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第3話
かなり服も乾いたとはいえ、これで交通機関に乗るわけにもいかないだろう。
しかたなく海里は青年を家に入れた。
「風呂はここ。シャンプーとか適当に使っていいから」
真っ先に青年を風呂場へ案内した。
「狭い」
「悪かったな。日本じゃ、これぐらいが普通なの。そういえばおまえ」
「ラルスだ」
「ラルスは日本語うまいけど日本人なのか」
「違う」
「ひょっとして、ベリメール人?」
表情は変えなかったが、少しの間をおいてからラルスは話を逸らした。
「こんなに狭くては、海里も一緒に入れないではないか」
「俺は後から入るから気にしなくっていいよ。わーっ!」
風呂場から出て行こうとした海里に冷たい水が降りかかった。
「こらやめろ!」
笑いながらハンドルを回しているラルスの手をつかんでシャワーを止めた。
見た目から海里は彼が同い年位かと思っていた。だが、ハンドルをひねってはしゃいでいる姿は、まるで小学生以下だ。さすがにこんな大きな小学生はいないだろうが。
「反対の赤い印が付いたハンドルを回すとお湯が出るから」
「こっちか」
そう言ってラルスがハンドルを回すものだから、お湯になる前の水が再び海里を襲った。今度はかがんでいたため、頭のてっぺんからつま先まで濡れた。
ラルスは「すまない」と謝りながらも笑いをかみ殺している。
海里がTシャツを絞っていると、ラルスはシャンプーを海里の頭にたらした。
これでは風呂場から出るに出られない。結局狭い風呂にふたりで入ることになった。
頭を洗え、背中を洗えとラルスは次々と命令してくる。その上、力が強いだの弱いだのかなり我がままだ。
「どこの王子様だよ」
苦笑いしながらも逆らえず、海里はラルスの全身を洗ってやった。さすがに男にとって大事な部分だけは、本人が自主的に洗っている。
困らせようと海里が洗ってやろうとすると、全身を真っ赤にして彼は嫌がった。
ラルスとの風呂はまるで幼い頃に戻ったかのような楽しいひと時だった。
彼も心から笑っているようだった。
そんな彼と目が合うと海里も自然と顔がほころび久々に大笑いをした。
風呂から上がってラルスを椅子に座らせ海里がドライヤーをかけてやると、銀髪は本来の艶やかな光を取り戻し始めた。
触り心地の良い柔らかな髪は、子犬をなでているようでいつまでも触っていたくなる。
ラルスもさっきまでの俺様オーラをしまい込み、気持ちよさそうにうたた寝を始めた。
どれくらい海を漂っていたのかわからないが、かなり疲れているに違いない。
なでていた手を止めるとハッとしたようにラルスは目を覚ました。
しばらく視線を漂わせていたが、鏡の中で海里と目が合うとほっとしたように微笑んだ。
遅い朝食をとり、ラルスにベッドを貸した。
よほど怖い目に遇ったのだろうか、何度かうなされていた。
海里が優しく彼の髪をなでてあげると、穏やかな寝顔になった。
ラルスは夕食に一度起きたが、再び翌朝まで眠った。
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