29 / 50
第29話
再び、弘の方に身体を傾けた。
ちょうど支度を終えた弘と、目が合った。
薄茶色の前髪から覗く、薄茶色の瞳。
ヘッドライトの明かりに優しく照らされた弘の顔を、じっと眺めていた。
「すごい目力」
「すいませ…あ。すいませ…あ」
謝ったことに、謝ってしまった。
弘が口に手をやり、声を上げて笑った。
「ねぇ、まこ。まこは本当に面白い人だと思う」
「…笑うなよ」
「ごめんごめん。でも、そういう所、好きだよ」
何とも軽々しく、”好き”と言われてしまった。
面白いなんて、言われたことはない。
自分を取り巻く人間からは愛想のない、つまらない奴だと言われてきたからだ。
「まこは”猫目”なんだね」
「猫目?」
「目尻がキュッと吊り上ってて、猫みたいな目のこと」
「それ、狐目じゃなくて?」
違うよ、狐目はこうでしょ。
そういうと、弘は両手の人差し指を自分の目尻に当てて、左右に引っ張った。
「こうじゃなくて、目は丸いんだけど、目尻だけが吊り上ってるの」
「言われたことないな。」
「それで、髪が真っ黒だから、黒猫みたいだな、と思った」
「…そう、ですか」
弘は満足そうに、にこにこ笑っている。
結局何を伝えたかったのはよく分からなかったが、
弘には俺が”黒猫”みたいに見えるらしい。
ともだちにシェアしよう!