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第5話(天使…じゃない? )
「ハァー…ハァー…ハァー…」
「おい、瀬戸! うるさいぞ! さっきからため息ばっかりついて! どうしたんだ? 」
「そうですよ! 今日はずっと変ですよ? 昨日天使さんに手帳渡せなかったんですか? 」
「お前、俺が頼んだ仕事、途中だっただろ? どうせ、来れないとか言われて落ち込んで、帰ったんだろ? 」
2人は好き勝手俺をいじる。
「会えましたよ。天使さんでした…手帳も渡しました…ハァー…」
うるさい2人に報告をしてもう一度ため息をつく。
「おい、会えたんならなんでそんなに落ち込んでるんだ? やっぱり♡マークは彼女とデートの日だったのか? 」
「それは聞いてないです…ハァー…グェッ! 」
俺のため息に痺れを切らした上田さんが俺の首に手をかけた。
「おい! いい加減に何があったか白状しろ! お前のため息聞いてるだけで、うんざりだぞ! 」
「ギブギブ! わかりました! 話しますから腕離して下さい! ゲホッ、ゲホッ!
」
上田さんと山本の心配は分かるが酷くないか? 俺だってまだ気持ちの整理がついてないんだよ! 昨日のあれは夢だったんじゃないかさえ思う。
「とりあえず、何があったんだ? 」
「実は…」
俺は昨日の出来事を2人に話すはめになった。
俺の話を聞きながら2人は驚いた顔をしている。
そうだよな、俺も離してて思うわ。
一通り話したあと、上田さんが、
「つまり、酔っ払った天使さんにキスをされたが、体が反応してしまって、気づかれたらヤバイと逃げてきたと? 」
「そうです…」
「先輩! なんで逃げるんですか? チャンスだったのに! 」
最もな指摘に耳が痛い。
「うっ…だって絶対彼女と勘違いしてたから、そんなんで反応してるのバレたらドン引きされるだろ? 」
「いやいや、向こうからしてきたんだから、関係ないでしょ? そこでキスのテクニックでも見せたら、先輩の方がいいってなるかもしれなかったかもですよ? 」
また痛いとこを突かれる。
「うっ…俺にそんなテクニックなんてないよ」
答えてて、どんどん悲しくなってきた。
「おい、山本。これ以上追い詰めるな。 瀬戸が哀れになってきた」
「だってせっかくのチャンスだったんですよ? もったいない! とりあえず先輩、連絡してもう1回会ってみたらいいんじゃないですか? 酔ってたなら覚えてないかもしれないですよ? 」
「それが…聞く前にキスされて…」
「えっ? まじっすか? 」
「お前それはダメだろ?」
2人にまた突っ込まれる。
「もっと早く聞きたかったけど、俺好きな子に連絡先聞いた事ないから…ハァー! 」
どんどん情けなくなってきた俺は今日1のため息をついた?
上田さんと山本は顔を見合わせて、哀れみの目で俺を見てくる。
「よし! とりあえず今日は飲みに行こ! 俺が奢ってやる! だから元気だせ! 」
「おっ! 太っ腹! 先輩、楽しみましょ!俺がゲイバー一緒に行ってあげますよ! 新しい出会い探しましょ! 」
2人の気遣いに涙が出てくる。こんなゲイの俺に優しくしてくれて、飯も行ってくれるなんて、なんて素晴らしんだ! いつまでもグジグジするのはよくないな!
「よし! 行きましょう! 飲めば忘れる筈だ! 」
俺は半分言い聞かせの様に行って帰り支度をしだした。
ガチャ
「すいません…」
突然事務所の扉が開いた。俺は扉の方を向き、驚いた!
なんと、そこに居たのは真白さんだった!
「えっ? ま、真白さん? どうして…」
俺の狼狽える姿を見て、上田さんが小声で、
「おい! この人が天使さんなのか? 」
と、俺に聞いてきた。
唖然としている俺には、コクコクと頭を上下に振るのがやっとだった。
唖然としている俺の所にテカテカ歩いて近づいてきた。
「瀬戸さん、お話があるんですけど、この後時間ありますか? 」
「えっ? 話? この後? 」
真白さんの糸が分からず、とりあえず飲みに行く事にはなってたから、俺は上田さんと山本の方を見た。
「ぜ、全然お前は予定ないな! な、山本? 」
「はい! 先輩はこの後何もなくて暇ですね! 」
「そうそう、お前は暇だ! 俺たちはこれから飲みに行くから先に帰るわ! じゃあな! 瀬戸、戸締りよろしく! 」
「そうです! そうです! 先輩は暇です!お先です! 」
「ちょ、ちょっと! 」
俺の呼びかけは無視して、2人は荷物抱えて、さっさと事務所を出て行った。
扉に向かって伸びた俺の手は行き場を無くして元にもどる。
その間も真白さんは、真顔で俺を見ている。
(なんだ、なんなんだ? 俺は怒られるのか? )
怖くて真白さんの顔が見れない俺は、違う方に目をやりながら、
「ま、真白さん、話って? 」
と、聞いた。う~ん、我ながら情けない。
「昨日の事なんですが…」
「はい! 」
やっぱり、覚えてるようだ…
「瀬戸さん、なんで急に帰ったんですか? 僕のキス嫌でした? 」
「えっ? そこ? 」
まさか、その質問とは思わず、素っ頓狂な声が出た。
俺の返事に怪訝な顔をしている。
いや、だってそうだろ? 彼女とかと勘違いしたから、忘れてくれとか、昨日何かありましたか? とかの質問だと思ってた俺に、キスが嫌か? なんて、ビックリするに決まってる!
「いや、その…真白さんは彼女さんとかと間違えて俺にキスしたんじゃないのかな~と思いまして…」
「違いますよ、瀬戸さんにしたんですよ? なのに逃げるから、僕は傷つきましたよ? キスして逃げられたの初めてですよ? だから理由を聞きたくて」
俺はマジマジと真白さんを見る。俺の目の前にいる人は真白さんなのか? 同じ顔をしている別人か? 昨日までの優しくて、照れたりしていた人と同じ人か?
なんでこんな意味不明な事言ってるんだ?
「やっと僕の顔を見た! 瀬戸さんって不思議ですね? 絶対僕の事好きだと思ってたのに、全然行動しないから、我慢できずこっちから、動いたのに、それでも逃げるなんて、プライド傷つきましたよ! 」
「いや、ちょ、ちょっと待って下さい! 真白さん、今なんて? 」
「プライドが傷つきました! 」
「いや、その前です! 」
「僕の顔を見た? 」
「いや、その次かな? 」
「瀬戸さんが僕の事好き? 」
「そう! それです! なんでそんな事を? 」
「えっ? 僕の事好きなんじゃないんですか? 」
当たり前の様に聞いてくる真白さんに俺は唖然とするばかりだ。
「いや、その、好きっていうか…綺麗で可愛くて…高齢者や子供にも優して…笑った顔が可愛くて…毎回バスに乗って来るのが楽しみで…ってなだけで…好きっていう訳じゃ…」
俺のしどろもどろの回答に呆れたように、
「あの~それって好きじゃなきゃなんなんですか? 」
「いや、好きなんて申し訳ないです。真白さんは憧れで、俺の天使さんなんです! 」
天使という発言に驚いた顔をした。
そりゃそうだよな、急に天使と思ってたなんて引かれるわ。なんで普通に好きって言えないんだ、俺は!
自分の発言に激しく後悔していると、クスクスと笑い声がした。
「アハハ! 好かれてるとは思ってたけど、まさか天使とまで思われてたとは! 」
一通り楽しそうに笑った真白さんは、改めて俺に聞いてきた。
「ホント、瀬戸さんは面白い人ですね。改めて聞きますよ? 瀬戸さんは僕の事を天使と思うくらい、憧れて好きなんですよね? 」
ズイッと詰め寄りながら、聞いてきた真白さんに、俺は素直にならざるを得なかった。
「はい、すいません。 ずっと憧れて見てました。 大好きです! 」
どうにでもなれと、言い切った!
「ハァー、ようやく言ってくれましたね? 昨日言ってくれたらよかったのに」
「す、すいません」
なんで俺は謝ってるんだ? 告白して怒られてるぞ? そもそもなんで俺は告白をしてるんだ? いや、真白さんに追求されて…ってなんで真白さんは追求したんだ?
「えーっと、真白さん? 気持ち悪いとかないんですか? 」
俺には真白さんの態度が理解出来なくいた。
男から告白されても、全然気持ち悪がってない真白さんが不思議でならなかった。
俺の質問に、また呆れたように、
「瀬戸さんってバカなんですか?
気持ち悪いと思ってたら、自分からキスしないし、まず一緒にご飯も行かないですよ? 」
「じゃあ、なんでキスしたんですか? 酔ってたからですか? 」
「瀬戸さんって、本当にバカなんですね? 」
さっきから、バカ呼ばわりされている。だって分からない。
こんな綺麗な人で、優しくて…今は怖いけど、俺にキスする理由が思いつかない。
「すいません…でも分からなくて…」
真白さんは大きくため息をついた。
「瀬戸さんの頭には、僕が瀬戸さんを好きっていう発想はないんですか? 」
「えっ? 好き? えっ? えーっ?! 」
俺は心底驚いた! 正直、全く考えても無かった…
「ま、真白さんが俺を好き? そ、そんなまさか? 」
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