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第32話

「だから、待ってっ…て…ば……」 「だめ…?何度かこうしてたら、慣れてくるよ…」 弘は小声でそう呟くと、腰を柔らかく動かし始めた。 起こしていた上半身を折りたたむように倒すと、 より深く、奥に食い込んでくる。 すぐ近くに寄せられた弘の顔が、恥ずかしくて見られない。 視線をわざと下に落とすも、 口を塞がれて無理やり顎を引き上げられた。 相変わらず疼く下半身の違和感は、 舌を絡められる口元の交わりに掻き消される。 弘の顔を見ると、眉間に皺を寄せながら、 少し苦しそうに鼻で息をしていた。 自分の力ではどうすることもできないことに、 もどかしさを覚える。 脱力しているつもりでも無意識に働く身体の強張りが、弘を追い立てているようだった。 「…ごめん…苦しい…?」 話し掛けると、弘は目を見開いて、口を離した。 「何か…苦しそうだから」 「ううん、気持ち良い。気持ち良くて、余裕が、なくなってきた」 そう言って優しく微笑む弘の前髪の隙間から、一筋の汗がゆっくりと流れ落ちてきた。 気持ち、良いのか。 自分にその余裕があれば良かったけど、 弘がそう言っているのならそれでも良い気がしてきた。 右手の手の甲で、額から流れ落ちてくる弘の汗を 前髪ごと拭い上げた。 真っ白な額が露わになる。 美しく整った、綺麗な顔。 暗がりの中で微かに揺れる薄茶色の瞳を、まっすぐに見つめた。

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