2 / 145

橘雪 2

「たく、誰が爪隠してるって? お前の場合隠しきれてねぇよタコ!」 「……痛い」 ポカッと軽く頭を小突かれて、雪哉は小さく呻いた。 試合後、みなと別れて早々に戻って来た我が家で、ソファで並んで寛ぎながら昼間の試合を見直すのが最近の二人の日課になっていた。 「ちょっと! 恋人に対する扱いが酷いんじゃないですか?」 僅かに頬を膨らませながら抗議すると、隣に座る橘がふんっと鼻を鳴らす。 雪哉と橘は高校時代からの付き合い始め、もうかれこれ5年以上の交際になる。インカレでの活躍もあり、プロへの話も来ていたのだが、どうしても彼と一緒にプレイがしたくて雪哉がその誘いを断り、現在は近年、実業団に力を入れ出したOSCと契約しそこの看板を背負って日々を過ごしている。 いわゆる押しかけ女房のような感じではあるが、男同士という事もあり周囲にはまだ二人の関係性は話せないでいる。 「たく、充分すぎるほど可愛がってやってんじゃねぇか」 「まぁ、確かにそうですけど……。千澄さん、意地悪だから……」 大学卒業を機に、名前で呼べと強要され仕方なく呼び方を変えたのだが、慣れなくてなんだか未だに照れてしまう。 そんな事を考えつつ、そっぽを向いて呟けば、肩を抱き寄せられ顎に指が掛かった。 そのまま上向かせられて、ゆっくりとキスが落ちてくる。 触れるだけの優しい口付けの後、ゆっくりと唇が離れていく。至近距離にある瞳に見つめられると、どうにも気恥ずかしくなって心臓がバクバクと激しく脈打ってしまう。

ともだちにシェアしよう!