ろ暗さなど、感じた事はない。妻とは離縁した、以外に家族の話を聞いたこともなかった。 事もなげにそう言うから、奥方が自死していたなど思いもよらなかった。 「あの男はお前がこの世に生まれ落ちた瞬間から、お前を我が物にするつもりでいた」 「……赤ん坊の頃からだと?そ、れは……」 「……あの男は、若い頃お前の母親の情夫だった。だからだ」 隻眼の言葉の意味が脳に届くと、目の前が真っ暗になった。 俺と同じ髪と目の色を持つ、母親の姿を思い出す。病で亡くなるまで仕事ばかりで忙しく、ろくに会う事も出来なかった母。 マクスウェルが母の昔の男だと。 いつもは無口な癖に、俺を苦しめる言葉ばかりは饒舌な隻眼は、まだその五月蝿い口を閉じはしない。 「お前は母親の代わりに、慰み者にされていた」 「くだらん!!マクスウェルは、俺を確かに愛してくれていた!!あの、高潔な男が、そんな汚らしい下心を抱くはずがない!!」 「50の男が15の子供に手を出して、汚らしい下心が無いと?」 「……それは、違う!俺が告白をした!俺が告白するまでは、マクスウェルは何も」 「そう育てられた。お前は、あの男だけを見てあの男だけを愛するように刷り込まれた。自覚はないだろうが」 ぐらりと身体が傾ぐ。胸が苦しくて息が出来ない。 身体を折り曲げて呻くと、腹に力が入って体内に出された隻眼の精子が垂れた。 不思議だった事が、一つだけある。 両親は政務で忙しく、滅多に会えなかった。毎日マクスウェルと寝起きしていた。楽しい思い出はいつもマクスウェルと一緒だ。 父母は俺を見てはくれないが、マクスウェルは俺だけを見てくれる。それが幼心に嬉しかった。 だが。 母が臨終の時に、俺の手を取り涙を流して言った。 『マクスウェルばかりではなく、母とも一緒に居てお顔を見せて欲しかった』 自分が置き去りにしておいてと思ったが、きっと仕事が忙しく会えなかった後悔から来た言葉なのだと理解していた。 嘘だったとしたら? マクスウェルが嘘を吐き、俺と両親を引き離していたのだとしたら。 あの言葉は、まさしく母親の言った通りの意味ならば。 「そ、んな、筈はっ……無い……ふ、ははは、俺を謀ろうと、しても、俺は騙されん!!」 「お前は、随分性技に長けている。それは、マクスウェルに仕込まれたのだろう。お前はマクスウェルを抱いていたのでは無い。抱かされていた。本当は抱きたかったようだが」 「……なぜ、そんな事まで、知っていて……」 「遺書があった」 そこで隻眼は押し黙り、煙管の灰を灰皿に捨て、新しい煙草の葉を丸めて火皿に入れる。 火をつけず、そのまま吸い口をガリッと噛んだ。 「……赤裸々な遺書が、オレ宛に遺されていた」 この男がこうもマクスウェルと俺の事情に詳しい事を考えると、その遺書には俺との情事の事まで書かれていたのだろう。 「そこには、自分が死んだ後はお前を守れと書かれていた」 「マクスウェルが……」 もう、体には何も支える力は残っていない。俺はベットに身体を沈み込ませた。 マクスウェルが、自分の死後の俺を案じてくれていたのに、喜びはない。 「……捨てた息子に、臆面もなく自分の情夫を守れと。あの男は、高潔な男ではない」 「………そうか。貴様は俺が憎いから、こうしていたのか」 母の死の原因であり、憎い父の情夫の俺を苦しめる為に抱いていたなら、理解ができた。 しかし、隻眼は首を振る。 「……違う。お前も奴の被害者だ。恨みはない」 「被害者だと……なら、なぜ……」 「お前を抱いているのは、ある男の好みの身体に仕上げる為だ」 火をつけた煙管から煙を吸い込み、隻眼は甘い匂いのする紫煙を吐き出す。 思わず咳き込む俺に煙管を手渡してきた。 「吸え。奴の好きな煙草だ」 「奴……誰だ」 「新しい国王だ。お前には奴を骨抜きにして……寝首を掻いてもらう」 それは、願ってもない話ではあった。 この俺から全てを横取りした下衆の首を刎ねる事が出来るなら、嫌いな煙草も吸ってもいい。 俺は隻眼から煙管を受け取り、吸い口から煙を吸って口に溜めた。肺には入れずに、ふうっと吐き出す。 「……その為に俺を抱いていたのか」 「そうだ」 隻眼は俺の手から煙管を奪うと、灰皿に火のついた煙草の葉を落とした。 そして、再び俺に覆い被さる。 「止めろ!あんな話をしておいて!!貴様にはもう抱かれたくはない!」 しかし、完全に勃起した隻眼の性器を見ると、俺の身体は勝手に火照り無意識に脚を開いてしまう。 悔しくて唇を噛んだ。 「……国王をたらしこむには、まだ足りない。もっと乱れろ」 「な、に……」 「お前には、確実に、果たしてもらう……憎いあの男を殺してもらう」 くぷ、と剛直が俺の尻に埋まり、思わず嬌声をあげた。 マクスウェルに愛されたこの身は、今はマクスウェルの息子に犯され奴の虜にされている。吐き気を催す。狂っている。こんなのは。 「お前は、オレの復讐の為の切り札だ」 暗い目でそう囁いて、隻眼はまた俺を抱く。 復讐の鬼が二匹、いつまでも睦み合っていた。

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