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第6話
警察に連れていかれてから二日目にして、ようやく海里は釈放された。
家に帰るとスマホが鳴った。上司からのものだ。
どう話せばいいのか悩みながら、ゆっくりと通話ボタンを押した。
『羽田! なにやらかしたんだ! 朝一番にいきなり社長命令で羽田の解雇が決まったぞ。とりあえず自主退職あつかいらしいから、明日会社へ出てこい』
用件だけ言うとあわただしく通話は切れた。
ラルスを助けてから海里の生活は激変した。
なにか悪い事をしただろうか。それどころか人を助け、得体のしれない青年に親切にしてあげただけだ。
その見返りが逮捕と解雇とはひどすぎる。
なにもする気にならず、海里は椅子に腰かけてテレビのスイッチを入れた。
情報番組では今はやりのインスタ映えする食べ物の紹介をしていた。
いつの間に寝ていたのか、気づくとレアアースの説明が行われていた。
「教授!?」
画面いっぱいに映っていたのは、海里が大学時代に世話になっていた教授だった。教授はベリメール王国でレアアースの発見をしたときの調査団を率いていた。
『T大学とM商事が共同でベリメール王国のレアアース開発に携わるということですか?』
M商事は海里が解雇を言い渡された会社だ。
『王太子自らが今回の交渉のために来日していたというのは本当ですか』
『はい。昨夜ようやく話がまとまったので今日の発表となりました』
教授は笑顔で答える。
『王太子はかなりのイケメンとお聞きしていますが』
女性アナウンサーが声を弾ませて訊ねる。
『ええ、そうですね。ラルス王太子は女性が思い描く理想の白馬の王子様です』
――はあ!? ラルス、ラルス王太子って言ったか!!
海里が驚いたところへ、さらに来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。
あせって立ち上がり、椅子は倒すしテーブルの角に足をぶつけた。やはりついていない。
開けたドアの向こうには白馬の王子様が立っていた。
急いで部屋に入るとラルスはドアに鍵をかけ、息を切らして言った。
「海里を迎えに来た」
「なに言ってんだ! 俺はおまえのせいで逮捕され、とどめは解雇だ。金輪際おまえに係わる気はない!」
「すまなかった。警察に海里が捕まったのは私の本意ではない」
「ならなぜすぐに誤解を解いてくれなかったんだ! どんなに俺が心細かったかわかるか」
このまま刑務所へ送られるのかと震えながら長い夜を過ごした。
ラルスにもう会えないのではないかと思うと涙があふれそうになった。
「やっと釈放されたら無職になるし、おまえと関わってからロクな事がない。おまえは人魚でも白馬の王子様でもなく疫病神だ!」
「ごめん」
ラルスの低い声が耳元で聞こえる。
海里は彼に抱きしめられていた。
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