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第3話(天使さんとご飯だと? )
20時が近づくにつれて、俺はソワソワしだした。
全然仕事が身に入らない。
上田さんに仕事渡されたけど、全く進んでなかった。
だってもしかしたら天使さんかもしれないんだぞ?落ち着けって方が無理だろ?
でも、もしかして違ったら…俺は何にウキウキしてたんだろうってなるんだよな?
明日2人に笑われそうだ。
そんなこんなで20時になった。
俺は営業所の扉を眺める。
5分過ぎ…10分過ぎ…15分…
誰も開けないまま時間だけが過ぎていく。
肩に力を入れていた俺はフゥーとため息をついた。
「もしかして場所がわからないとか? それか残業になったから来れないとか? それなら連絡が来そうなもんだけど…あっ! 」
プルルルプルルル
言った側から電話がなった。
「どうか、来れない連絡じゃありませんように! 」
俺は願いながら電話をとる。
「はい、習志野営業所です」
「あっ、すいません。私真白と言って20時頃お伺いする事になってたんですが、今仕事が終わりまして、今から向かっても大丈夫ですか? 」
よかった~来れないじゃなくて! ホッとした俺は、
「全然大丈夫です。あとどれ位ですか? 」
「そうですね、駅まで歩いてそちらまでタクシーで行くので、だいたい30分位だとは思うんですが…」
真白さんの返答にある考えが思いついた。
「それなら自分駅まで行きますよ! それなら15分後位には渡せると思うし」
「そんな…わざわざ悪いですよ」
躊躇する真白さんに俺は被せるように、
「自分、その駅帰り道なのでむしろ助かるので、気にしなくて大丈夫ですよ」
ここでもんもんと待ってるのは辛い。
天使さんなのか違うのか?1人で悩む位ならサクッと渡してしまいたい。
俺は真白さんに負担にならないように誘導した。
「そうですか、それなら私も助かります。では津田沼駅の改札前で大丈夫でしょうか? 」
「はい、大丈夫です。自分180位で黒のダウン来てるんですぐわかると思います」
「はい、ありがとうございます。では、後ほど…」
「はい、失礼します」
「よっしゃー! 」
電話を切って俺はガッツポーズをした。そうときたら、さっさと帰ろう!
俺は仕事を途中で放棄して、自転車にまたがり駅に急いだ。
15分後…駅の改札に着いた俺はわかりやすい所に立った。
これなら遠くからでも俺ってわかるだろ。初めて自分の身長に感謝した。
数分たった所で、後ろから声をかけられた。
「あの~、瀬戸さんですか? 」
「はい、そうです」
振り向いた俺の前に居たのは、紛れもなく天使さんだった。
急ぎ足で来たのか少し息が上がってるが、いつも通り爽やかな顔、フチなしメガネ。
「俺の天使さんだ…」
「はい? 」
心の中で呟いたつもりが、漏れてたようで、天使さんこと、真白さんに怪訝な顔をされる。
「あ、いえ、な、なんでもないです! はい、自分瀬戸です! す、すいません」
「なんで謝ってるんですか? 謝るのは私の方なのに。わざわざ持ってきてもらってすいません」
礼儀正しく、頭を下げてお辞儀をする真白さんに、
「そ、そんな気にしないで下さい! 自分が帰り道だからお願いしたんで! えっと、こちらですね? 」
俺は慌てて自分のカバンから手帳をだす。
「それです! 良かった! 」
嬉しそうに笑う真白さんの笑顔に俺はくぎ付けになる。
なんて可愛い笑顔なんだ! この笑顔だけで晩ご飯のおかずになる!
アホみたいな事を考える俺に、
「受け取っても大丈夫ですか? 」
真白さんが当たり前の事を聞いてくる。
「あ、えっと、本人確認の為、何個か予定を言ってもらえますか? 明日とか明後日の…」
「わかりました。 明日は…で、明後日は…です」
真白さんの言葉と手帳を照らし合わせ、合っていたので、手帳を真白さんに渡す。
「はい、大丈夫です。お渡ししますね。ここにサインだけ下さい」
営業所から持ってきた忘れ物台帳を渡す。
「はい」
真白さんは自分の名前を書き出した。
真白天羅…ましろてんら? てんらだと?
マジで天使さんじゃないか!
俺はビックリして、マジマジと書いた台帳を眺めた。
それをみた真白さんが、恥ずかしそうに、
「変わった名前ですよね? 両親が地上に留まらず、広い世界を掴み取って欲しいってつけたんですが、キラキラネームみたいで恥ずかしくて…」
いや、恥ずかしがるあなたはマジで可愛いです!
こんなやり取りを天使さん(真白さん)と出来るなんて、俺は前世で相当いい事をしたに違いない!
「いやいや、全然素敵な名前じゃないですか! 自分優っていうんですけど、ただ優しい子にってつけた簡単な名前ですよ? 」
「優…瀬戸優…素敵な響きですね」
どこにも素敵な響はないと思うが、真白さんは俺に合わせてくれてる。
(なんていい人なんだ! )
この会話を永遠に続けないが、しつこいと思われたくない俺は、
「では、これで自分失礼しますね」
そう言って帰ろうとした。
「あの、瀬戸さん。この後予定ありますか? 」
「えっ? この後ですか? 帰るだけですが…」
俺は真白さんがした質問の意味が分からず、素直に本当の事を言った。
「もし、ご迷惑じゃなければご飯でも行きませんか? わざわざ来てもらったので、僕がご馳走します」
「えっ? 」
俺は真白さんの言葉に頭が真っ白になる。
(ご飯? 今ご飯行きませんか? って言ったのか? 俺に? って俺しか居ないよな…もしかして幻聴が聞こえたのか? )
俺は自分の願望が言葉になって聞こえてきたのか疑った。
「あの、ご迷惑なら大丈夫ですけど…」
ずっと黙ってたから、そう思ったのか真白さんが遠慮がちに、「すいません」と言ってきた。
「いや、全然! 迷惑じゃないです! 行きましょ! ご飯でも飲みでも! 自分腹ぺこです! 」
俺は慌ててOKを伝えた。
真白さんは驚いた顔をしたあと、フフっと笑って、
「瀬戸さんって面白い人なんですね」
と言った。
「それ、先輩、後輩にも言われるですよ。会ってすぐ見抜くなんて真白さんは観察力ありますね? 」
「そんな、見たら誰でもわかりますよ? 」
真白さんとのやり取りにも慣れてきた俺は、突っ込みなどを入れていく。
「どこに行きますか? 僕なんでも大丈夫ですよ」
少し打ち解けてくれたのか、私から僕になった真白さんが可愛くて、つい抱き締めそうになる気持ちを、グッとこらえ(実際抱き締めたら、変態確定だしな…)
「じゃあ自分がよく行く居酒屋でもいいですか? 焼鳥が美味しくて、って焼鳥大丈夫ですか? 」
「はい、大好きですよ! 」
(大好きですよ…大好きですよ…なんて素敵な響きなんだ! )
俺の妄想が爆発しそうになったので、何とか抑えて、紳士的に振る舞う事に務める。
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