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第29話

再び、弘の方に身体を傾けた。 ちょうど支度を終えた弘と、目が合った。 薄茶色の前髪から覗く、薄茶色の瞳。 ヘッドライトの明かりに優しく照らされた弘の顔を、じっと眺めていた。 「すごい目力」 「すいませ…あ。すいませ…あ」 謝ったことに、謝ってしまった。 弘が口に手をやり、声を上げて笑った。 「ねぇ、まこ。まこは本当に面白い人だと思う」 「…笑うなよ」 「ごめんごめん。でも、そういう所、好きだよ」 何とも軽々しく、”好き”と言われてしまった。 面白いなんて、言われたことはない。 自分を取り巻く人間からは愛想のない、つまらない奴だと言われてきたからだ。 「まこは”猫目”なんだね」 「猫目?」 「目尻がキュッと吊り上ってて、猫みたいな目のこと」 「それ、狐目じゃなくて?」 違うよ、狐目はこうでしょ。 そういうと、弘は両手の人差し指を自分の目尻に当てて、左右に引っ張った。 「こうじゃなくて、目は丸いんだけど、目尻だけが吊り上ってるの」 「言われたことないな。」 「それで、髪が真っ黒だから、黒猫みたいだな、と思った」 「…そう、ですか」 弘は満足そうに、にこにこ笑っている。 結局何を伝えたかったのはよく分からなかったが、 弘には俺が”黒猫”みたいに見えるらしい。

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