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第2話(天使さんの忘れ物? )
プシュー
扉が開くと共に乗客が乗り込んでくる。
今日も忙しい1日の始まりだ。
(天使さんはいるかな? )
いつもの様に、こっそりミラーで確認する。俺って本当にキモいな…。
(あ、今日は前の方だ。おっ! その席だと、ミラーから見える位置だ! ついてるぞ)
心の中で飛び跳ねながら、俺はバスを走り出した。
信号待ちの度にこっそりと天使さんを眺める。
(今日はなんだか忙しいのかな? さっきから携帯と手帳を見比べてる。大変そうだな~天使さん、仕事頑張って! )
心の中でエールを送りながら眺めてたら、天使さんが顔を上げた。
バチッ!
(やべっ! )
目が合ったような気がして、俺は慌てて目を逸らした。
見てるのバレたかな? 俺はドキドキしながらもう一度見ようか悩んでると信号が青になった。
(ハァー心臓に悪い…余り盗み見はやめよう)
俺は反省して、安全運転に務める事にした。
プシュー
終点の駅に着いた。
「ありがとうございました」
俺は1人1人に声を掛けながら、天使さんが来るのを待った。
「ありがとうございま…した」
天使さんは急ぎ足でバスを降りていった。
(えっ? いつものニコッがない! 今日そんなに急いでたのかな? それともさっき目が合ってキモッって思われて避けられたのかな? )
俺は天使さんの笑顔が貰えず、激しく落ち込んだ。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
若干テンションが低い声で繰り返し何とか乗客の声掛けは続けた。
その時、最後の乗客が俺に話しかけてきた。
「あの~運転手さん。これ落ちてました」
その乗客が俺に渡してきたのは茶色のシンプルな手帳だ。
「あっ、すいません。ありがとうございます。どこの席かわかりますか? 」
「落ちてたのは前から2列目の椅子の所です」
「そうですか、ありがとうございます。預かっときますね」
俺はお礼を言って受け取った。
茶色のシンプルな手帳…手帳…あっ!
(もしかして、これ天使さんの手帳かな? )
俺はさっきミラーで見た天使さんの行動を思い出した。
そういえば携帯、手帳と交互に見ていた。その手帳はこんな感じだったよな?
とりあえず、営業所に連絡がきてるかもしれない。
俺は手帳をしまって残りの勤務についた。
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「上田さん、手帳の忘れ物があったんですが、連絡きてますか? 」
営業所に戻るなり、先輩の上田さんに確認した。
「おい、急になんだ? 手帳の忘れ物? 連絡きてたかな? おい山本、お前知ってるか? 」
「聞いてないですよ。ちょっと待って下さい」
ペラペラと忘れ物台帳をめくる。
「やっぱり連絡きてないですね。まだ落としたの気づいてないんじゃないですか? 」
「そっか~」
もしかして天使さんで、連絡来てたら取りに来る時、営業所に居ようと思った俺だったが、期待外れだったようだ。
「もしかして、天使さんじゃあないのかな? 」
「それ、お前の好きな奴のなのか? 」
「多分ですけどね、確定じゃないです」
「だから、お前連絡きてるか気になったんだな? 取りに来る時、居座るつもりだろ? 」
うっ…さすが上田さんだ、俺の下心がバレてる。
「だって、そこから仲良くなれるかもしれないじゃあないですか? 」
「先輩~、その人がどうかも分からないのに期待しすぎですよ? 」
「うるさい! もし天使さんなら期待していいだろ? 」
少しの希望に縋る俺を呆れた様に見る2人。
その時、営業所の電話がなった。
一瞬3人とも固まった。
この電話は幻か?いやなってるよな?俺は電話をマジマジと見る。
「おい、瀬戸出ろよ! 」
「そうですよ、先輩! もしかしたらもしかするかもですよ? 」
「お、おお」
ふぅ~。俺は深呼吸をして電話を取った。
「はい、習志野営業所です」
少し間が合って、透き通った声が聞こえてきた。
「すいません、今朝手帳を落としたんですが、そちらに届いてたりしますか? 茶色の手帳なんですが…」
この声は天使さんなのか? 似てる様だけど、電話だからよくわからないな。
「はい、届いてます。取りに来られますか? 」
来るなら俺の居る時にしてくれ! 確かめたい。
俺の下心を感じたのか、
「すいません、今すぐ取りには行けないのですが、夜とかっていらっしゃいますか? 」
「何時頃ですか? 」
「仕事終わって、行くので20時は過ぎるかと…」
この営業所は18時で受付は終了になっている。
だが! 確かめる為にはそんな事言ってられない!
俺は勝手に、
「その時間は受付終了なんですが、自分居ますんで取りに来て下さい! 」
「えっ? いいんですか? 」
「はい、大丈夫です! 」
「ありがとうございます! 助かります。18時までに取りに行ける日が休みの日までなくて、困ってたんです」
「全然大丈夫ですよ。お待ちしています。お客様のお名前を伺ってもよろしいですか? 」
「はい、私真白といいます 」
「真白さんですね、では20時頃お待ちしております」
「あの、お名前聞いといてもいいですか? 」
「あ、自分瀬戸といいます」
「瀬戸さんですね、よろしくお願いします」
「はい、では後ほど…失礼します」
電話を切って俺はガッツポーズをした。
「よっしゃー! 」
これで、手帳の持ち主が天使さんか分かるぞ! ウキウキしている俺に、後ろから冷たい視線が刺さる。
「お前って奴は…」
「仕事終わるとさっさと帰るクセに、何が『自分居ますんで』ですよ? 」
ごもっともな事を言われてしまう。
「だって、こうでもしないと天使さんかわかんないじゃないですか? 違ったら明日笑って下さい! 」
「天使さんかどうか知りたいなら中身見たらいいだろ? 」
「そうですよ! 本人確認の為にも見とかないと」
そういえば…本人確認の為に手帳に記載されてる事と照らし合わせるんだった!
浮かれてて忘れてた! でも好きな人の手帳だと思うと、開くのも罪悪感を感じる。
「え~っと、失礼します」
手帳に声をかけ、ペラペラとめくる。
「うわ~凄い! 予定びっしりですね? エリートサラリーマンみたい! 」
俺の後ろから山本が覗きこみながら、感想を言っている。
「お前は見るなよ! 全く…でも凄いな、会議やアポの予定ばかりだ。んっ? 」
俺はびっしり書いてある手帳の所々に♡マークがある事に気づいた。
大体、週2~3のペースでマークがついている。
まさか…
考えたくもないが、あんなに美しい天使さんだ。恋人がいてもおかしくはない。
こんな忙しそうなスケジュールなのに週2.3回会ってあげるなんて、想像通り優しい人なんだな。
さっきのテンションはどこえやら。俺は激しく肩を落とす。
「おい、まだ恋人が居るとは決まってないだろ? さっきのウキウキはどした? テンションガタ落ちじゃないか? 」
「そうっすよ!もしかして習い事とかかもしれないじゃないっすか! とりあえず天使さんなら友達になれるようにしましょ! 」
2人に励まされ、俺もプラスに考える事にした。
「よし! まずはお友達からだ! 天使さんならさり気なく会話を弾ませて、仲良くなるぞ! 」
俺は少し元気を取り戻し、20時になるのを楽しみに待つ事にした。
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