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第4話(て、天使さん? )
居酒屋までの道のり、俺には分かった事がある。
天使さんこと真白さんはよく話す。もっとクールなイメージだったが、色々質問もしてくれるし、質問にも素直に答えてくれる。
これはこれで、変に緊張しないから助かった。
仕事は営業らしいから、話の広げ方が美味いだろう。
年齢は25歳、これは想像通りだった。恋人がいるかはまだ聞けてない。
♡マークがあるから、居るんだろうが、怖くて聞けない。
そんなこんなで居酒屋につく。
『いらっしゃいませ! 』
元気いっぱいの店員が出迎えてくれる。
「2人なんですが…」
「今テーブル席いっぱいでして、カウンターでもいいですか? 」
「はい、大丈夫です。瀬戸さん、いいですよね? 」
「自分はどこでも大丈夫です! 」
気楽に答えて俺は後悔した。
カウンター席に通され思い出した! ここのカウンター席狭いんだった! やばい! 距離が近すぎる!
カウンターの端に真白さん、隣に俺が座るが…近い、近すぎる。膝がくっついてるじゃないか!
俺は真白さんに当たらないように膝を反対側に向ける。
「すいません、席狭くて。自分でかいから窮屈ですよね? 」
申し訳なさそうにする俺に、
「全然大丈夫ですよ。むしろ瀬戸さんのお陰で入口の風が入って来ないので助かります」
素晴らしい返しをしてくれる。
この人はなんて出来てるんだ!
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時間がたち更に分かった事がある。
真白さんは余り酒が強くない。俺は見た目同様、酒が強い。余り顔にも出ない。日本酒もワインも大丈夫だ。
ただ、目の前にいる真白さんは既に顔が赤い。さっき俺のオススメの日本酒を少し飲ませたら、出来上がってしまった。
そして、スキンシップが多い。激しくはないが、さり気ないタッチで余計気になってしまう。この人は会社の飲み会とかでもこんな感じなんだろうか?
こんなんじゃ、みんな恋をしてしまうじゃないか!
「瀬戸さん、聞いてますか? 」
俺が心ここに在らずだったせいか、真白さんが覗きこんできた。
これはまずい…非常にまずい…俺も少しは酔いが回ってる。こんなに近い距離で酔った顔を見せられて、スキンシップもされたら、中学生みたいな俺の理性は持つ気がしない。
「き、聞いてますよ! それより真白さん、明日も仕事ですよね? 時間大丈夫ですか? 」
「あっ、そうですね! そろそろ帰りますか? 」
「そうしましょう! 仕事に支障がきたら大変です! 」
俺は激しく同意をしてみせた。
「なんか瀬戸さん、帰りたそうですね? 僕とはつまんなかったですか? 」
少し残念そうな顔をする。それがまた可愛い!
「えっ? 全然楽しいですよ! ただ、真白さん仕事忙しそうだから、明日寝不足なら大変だと思って! 」
「なら、いいですけど…また行きましょうね? 」
「全然、俺で良ければいつでも呼んで下さい! 」
社交辞令でも嬉しいぞ! 俺はせえいっぱいの喜びを表現した。
「約束ですよ? 」
ニコッと笑って、「帰りますか」と真白さんが財布を出した。
「あっ、真白さん! 自分も払いますよ! 」
俺は慌ててて、自分の財布を出す。
「えっ? でも手帳で迷惑をかけたのは僕なんで、僕が…」
「いやいや、ここは楽しく飲んだと言うことで半分払わせて下さい! っていうか俺の方が飲んだし食べたので、真白さんは…円で大丈夫なんで! 」
本当は奢りたいが、真白さん的には嫌だろうから、少しもらう提案をする。
「でも…いいんですか? 」
「大丈夫ですよ! 今度は真白さんオススメのお店に連れて行って下さい! 」
「じゃあ次は僕が多めに払いますね」
(ハァーなんていい子なんだ! 次なんてあるんだろうか? 連絡先なんてどのタイミングでするんだ? )
自慢じゃないが、今まで自分から連絡先を聞いた事がない。
男同士なんだから、友達のノリで聞けばいいんだろうが、好きな相手には声が上ずってしまい、聞けた試しがない…。
でも、今日は絶対聞くぞ!
会計を終えて店を出る。駅までの道のりで、聞くのか? 改札で聞くのか? 色々考えながら歩いてると、真白さんが少し遅れた事に気付く。
後ろを向くと、真白さんが少しゆっくり歩いてる。
もしかして酔いが回ったのか?
俺は慌てて戻り、声をかける。
「真白さん、大丈夫ですか? 」
「あっ、すいません…少し酔いが回ったみたいで、僕そこの公園で少し休んで行くので、先に帰って下さい」
いやいや、こんな可愛い人を公園に1人で置いて行ったら、危険だろ? この人は危機感がないのか?
「真白さん、俺も付き合いますから、座りましょ? 」
「そんな、悪いですよ…」
「俺が、日本酒勧めたのも悪いので、俺にも責任があります! ほら、水買ってくるんで、先にベンチに座ってて下さい! 」
俺は少し強引に真白さんをベンチに座らせ、自販機の水を買いに行った。
「はい、少し飲んで下さい」
買ってきた水を真白さんに渡す。
「瀬戸さん、ありがとうございます」
そう言って真白さんは、水を少し飲む。
俺は、真白さんの酔いが覚めるまで、隣に座って待つことにした。
(なんか、不思議だな…こないだまで憧れてた人とこうやって隣に座ってるなんて)
俺はこの出来事に感謝をしながら、真白さんの様子を伺う。
色白の顔に赤らみた頬、メガネの奥の潤んだ瞳、水を飲んで少し濡れた唇…
(本当に綺麗だ…)
俺はその横顔に釘付けになる。
不意に真白さんが俺の方を見た。
真正面から見ても綺麗だし、色っぽい。
俺はこの雰囲気に耐えられなくなり、
「真白さん、大丈夫そうなら帰りますか? 」
と、聞いた。
「う~ん、もうちょっと…」
そう言って真白さんは、俺の肩に頭を乗せた。
「!!!!!! 」
俺の心臓が一気に飛び跳ねる。
(肩にコテン! コテンだと? )
俺は心の中で叫んだ! この可愛い生き物はなんなんだ?
落ち着けー落ち着けー、こんな事よくあるじゃないか! 昔も友達が酔っ払って、抱えて帰ったり、おんぶして帰った事なんてよくあるだろ?
酔って肩にコテンなんてよくある事だ!ってないわ~い! ある訳ないだろ? 恋人同士ならまだしも? この人は危機感がないのか? 俺が紳士だと思ってるのか? 男同士だから、大丈夫だとか?
俺はコホンと咳払いをして、平常心を保つ。
「ま、真白さん大丈夫ですか? 」
「はい、ちょっと眠いだけで…重いですか? 」
「全然重くないです! 軽すぎて、真白さんが居ないみたいです! 」
俺は訳の分からない返答をする。
(クソッ! 俺はバカなのか? いやバカなんだが…もっと何か言いようがあるだろ? )
1人でノリツッコミをしていると、真白さんが顔を上げて、俺の方を見た。
「ふふ、本当に瀬戸さんって優しいんですね。瀬戸さんと付き合える、彼女さんは幸せですね」
「い、いや、か、彼女なんて居ないですよ! 俺モテないんで…」
自分で言ってて、情けなくなる。なんで恋してる相手にモテないアピールをしなきゃいけないんだ…
でもこの流れで、真白さんに恋人がいるか聞くチャンスじゃないか!
俺は真白さんに聞こうと思って口を開こうとした。
「ま…」
「本当に居ないんですか? 」
俺が言い出す前に、真白さんが被せて聞いてきた。
「えっ? 居ないですよ? それより真白さんは…えっ? 」
突然俺は唇を塞がれた。何が起こったか理解するまで、数秒はかかった筈だ。
もちろん、塞がれるって事は塞ぐ物がある訳で、俺の目の前には真白さんがいる…という事は、俺は真白さんにキスをされてるって事か?
理解した瞬間、俺の頭は真っ白になった。
(ど、どうゆう事だ? なぜ真白さんは俺にキスをしてるんだ? 俺がうるさいから黙らせようと? )
キスをされてる事はわかったが、何故されてるかは、全然わからない。
考えてるうちに、真白さんが離れた。
俺は相当ポカンとしてたのだろうか?
真白さんはクスッと笑ってもう一度キスをしてきた!
(もう一度だと? )
再度パニックになる俺は、されるがままだった。
ただ、真白さんの唇は柔らかい。されてると当たり前だがムラムラもしてくる。
俺の息子が起きようとしているのを、何とか我慢していると、真白さんの手が俺の太ももを触りだした!
(それはヤバイ! 今触られると完全に起きてしまう! )
俺は真白さんの肩に手を置き、真白さんを俺から離した。
「す、すいません! 俺帰ります! 」
「えっ? 」
驚く真白さんに再度、
「すいません! 」
と言って、俺は走ってその場を去った。
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