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橘×雪哉 昼 2

彼が足早に去って行くのを見て、雪哉は再び大きなため息をつく。 一体なんだったんだろう? 取り敢えず首元を確認しようと立ち上がりトイレへと向かう途中、廊下で数名の女子社員が楽しげに話しながら歩いている姿が目に入った。 「萩原君ってカッコいいよねぇ」 「この間のバスケの試合、一人で100点くらい取ったんだって」 「え、凄くない!?」 そんな女性社員の声が耳に届いて雪哉はぴたりと足を止めた。向こうは此方に気が付いていないようだが、自分の事を言われていると思うとなんとも言えない気恥しさが込み上げてくる。 どうしよう、立ち聞きしてたと思われるのも嫌だけど、何も言わずに横を通り過ぎるのも変だ。かと言ってこの話題の時にいきなり挨拶するのも気まずい。 雪哉が迷っていると、彼女達は雪哉の存在に気付かないまま楽しげに会話を続けていく。 「それにしても今日の萩原君ヤバくない? なんかいつにも増して色気があるって言うか」 「あー、わかる。物思いに耽っちゃってさぁ。色っぽい溜息なんて吐いちゃって。なんか滲み出てるよね」 「!?」 滲み出て……!? 自分では平静を装っているつもりだったのに、そんなに顔に出てしまっていたとは思わなかった。 確かに今日はずっと橘の事ばかり考えてはいたが、まさか顔にまで出ていたなんて。 「ねぇ、彼女とか居るのかなぁ?」 「いるんじゃない? だってあんだけイケメンなんだもん」 「あんな色気だだ洩れの彼氏に迫られたら堪らないだろうなぁ……」 「私だったら毎日抱かれてもいいかも……」 「えー、ずるぅい。あたしもぉ……」 「……っ」 気まずい。流石に気まず過ぎる。このまま聞いていても自分が恥ずかしくなるだけだ。雪哉はそっとその場を離れようとしたが、いきなり背後から伸びてきた腕に強い力で引き寄せられ手で口元を覆われた。 「……実際組み敷かれて啼かされてんのはお前の方なのにな」 ふと後ろから耳に息を吹きかけられて、ゾクっと身体が震える。鼻腔を擽るフレグランスの香りに一気に鼓動が跳ね上がった。

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