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バトンタッチ☆ 2

「……和樹……お前………っ」 「え、えへへっ……。ごめーん。つい、口が滑って……」 てへっと可愛らしく笑う和樹にイラっとして、とりあえずその脇腹を小突く。 「痛っ! ちょっ、待て! 今のは不可抗力だって! 俺は悪くな―いっ!」 「うるさいっ! ナオミさんに変なこと言った罰だ!」 ぎゃぁぎゃぁと言い合いをしていると、不意に入り口のドアベルがカランと音を立てた。 「相変わらず騒々しいな……。いつから幼稚園になったんだ、ここは」 店内にいた全員がそちらに視線を向けると、そこには常連客の理人が眉間に深い皺を寄せながら立っていた。 その後ろには彼の恋人である瀬名の姿も見える。 「あらぁ、いらっしゃい。今ねぇ、アキラ君の体験談を聞こうと思ってた所なの」 「体験談? 珍しいバケモンにでも遭ったのか? ナオミ以上に珍しいバケモンなんて居るとは思えんが……」 「ちょっと!! どういう意味!?」 「……冗談だ。ムキになるな」  野太いキンキン声を上げながら憤慨しているナオミを軽く流しつつ、理人は近くの席に腰を下ろした。 その横では瀬名が困ったように苦笑していて、彼の苦労が伺える。 「アンタの冗談はタチが悪いのよ。全くもう……。そうじゃなくってポリネシアンセックスの体験談。今、仲間内で流行ってるらしいのよ」 「ポリネシアン、ですか……」 「フン。くだらん」 ナオミの言葉を聞いて、理人はフンっと鼻を鳴らしつつ煙草に火を点け、興味なさげにそのまま深く煙を吸い込んだ。

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