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バトンタッチ
「――で? 先輩、用ってそれだけですか?」
居酒屋の一室で向かい合い、小一時間ほど橘からたっぷりとのろけ話を聞かされた和樹は、思わずげんなりとため息をついた。
「いやいや、ここからが本題なんだから。つか、溜息吐くとはいい度胸だなてめぇ」
「溜息だって吐きたくなりますよ。今日金曜ですよ!? 本当ならマッスーの家行って沢山可愛がってやろうと思ってたのに……」
何が悲しくて怖い先輩と親友の惚気話を聞かされなきゃいけないんだ。いきなり今夜空けとけって言うから何かと思ったら。
こんな事なら適当な言い訳を付けて誘いを断ればよかった。たまには行って来いと笑顔で送り出してくれた恋人の顔を脳裏に浮かべて、心の中で謝罪する。
「てか、先輩はいいんですか? 雪哉置いて来てこんな所で油売ってさぁ」
「いいんだよ。アイツは今日一日足腰立たねぇつってたから帰りにケーキでも買っていくから」
「うわぁ……動けなくなるまでヤるって、どんだけなんっすか」
橘の体力と性欲の強さは学生時代からの付き合いでよく知っているが、それにしても限度があるだろう。雪哉は本当に大丈夫なのかと心配になる。
「いや、マジやべぇから。お前も試してみろって」
「うーん……そんな事言っても……」
「お前、自分から強請って来るマッスー見たくないのか?」
「うっ、そ、そりゃ……見たいけど……」
正直めちゃくちゃ興味はある。というより、自分から欲しがる透なんてレア中のレア過ぎて想像出来ない。
あの澄ました顔が快楽に歪んで、理性を無くす程に乱れて、最後には自分を求めてくるとか……考えただけでも興奮してしまう。
「でも、マッスーがOKしてくれるとは思えないんだよなぁ」
「そこはお前、上手くやれよ。なんかないのか? 宿泊研修とかさぁ」
「宿泊……あ……! ある。そういやもうすぐ修学旅行があった!」
「修学旅行つったら4泊5日だろ? ちょうどいいじゃねぇか。修学旅行の間中散々焦らしてやってさぁ」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら橘はビールを煽っている。完全に酔っ払いの顔だ。
これまたとんでもない事を言いだしたな。なんて思いつつ、生徒たちの目を気にして悶々としてる透の姿が容易に想像出来てしまい、思わず口元が緩む。
「取敢えず、やってみろって。本気でやべぇから」
橘はにやにやと笑いながらそう言って、ぐいっとジョッキをあおった。
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