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後日談 2
ナオミはそんな二人のやり取りをにんまりと笑いながら眺め、自分用に注いだビールをチビチビと飲みながらカウンターに頬杖を突いて瀬名へと視線を投げかけた。
「で? 結局本当の所はどうなの?」
「……それは僕らだけの秘密です」
理人の肩を抱いたままにっこりと笑んだ瀬名に、ナオミは「あら、やだ」と不満げな声を上げる。
「相変わらず食えないわねぇ。それにしても……。みんなの話を聞いてると、成功率は半分って所かしら」
「ナオミさんは?」
「えっ?」
「自分で体験してみたらいいのに。結構刺激的で良かったですよ」
まさかそう切り返されるとは思っていなかったのだろう。珍しくキョトンとした顔をしてナオミが固まった。
全く、ナオミ相手にいきなり何を言い出すのか。
「あらやだ、マウント?」
「あ、いえ……違うんです。そう言う意味で言ったわけじゃ」
頬に手を当て自分用に注いだビールを煽りながら尋ねられ、瀬名は慌てて首を横に振った。
「じゃぁ、どういう意味かしら?」
「うっ、そ、それは……っただ、何となくそう思っただけで……」
流石の瀬名もナオミ相手では分が悪いようだ。しどろもどろになりながら言い訳を口にする姿は珍しい。
「おいナオミ。あんまコイツを虐めんな」
「やぁねぇ理人。人聞きの悪い事言わないで頂戴! でもまぁ、面白い質問だわ。考えたことも無かった」
そう言って顎先に手を当てると、じっと瀬名を見据えた。
「瀬名君、アタシはね……。みんなの体験したアレコレを聞いてるだけで充分楽しいから、コレでいいのよ」
言い聞かせるように静かな口調で告げたナオミの言葉に、瀬名はハッと息を呑む。
「とか何とか言って、ただ単に相手がいないだけだろ」
「だまらっしゃい! 特定の相手を作らない主義なの!」
ぼそりと呟いた理人のツッコミに、ナオミはいつものような野太いキンキン声を張り上げて反論してきた。
そして咳ばらいを一つすると、自分用に注いだビールに口を付け、ことりとグラスを置いてから言葉を続ける。
「こんな仕事してると、毎日色んなお客さんが来るの。人生に絶望していたり、自暴自棄になっていたり……。そうかと思えば、アンタたちみたいに人目も憚らずにラブラブしちゃうバカップルも居る。でも、アンタ達だってすったもんだあって今があるでしょう? 特に理人なんて、特定の男なんて必要ない! ヤリたい時に出来ればそれでいい。 なんて豪語してたくせに、いざ恋人を作ってみればすっかり骨抜きになっちゃって」
「っ……五月蠅いな。誰がバカップルだ! 誰がっ」
突然自分の話題が出て、居心地の悪さに身じろぐ。キッと睨み付けても暖簾に腕押し状態で、ナオミは怯む様子もなく意味深な笑みを浮かべるだけだ。
「ふふっ。あら、理人ってば自覚なし? まぁ、いいわ。理人の従兄弟の透ちゃんも色々あったけど乗り越えて、今はとっても幸せそうだしね。そう言うみんなの変化を見守るのがアタシは好きなの。ほら、うちのお客さん、若い子が多いじゃない? 恋愛相談される事もよくあるんだけど、みんな素直になれなくて、遠回りしすぎよ。まぁ、そこが可愛いとこでもあるけどね。アタシに恋愛してる暇なんて無いの。それに、もういい年齢だしね」
「ナオミさん……」
「はい、わかったらこの話は終わりにしましょ。アタシはちょっと仕込みしてくるから何かあったら呼んで頂戴」
そう言い残してナオミは厨房へと消えていった。
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