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きっかけ 5

「マッスーって、やっぱ俺より女の子の方がいいんだ?」 「は、はぁ? おまっ、何言ってんだ」 いきなり何を言い出すのかと呆れ気味に顔を上げれば、ぞっとするほど冷たい目をした和樹と至近距離で視線が合った。 まるで、氷水の中に突き落とされたような感覚に陥り背筋に冷や汗が流れる。 「ねぇ、答えてよ。マッスーはやっぱり女の人の方が良いんでしょ」 「んな訳ないだろ」 「嘘つき」 吐き捨てるように言われ、カチンときた。 「いい加減にしろ!」 思わず低い声でそう言いながら、無理やり身体を反転させて起き上がり、ぐいっと彼の胸倉を掴む。 「お前なぁ、いくらなんでもしつこいぞ」 「だって……」 「だってじゃねぇ! さっきのは不可抗力だつってんだろうが!」 全く人の話を聞かない態度に苛立ちが募っていく。 「そもそもお前が先に変な事言ってくるからいけないんだろ」 「変な事って?」 「だ、だから……その、ポリネシアン……セックスとか……」 そう言うと、彼はきょとんとした顔をして首を傾げた。 「なに? したいの? さっきはヤダって言ってたくせに」 「ち、ちがっ……そう言うわけじゃないって! ただ……ちょっと調べてただけで……」 モゴモゴと口籠り、段々と恥ずかしくなってきて、自分のスマホを手に取ると見ていた画像を和樹に押し付けた。 「とにかく! さっきのは、たまたま手が当たっただけだ! 女がいいとか、変な勘違いでみっともないヤキモチ妬くのは止めろ!」 「……」 無言でスマホを受け取った和樹が、キョトンとしながらソレを見て、やがてニヤリと口角を上げる。 「フハッ、マッスーって真面目か! ウケる。ちゃんと調べてくれてたなんて……ププッ」 「くそっ、笑うな馬鹿!」 誤解が解けたのは嬉しいが、かかなくていい恥をかいた気がして居た堪れない。 「あーもう、最悪」 透は溜息をついてから、再びボスンと布団に倒れ込み腕で顔を覆って隠した。

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